靴屋のお爺さんに素材を渡す
「ミル、媚薬なんて使わなくても大丈夫だよ。その……、媚薬を使うまでもなく、ミルは魅力で溢れてるからさ……」
僕は茂みから出てミルの後ろに立つ。
「き、キースさん……。ま、まさか今の会話を聞いていたんですか……」
ミルは僕の顔を見て涙目になり、後ずさりする。
「ごめん、言い忘れていたことがあってさ。戻って来たらミルとアイクさんが大人の話をしているものだから、入れなくて……。でも一応もう一回言っておく。媚薬なんて必要ないよ」
「あぁ、そ、そのぉ。えっとぉ……」
「僕はミルが一五歳になるまで待つつもりだけど……、ミルは待てないの?」
「プシュ……。ま、待ちます……」
ミルは顔をトマトかと言うほど赤く染めて湯気を出しながら頷いた。
「お熱いね~。それで、キース君。君は何を言い忘れたんだい?」
「僕達はロックアントの女王も倒しました。まぁ、最後に倒したのはブラックワイバーンなんですけど、戦っていたのは僕達なので報酬は貰えるのか聞いておきたくて……」
「ロックアントの女王を……、キース君達が倒しちゃったんだってさ。アイク。さあ、どうしようか?」
「もう、いっそのこと、この二人をSランク冒険者にしちまった方が早いんじゃねえか?」
アイクさんとハイネさんに身代わりにしてきたロックアントの女王の話をしたら、呆れられた。
まさか連戦しているとは思っていなかったようで、ため息と説教が行われ、凄い褒められた。
感情の起伏が激しい……。話によると、ロックアントの女王は大きすぎてすぐには運べず、冒険者は他人の倒した個体を奪うと言う行為をとんでもなく嫌うそうだ。
自分たちがされたら嫌な行為を他の人にはしてはいけないと言う暗黙の了解があるらしい。だから、ロックアントの女王の素材も僕達のものだそうだ。
ブラックワイバーンの素材には劣るものの女王の素材も馬鹿にならないほど高いそうだ。
僕とミルは一日で膨大な富を得てしまったらしいが……実感が全くわかない。
アイクさんが言うには、金は使う分だけあれば十分だと言うので、お金は預けっぱなしになりそうだ。大きな家が欲しい訳でもなく、見栄を張りたいわけでもないので、ミルと相談し、生活費だけを下ろしていき、仕事はし続けると言う方針になった。
解体した素材を運ぶ作業に時間が掛かり、働きアリのような時間をすごしたのち、ルフスギルドにブラックワイバーンの素材を運び終えた。
僕は夜遅くに靴屋さんにミルと共に向かった。夜遅くと言っても午後七時くらいだ。今の季節は冬なので、あっという間に暗くなる。
「ここが靴屋さんですか……。なんか辛気臭いと言うか、古臭い感じがしますね……」
「ミル、そんなふうに言ったら駄目だよ。ここの店主さんはすごいんだから。僕のボロボロだった靴を短時間で直してくれた凄い人なんだよ」
「へぇ……。ぼくはまだ見たことが無いので気になりますね。お店の明りもついていますし、早速中に入りましょう」
「そうだね。中に入ろうか」
僕はブラックワイバーンの素材を持ってミルと共に、靴屋さんに入った。
「ふわぁ~。こんな時間に客とは珍しい……。ん? お主は……いつぞやのブラックワイバーン少年か?」
お店の奥で寝ていた靴職人のお爺さんが薪ストーブに薪を投げ入れてファイアで燃やしたあと歩いてきた。
「何ですか、ブラックワイバーン少年って……。僕は少年じゃなくて成人ですよ。あと、今日はお願いをしに来ました」
「お願い? なんだ。ん、んん? おぉ~、別嬪さんじゃな~。お主の連れか。なかなかいい趣味しとるの~」
お爺さんはミルの顔を見るや否や孫でも見るかのような眼でミルを見ていた。
「えへへ~、そうですか。改めて言われると恥ずかしいです……。ぼくとキースさんは将来を誓い合った仲なんですよ。ぼくの来年の誕生日には先約もしましたし。きゃぁ~。どうしようぅ~。今から緊張しちゃってるぅ~!」
「ミル、ちょっと落ち着こうか。夜に加えてお爺さんの前だよ。そんなキンキン声で喋ったら近所迷惑になる」
「ご、ごめんなさい……。静かにしてます……」
ミルは自分でも声が大きくなっていると思ったのか僕の後ろに下がった。
「それで、今日は何をお願いしに来たんだ。何やら外が騒がしいが……」
「えっと……、お爺さんにも協力してほしくて、ですね。ブラックワイバーンを倒した人が誰かと聞かれても知らないと答えてほしいんです」
「ん? どういう意味だ……。ん、まて、お主の持っている素材もしや……」
お爺さんは僕の元に近づいてきて手に持っている素材を見て腰を抜かした。
僕は慌ててお爺さんを支える。
「す、すまん……。まさかと思ったが、どう見てもブラックワイバーンの尻皮じゃ……。加えて、傷が全く無い。い、いったいどうなっとるんじゃ……」
「えっと完結に言うと僕とこの子でブラックワイバーンを倒しました」
「ま、まさか……。本当にやりおったんか……。だが、誰にも教えるなとはどうしてだ?」
「僕達は奉られたくないと言うか、あまり目立ちたくない性分なんです。なので穏便に事を運びたいんですよ。だから、お爺さんにも協力してほしいんです」
「そ、そうか……。わかった。この話は墓場まで持って行こう。して、お主はブラックワイバーンの皮で革靴を作りたいんだったか?」
「はい。そのためにこの皮を持ってきました。お爺さんにブラックワイバーンの皮を革に舐めしてもらって、僕専用の靴を作ってください。靴の大きさは少し大きめがいいです。身長が伸びても使えるようにしてください」
「よっしゃ。わかった。その仕事、受けようじゃないか。儂の人生で二度とない最高傑作を作って見せる。そうだな、一ヶ月待ってくれ。残りの寿命と体力をすべて使ってでも作って見せよう」
「そ、そんな。お爺さんの体を一番にいたわってくださいよ。無理しないでください」
「だが、儂の技術が最高潮の内に作り上げたい。この一足を創ったら引退してもいいと言う質の靴を作り上げる。お主らは温かい部屋で弄り合ってでもいて時間を潰すがいい」
「はは……。じゃあ、お願いします」
僕はお爺さんにブラックワイバーンの素材を手渡した。お爺さんの眼は燃えており、体中から職人の雰囲気を一気にたぎらせていた。いったいどんな品が出来上がるのか分からないが一カ月も時間が空いてしまうのかと思い、少し仕事に専念できそうだ。
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