モテモテになれる
「はわわわ……。き、キースさんが全領土女性に認知されてしまいます……。そ、そうなったらキースさんを狙って多くの女性が押し寄せてくる事態に……」
ミルの表情がどんどん青ざめていく。
「ミルの方だってそうだよ。男の人がミルを狙ってくるかもしれない。なるべく正体は気づかれない方がいい。だから僕は何とかして髪色を変えようと思っているんだ。ミルの髪はそのままでもいいと思うけど、僕は白だからさ。悪目立ちするんだよ」
「た、確かに……。出来れば、マゼンタかイエローにしたいですよね」
「そうなんだよ。だから、ずっと悩んでてさ……」
「ん~。この季節だと花も咲いてないですし、髪色は服装で隠すしかないんじゃないですか? 血を使って赤色にするのは流石に怖いですし……」
「まぁ、フードを被ればそれなりに隠せると思うけど……」
「ぼくとキースさんは影がもともと薄いですから、フードを被ればブラックワイバーンの死体でほぼ見えません。なので、大丈夫だと思います」
「そうだといいんだけど……。でも、ここにずっと隠しておけないし、肉も腐っちゃう。出来るだけ早く持って行かないと」
僕とミルはブラックワイバーンの死体をミルの持っていた縄と僕の持っていた縄を使い、顔と尻尾、羽を縛って、ぶらぶらしないよう纏め、運びやすくした。見かけが少々黒卵さんのようで親近感がわく。
「よし、ミル、運ぶよ」
「はい。少し寝たら体力が回復しました。若いって最高ですね」
「一四歳の発言じゃないよ……。まぁ、体力の回復が早いのはいいことだけどさ……」
僕とミルは息を合わせ、全力で走った。一番に驚かれたのはルフスギルド支部にいた、受付さん達だ。ブラックワイバーンの死体が移動している姿を見て、驚きの声をあげていた。
僕達の話はしていなかったので、フードの効果はあると思われる。ただ、次は絶対に名前が気づかれてしまう。言い訳を考えないと。
僕とミルはルフス領の門までやってきた。
「う、うわぁっ! な、何だ、この大きさ!」
「驚かせてしまってすみません。門番さん。お願いなんですけど、ルフスギルドに魔報を送ってもらえませんか? ギルドマスターを呼んでほしいんです」
「え、えっと……。あなたは……」
「き、キースです……」
「キースさん! き、キースさんがこのブラックワイバーンを倒したんですか!」
門番さんは興奮しているのか、大きな声を荒げた。
「ち、違います……。えっと、えっと……、そう、黒髪の冒険者が現れて倒したんですよ。黒髪の方が要らないから貰ってくれと言われたので、ありがたくいただいてきました」
「く、黒髪……。はわぁ……。ど、どちらにしろ、ギルドマスターに連絡しなければ」
門番の方は慌てて門の中に入り、魔法陣に色々書き込んで、情報を飛ばした。
僕とミルはブラックワイバーンを茂みに隠し、一時待機する。ブラックワイバーンが大きすぎて門に入り切らないのだ。
門番さんが魔報を送ってから一〇分後、馬にまたがったギルドマスターがものすごい速度でやってきた。馬から飛び降り、僕達の座っている茂みにガサゴソと入ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。き、キース君……。魔報の内容は本当かい……」
「ハイネさん。ほ、本当ですよ。黒髪の冒険者がブラックワイバーンを倒して僕達にくれたんです。ね、ミル」
僕は隣で抱き着いてきているミルに尋ねる。
「は、はい。そ、そうです。黒髪の冒険者さんに私も助けられました。すっごくすっごくカッコよくてもっと惚れちゃいました」
「ちょ、ミル……」
「あ、ああ、えっと……。すっごくすっごくカッコよくて惚れちゃいそうでした」
「二人共、服が相当ボロボロ見たいだけど、何かと戦っていたのかな?」
ハイネさんは僕達の発言を全くもって信じていなかった。
「こ、この服はロックアントの女王とその親衛隊に切り裂かれたんですよ。ね、ミル」
「は、はい。そうです。ぼくの持っていた剣が、ロックアントの頭に当たったら砕けちゃったんです。死にそうな時、キースさんが助けてくれて……。はぁ~、凄くカッコよかったです……」
ミルは僕の体に擦り寄って来た。
「ロックアントの女王が二体現れたという話も本当なのかい?」
「はい。それは本当です……。あ、いえ。どっちも本当です」
「…………。君たち、嘘つくのが本当に下手みたいだね。髪が白いと心まで白くなるのかな」
「うぅ……。お願いします。黙っていてください……。僕達が勝てるなんて思っていなかったんです。白髪がブラックワイバーンを倒したなんて情報が出回ったら、面倒なことしか起こりません。なので、匿名でお願いします……」
「はぁ……。こんな名誉ある事を自分達がやったと言わないなんて、馬鹿げているが君の言い分も理解できる。アイクも相当うざがっていたからな。大量の女にモテまくって避けていたくらいだ」
「や、やっぱりブラックワイバーンを倒したと知られたら好意を持たれやすいんですね。ますますキースさんの名前が載っちゃいけなくなりました」
ミルは僕の首に腕回し、顔に頬を擦りつけてくる。
「そりゃあもう、モテモテだぞ。強くて金を持っているなんて男として最高だ。加えてキース君ほどの人格者なら、超モテモテになるだろうな。私も結婚したいくらいだ」
「だ、駄目です。先約は二名限定なので、キースさんとはもう結婚できません!」
「おやおや~、ミルちゃんは一夫多妻制と言う言葉を知らないのかな~。キース君が望み、女性が一夫多妻を認めれば、容認されるんだよ~」
「うぅ……」
「は、ハイネさん。今は結婚の話より、ブラックワイバーンの話をしましょう。えっと、ブラックワイバーンの素材はいい部位だけを残してもらって、他は全て売ってもらって構いません。売れた金額を二頭分にして僕とミルに分けてください。その時、僕の分のお金はギルドへ寄付します」
「へ?」
ハイネさんは気の抜けた声を出した。僕の伝え方が悪かったのだろうか。
「ブラックワイバーンの素材はいい部分を残して……」
「き、聞いていた。二度も言わなくていい。ブラックワイバーンの半分をギルドに寄付するって……、正気なのかい?」
「僕は前にもハイネさんに言いましたよ。あと、アイクさんからもお願いされているんです。今のルフス領にはお金が必要なんですよね。怪我をした冒険者さんもいますし、これからもお金が必要になると思います。僕とミルで倒したので報酬は半分ずつですから、僕の半分しか寄付できませんけど、役立ててください」
「ぼくはキースさんとの生活のために残しておくのでお金は寄付出来ません!」
ミルは胸を張り、堂々と答える。
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