聖誕祭
「えっと、イエローやマゼンタ、シアンの三色の花弁があって、どの性質を持っているか握ると教えてくれるんだ」
「へぇ~。面白い花ですね……。ん? ぼく、その花を持った覚えがある気がします。お母さんと森に住んでいた時、握ってみても何も起こらなかった花……。もしかしてあれが三原色の花って言われているやつなんですかね。お母さんは必死になってイエローと言ってくれましたけど……、今思うとぼくを守るための嘘だったのかも」
「ますますミルの髪が金髪の可能性が出てきた……」
「キースさん、ぼくが金髪だと嫌ですか?」
「全然嫌じゃないよ。むしろ嬉しい……。ミルとの共通点が出来て、親近感がわくよ」
「確かに……。境遇は似てますけど、共通点は初めてですね……。えっと、シトラさんの髪色は……、何なんですか?」
「シトラの髪色は……、銀髪だよ」
「ぎ、銀髪……。ぼくたちと同じ三原色の魔力を持っていない髪色なんですね」
「そうだよ。シトラは僕以上に嫌われていた。銀髪の狼族は同じ獣族ですら嫌っていた。僕の死んだ母さんが奴隷にされているのを見て買ってきたんだよ。シトラはその時、三歳だったけど、同い年だった僕は一目惚れしちゃってさ……」
「ひ、一目惚れ……。キースさんに一目惚れさせるなんていったいどれだけ可愛かったんですか……」
「初めて見た時はすごくみすぼらしかったんだよ。ミルと初めて会った時と同じくらいボロボロで瞳が死んでた。僕が抱き着こうとしたら股間を蹴られて悶絶したよ」
「シトラさんからして、キースさんの第一印象はあんまりよくなかったんですね」
「そうみたいだね。でも、母さんが僕の専属のメイドとしてシトラを起用したんだ。そこから少しずつ仲良くなったんだよ」
「へぇ……。キースさんも凄く壮絶な過去があるんですね……」
「僕はまだましな方だと思う。シトラは生まれた時から忌み嫌われて生きてきたんだ。シトラが家を追い出されてルフス領にいると言うことがわかってから、僕はシトラのことだけをずっと考えてきた。はっきり言ってシトラ以外のことは考えたくなかった。でも僕はある時、気づいたんだよ……」
「気づいた? いったい何に気付いたんですか?」
「僕はシトラに依存していたんだって……。何もかもシトラに頼り切っていた。心の安定はシトラに任せっぱなしだったし、情けない発言ばかりして愛想をつかされていたのかもしれない。依存しているとわかってから、シトラに相応しい男になろうって努力し始めたんだ」
「じゃあ、キースさんの強さの源はシトラさんってことですね」
「シトラもあるけど……。最近はミルも増えた。ブラックワイバーンの時だってミルに死んでほしくなかったから全力で走ったし、守ろうとした。まだ、妹みたいな感覚でしかないけど、凄く感謝してる」
「うぅ……、キースさん。ぼくはキースさんのもとを離れたりしません。今のキースさんでいてくれたら、それだけで十分です」
ミルは僕にムギュっと抱き着いてきて尻尾を振る。
「僕を支えてくれてありがとう、ミル。感謝の気持ちだけは忘れないようにしたいから、毎日言うよ」
「ぼくの方こそ、汚い野良猫を拾ってくれてありがとうございます。この御恩は一生かけて返していきます」
僕はミルの髪を纏め、お団子状にして寝やすいようにした。
「これでよし。それにしても、金髪ってこんなに艶々何だね。光り輝いているみたいだよ」
「そうなんですか? ぼくは毛先しか見えないのでよくわからないんですけど」
「鏡のあるところで髪を見たらわかるよ。さ、今日はもう遅いから、早く寝た方がいい。明日も仕事があるし、ミルはすごく疲れたでしょ」
「はい、凄く疲れました。でも……。こうやってキースさんに抱き着いて眠れば疲れなんて飛んじゃいます」
ミルは先ほど以上に密着して僕に抱き着いてくる。
月明かりで照らされている髪と肌はとても綺麗で艶めかしい。肌触りが良くて高級な絹のようだ。
シトラと言う愛する人がおらず、ミルが成人していたのなら、すぐにでも唇を奪って襲っていたかもしれない。そんな妄想をしてしまうほど、ミルの存在は僕の中で大きくなっていた。
『スゥ……、スゥ……、スゥ……』
ミルは疲れからか、すぐに眠ってしまった。
僕はミルから離れ、黒卵さんを抱きしめながら鍛錬をする。魔法の鍛錬を行うも一向に上手くなる気がしない。物理攻撃が効かない相手に対して僕達は無力だ。そうなった場合、魔法が少なからず必要な時がくる。
黒卵さんが眼を覚ますまであと二カ月くらい。
いったい何が起こるのか想像できないが、黒卵さんの質量は日に日に重くなる。卵自体の大きさは変わっていないがずっしりと重い石が毎日増えている感じだ。その変化に加えて僕自身も強くなっている気がする。
毎日背負って動いていたら重さに体が慣れ、筋力が増えているように思えるのだ。でも、無駄な筋肉はつかず、必要な筋肉だけついているみたいで、ガチガチの筋肉の塊と言う訳ではない。それでも、半年前に比べたら体つきは歴然になっている。シトラと会えば惚れ直してくれるかもしれない。
僕とミルは次の日もホーンラビットを倒してギルドに持っていく。ギルドで三原色の花を買い、ミルに握らせると無反応だった。つまり、金髪で間違いないと言うことがわかった。
その後にアイクさんのお店で働いた。
僕達は仕事漬けの日々を二周間ほど続け、一二月二五日(日曜日)の聖誕祭の日がやってきた。
「ふわぁ~。むにゃむにゃ……。ん? こ、こ、ここ、これは……。神様からの贈り物」
ベッドで眼を覚ましたミルは枕元に置いてある赤い紙と緑色のリボンで飾られた箱を見つける。その瞬間、箱を手に取って僕の方を一目散に見てきた。その瞳は黄金に輝き、とても聖誕祭っぽい。
「キースさん! キースさん! キースさん! これはいったい!」
「み、ミルあてに神様が届けてくれたんだよ……。ぼ、僕はもう大人だから貰えないけど、ミルはまだ成人していないからって」
「はわわ……。ぼく、神様から贈物を貰うなんて初めてです! なにかな~」
ミルはリボンを外し、赤い包装紙を綺麗に取り除いて無垢の箱を開ける。
「こ、これは……。白金の首飾り……」
ミルは小さな箱を開け、プラチナで出来た首飾りを手に取った。特に装飾品は付いておらず、プラチナで出来た細い鎖状の首飾りだ。
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