ブラックワイバーンの解体
「この大きなのブラックワイバーンの半分の値段なんて……、いったいどれだけの額になるか……。ルフス領の売上金額よりも高くなる気がするぞ……」
ハイネさんは指を何度も折り曲げながら計算していた。
「そ、そんなに……」
「うぅ……。ルフスギルドに今回ほどの寄付がされた覚えは一度もない。だが、今のギルドには何も差し出す物が無い……。こうなったら、私がキース君の奴隷として一生仕えよう…」
ハイネさんは服を脱ぎ始めた。
「ちょちょちょ! 何でそうなるんですか……」
僕はハイネさんが脱ごうとしている服の胸元を閉じる。
「うぅぅ……。キース君、感謝する……。もう、いつでもどこでも私を襲ってくれて構わない。私は喜んで受け入れよう。何なら、君の子を何人でも産んで育てよう。それが出来てしまうくらい、私は君に感謝している……」
ハイネさんの例えは少々破廉恥だが、凄く感謝しているということは伝わった。
「あの、普通の人じゃブラックワイバーンの解体が出来ないので、腕のいい方に来てもらったほうがいいと思います。アイクさんから持ったダガーナイフじゃ、傷を付けられませんでした」
「もう、呼んである。飛んで駆けつけるはずだ」
ハイネさんが涙を流しながら答えた。すると、走ってくる男性の姿が……。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ハイネ、さっきの話は本当か! って、ま、まじなのか……」
アイクさんは巨大なブラックワイバーンの姿を見て驚愕していた。背中にはスペシャルウエポンの餓狼を掛けていた。どうやら餓狼で解体するらしい。
「アイクさん……。確かに、アイクさんならお願いできますね」
「キース、ミル……。二人でこの巨体を本当に倒したのか……」
「えっと……はい。倒しました。僕達の力だけじゃ、ジワジワ削るなんて出来なかったので、弱点の逆鱗を剥がして、露出した肉をそぎ落とし、脊髄を損傷させて倒しました。アイクさんから貰ったダガーナイフが無かったら絶対に出来ない芸当でしたよ」
「そうか……、最適解でブラックワイバーンを倒したんだな。やはり、キースには冒険者の才能があったみたいだ」
「そ、そんな……。僕はとてもとても……」
「謙遜しなくていい。ブラックワイバーンを倒したんだ。冒険者として一人前と言っても過言じゃないぞ。まさか五カ月足らずでブラックワイバーンの討伐を成し遂げるとは……。ミルは二カ月くらいか。早すぎるだろ。俺は一八年かかったぞ」
「そ、そうなんですか。なんか、すみません。運がよかっただけと言うか、ミルが頑張ってくれたから倒せたんです」
僕はミルの背中を押して前に出す。
「いやいや、ぼくはほぼ何もしてません。逃げ回っていただけです。キースさんが最適解を見つけてくれたから、ぼく達の実力でも倒せたんですよ。他領の人でも真正面から向かって行ったらボコボコにされていました」
「そうだろうな。俺でもこんなにでかいブラックワイバーンを見るのは始めてだ。だが、解体の経験はある。二人も手伝っていけ。こんな経験は何度も出来るものじゃないからな」
アイクさんは餓狼を肩に担いで言った。
「は、はい! 手伝わせてもらいます!」
僕は立ち上がる。
「ぼ、ぼくも一生懸命に頑張ります」
ミルも僕に釣られて立ち上がった。
「よし! さっさと解体してルフスギルドに運ぶぞ。キースたちの素性を少しでも隠さないとな」
「そうだな。二人が大人の事情でもまれるのはいただけない。金と素材だけ受け取ってもらって、大人の事情は私達が何とかしなければなるまい。それがキース君への感謝の気持ちだ」
「ハイネさん……。ありがとうございます」
僕はハイネさんとアイクさんに頭をさげ、感謝した。どれだけ感謝しても足りないくらいだが、二人も僕と同じくらい感謝しているというので、お互い様だ。
アイクさんは背負っている餓狼に魔力を流し、縛っている縄を切り裂く。
ブラックワイバーンの首や羽、尻尾、脚、など、大まかに切り、腹を割って内臓を取り出した。
寒かったおかげか内臓は腐っておらず、新鮮だった。でも……、あまりに大きな臓器で、耐性の無い僕とミルには気分が少々悪くなってしまった。
ブラックワイバーンの臓器は高値で買い取られるそうだ。薬やポーションの材料になるらしい。内臓はハイネさんが袋に入れていく。周りに綺麗な雪が大量にあるので冷却でき、腐らせずに済みそうだ。
脚の爪、口の牙、眼玉やら、何もかも解体していく。どこもかしこも高く売れるそうだ。本当に捨てる部分が無い。髭や毛の一本でも相当な価値が付くらしい。もう、訳が分からない。
「ふぅ……。大体終わったな。それにしても、どの部位も傷がほぼ無い良い品ばかりだ。大抵出来るだけ弱らせたのち、致命傷を与えて勝利と言ったところだからな。本当に破損部位が無い。ここまで綺麗だと年齢はどうなるんだろうな……」
アイクさんはブラックワイバーンの素材を触りながら呟いた。
「はは……、想像できないな。なんせ、切り傷や刺し傷、魔法の跡がないんだから、相当高く売れる。さてさて……、キース君の靴を作る皮だけど、尻当りの部分が一番いい皮が取れるはずだ。キメが細かくて丈夫、攻撃も通りにくい」
ハイネさんはブラックワイバーンのおしりをバシバシと叩く。
「そ、そうですか。じゃあ、その部位をください」
「よっしゃ。いっちょ切り裂くか」
アイクさんはフルーファをブラックワイバーンのおしりに思いっきり叩きつける。靴を一足作れるだけの皮を剥いでもらい、僕は受け取った。
「あ、ありがとうございます。あとはお任せします。ミル、僕は靴屋さんに行ってくる。ミルはアイクさんとハイネさんに付き添っていて。靴をお願いしたら、僕も戻ってくるからさ」
「わかりました」
僕はルフス領に入る。だが、言い忘れたことを思い出し、いったん戻った。
僕が茂みを進んでいると、ミルの声が聞こえてきた。
「じゃあ、アイクさん。キースさんがいないうちに例の部分を切り取っちゃいましょう。その部位をキースさんに食べさせて……。にしし……」
「ミル、あんまりキースを苦しめるなよ……。あんなのを食ったら、さすがのキースでも気が狂うぞ。本当にキースを思うなら……」
「え、えっと……、別にすぐ食べさせようと言うわけじゃないですよ。ぼくが結婚出来るようになったら、子作りのために必要になるかもしれないじゃないですか。アイクさんも食べたら、ミリアさんとのお子さん、いっぱい出来るかもしれないですよ」
「う……、あいつの性欲は尋常じゃないからな……。俺じゃあ勝てないが、食べればあり得るかもな……。って! 何を言わせるんだ!」
「ミリアさんが言ってましたよ。最近はご無沙汰だから辛いって。『あぁ~、アイクさん、私を可愛がってほしいにゃ~ん』って一人で泣いてました」
「うぐぐ……。た、確かに最近はめっきりないが……、そうか……。半額でどうだ?」
「二割で手を打ちますよ。その代り、ブラックワイバーンの素材を使って特別強い媚薬をお願いしますね。キースさんみたいな奥てな男でも、ぼくを見たらすかさず襲っちゃうようなやつを……」
僕が言い忘れていたことを思い出し、いったん戻って来たら、ミルとアイクさんが色々大人の話をしていた。
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