無人の教会
宿から出た僕達は少し歩いていると、分かれ道にぶつかる。
看板には『右に行くと教会あり』と書かれていた。
左には『大通り』と書かれている。
「僕は右の道だ。プラータちゃんは左の道だね」
「はい、お花屋さんは大通りにありますから」
「まだ初日だから、依頼が大変かわからないけど、五日間しかないと思えば乗り越えられる。精一杯頑張ろう」
「はい、私も出来る限りの働きをしてきます。それじゃあ、キースさん、また宿で会いましょう」
「うん、気をつけてね」
僕たちは手を振りながら、行く道を分かれた。
僕は黒卵さんを抱きかかえながら、右側の一本道を歩いていく。村の中でも特段に物静かな一帯は、時が止まっているかのように静まり返っていた。
「少し場所が違うだけで、こんなに雰囲気に差があるなんて……。それにしてもなんか暗い空気が漂っているよな」
その場の空気は明らかに悪い。
立地の影響で風が通らないのか、吸う空気は湿っていてどこか重く苦しい。
「家はあるのに人がいない。本当にこっちであっているのか……。ちょっと不安になってきたぞ」
それでも、僕は先ほどの看板を信じて進んでいると視界が開けていき、白い建物が見えてきた。
「あ、あった。教会だ。看板は間違ってなかった。でも、教会にしては暗いな……。全体の空気が澱んでるのは何でだろう。それが依頼に何か関係しているのかな」
僕は教会の敷地内に入る。遠くからは真っ白で綺麗に見えていた建物だが、近くで見ると所々に亀裂が入っており、古めかしい。
各所白いペンキで塗り直したのか、色の塗りむらがあり、素人の手でやったのだとわかる。
職人なら綺麗に満遍なく濡れるはずだ。本職の人を雇えないくらいお金がない教会と想像できる。
「そりゃあ、時給銅貨二枚とかになるか。でも教会が汚れているのは捨て置けない。三原色の魔力を持っていなくても掃除ならできる」
お金を稼ぐのも大切だが人の役にたてる依頼をこなす方がお金を稼ぐ何倍も意味がある気がする。そう思ったからここを選んだ。
「今さらくよくよしても仕方ない。覚悟を決めて中に入ろう」
僕は教会の敷地を歩き、木製の扉を数回叩いたあとゆっくりと押す。
「すみません……。ギルドの依頼を見てきたんですけど。教会の方はいますか?」
物静か……、靴裏が床に当たる音と僕の声だけが響く。内装は外装より古びておらず奥に祭壇があり、光が差し込むステンドグラスが見える。
多くの人が拝めるよう長めの椅子が何列にも連なって置いてあった。それなのに誰もいない。
「今日はお休みなのかな。教会に休みとかあるのか。誰かいないか探そう」
僕は内壁にそって人を探した。扉のある所は何度か叩いて押す。中を覗いてみると誰もいない。
入口から右に曲がり、人を探していたらいつの間にか入口に戻ってきていた。どうやら一周してしまったらしい。
「あれ、本当に誰もいないぞ。どうなっているんだ……」
僕は教会から外に一度出る。まだ反対側を見ていないと気づき、何かあるかもしれないと思って教会の裏に回る。
「あ、なんか小さな家がある。いや……家というより小屋か」
教会の裏には、木で作られたボロボロの小屋があった。
馬の厩舎よりも小さいため、何のために存在しているのか見当がつかない。
「あの中に教会の関係者がいるのかも。そうだとしたら、なんで教会の中に居ないんだ」
僕は小屋の扉の前に立ち、数回叩く。
「すみません。ギルドの依頼を見まて教会を掃除しに来ました……」
中から返事はない。
扉を押しても鍵がかかっており、動かない。
「いったい何なんだ。人がいないじゃないか。それじゃあ、どうしてこの依頼がギルドにあるんだ」
僕が小屋に背を向けると、僕の首元に剣が突き立てられた。
「へ……? これはいったいどういう状況……」
僕の目の前には白いローブを着た人間が立っている。
しかも僕の首に剣先を当てているのだ。
加えて小屋を囲うように一五人ほどの白服達が立っている。
皆、何かしらの武器を持っており、僕は囲まれた動物のように辺りを見回すが、何が起こっているのか分からず頭が混乱していた。
「教会に何しに来た。答えろ」
聞き覚えのある声に僕は耳を疑う。
「き、君は……」
「こちらから先に質問している。素直に答えろ。教会に何しに来た。ここら辺では見かけない髪色に服装。腕に抱えている大きな袋。怪しいが過ぎるぞ」
剣先をグッと押し込まれて、僕は後ろにのけぞる。
地面にドサっと尻もちをつき、震える声で話始めた。
「えっと……。ギルドで僕にでもできる依頼を探していたら、教会の清掃という依頼を見つけまして。今日から五日間、働かせてもらおうと思って教会に来たんですけど。中には誰もいなくて。裏に回ってみたら、小屋があったので」
「ギルドの依頼? おい、誰かギルドに依頼を出したのか?」
目の前の白服は周りにいる白服に話しかけた。
「えっと、多分、掃除をさぼりたい奴が勝手に出した依頼だと思います……」
一人の白服が小さな声で答えていた。
「この中に犯人がいないとなると。昨日に逝った誰かか……」
目の前の白服はフードを深くかぶり顔が全く見えない。
だが、特徴的な透き通る声の持ち主に僕は確信していた。
「あの……、昨日、列車を襲った人たちですよね?」
僕は白服に片腕を取られ地面に体を叩きつけられた。
そのまま腕を決められてしまい、全く動けない。
「な、何するんですか!」
「私たちを殺しに来たのだろ! あの勇者の手下が!」
「ちょ、ちょ……、何言っているんですか! そんなわけないでしょ!」
「なら仲間を殺された恨みか! 私たちがあの列車を襲わなければ、多くの者が死ななくて済んだという恨みからここまで来たのか!」
「確かにあの時、列車を襲わなければ勇者が暴走することもなかったと思います。でも、ここに来たのはただ、誰かの役にたちたかっただけです。それに僕は人殺しなんて絶対にしたくありません! と言うか、そんな力ありません!」
「……………嘘はついてないみたいだな」
白服は僕の腕を離す。
すると、僕は体の筋肉が自由に動き、立ち上がれた。
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