ブラックワイバーンのもとへ
僕は木に突き刺さっているダガーナイフを取り『赤の岩山』まで戻る。
上空から見たら近かったのに、走ってみると結構遠い。
僕は森の中を走って走って走って木を越え川を越え草むらを越え、普段なら短く感じるはずなのに、緊急事態の時だとよけい長く感じる。
「ギャギャギャ!」
どうして急いでいる時にかぎって魔物が湧いて出てくるんだろうか。
僕の前にはゴブリンやコボルトなどが現れ行く手を阻む。
咆哮の声が僕のもとまでとどいてくるため、ブラックワイバーンの力はまだまだ健在だと思われる。あの魔物を討伐できる未来が全く見えないのだが、どうしたらいいのだろうか……。それよりも僕は目の前にいる魔物達を倒すか、逃げるかをしないといけない。
何十匹もいるので全ての敵に時間をかけていられない。必要なのは、いかにしてこの場を切り抜けるかだ。
僕はダガーナイフを構え、突っ走る。僕の行く道を阻む魔物だけを切り倒し、無理やり進む。逃げても追ってくるから戦わなければならない、すべて倒しても時間が掛かる。それなら、突っ切って無理やり突破した方が早いと思った。
敵を倒すたび、黒い血が舞う。僕の着ている服は元から黒いので大丈夫だったのだが、顔に幾度となく掛かり、とても臭い。だが、構っている暇はない。
僕はミルを危険にさらすわけにはいかない。絶対に逃がさないと。
僕はローブの綺麗な部分で顔と髪を拭いた。だが、腐っても魔物の血液なので、固まってしまい、髪がカピカピだ。顔の方は固まる前に取れたので良かったのだが、髪を洗っている時間がない。このまま突っ走ろう。
僕は『赤の岩山』付近の森の中を全力で走り、ようやく入口付近に到着した。頂上ではブラックワイバーンが天に叫ぶ姿が見える。
――冒険者さん達は無事だろうか。ミルはどこに行った。
僕はミルを探しながらブラックワイバーンのいる頂上まで走る。
『グラアアアアアアアアアア!』
「うわぁ~!」
「ミル! 何をやってるの!」
僕が頂上に到着すると、ミルがブラックワイバーンの攻撃の的になっていた。
ブラックワイバーンの口から放たれる咆哮がミルの体を吹き飛ばし、地面を転がらせる。周りには気を失った冒険者さん達が倒れていた。戦いを挑んでいた青髪の男であるマレインは口から血を吐き地面にうつ伏せで倒れており『一閃の光』のパーティーであるマルトさんは岩壁に埋め込まれているような形で気を失っていた。
チルノさんとセキさんの姿は見えない。どこかに身をかくしているのだろうか。せっかくブラックワイバーンが現れたのに、周りに戦う冒険者が一人もいない。物資はロックアントの戦いに使い切ったのか木箱の残骸と割れたポーションしかなかった。
僕は転がっているミルを抱きしめるようにして止め、岩の陰に隠れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。大丈夫、ミル?」
「え……、その声……キースさんですか……」
「そうだよ。ミルに疑われているなんてちょっと悲しいな……」
「だ、だって……髪色が白から黒に……なってますし……、体からゴブリンの臭いにおいが漂って来てキースさんの良い匂いが掻き消されてます。眼と声しかキースさんの面影が無いですよ……。で、でも……。黒髪のキースさんも、か、カッコよすぎます……」
「黒髪にはいい思い出がないんだ……、今すぐにでも洗い流したいんだけど、ミルが心配ですぐに戻ってきた。無事でよかった」
「キュン……。た、助けてくれてありがとうございます……。一番目のクソ男がブラックワイバーンにやられて、次に向って言ったマルトさんもやられて、チルノさんが泣き叫びながらマルトさんを助けようとしてたんですけど、セキさんが抱きかかえて走って逃げてしまいました。そうなったら三番目に待機していたぼく達の番じゃないですか。女王に立ち向かえたぼくならブラックワイバーンにも立ち向かえると思ったんですけど……このざまです」
「あんな化け物に一人で立ち向かったのはすごいよ。これでミルの夢は叶ったね」
「えっとその……、ぼくの夢はとうの昔に変わってますよ。でも、あんな化け物を父さんが倒せたとは思えませんでした。やっぱり法螺を吹いていたに違いありません。あの、嘘つき変態糞親父め……、今、ぼくは本物に会って確かめたんだ。今度会ったら叩きのめしてやる」
「はは……。会う予定があるの?」
「いえ、ないですけど。結婚の報告には行こうかなと思ってますよ」
「ほんと気が早いんだから……。まずはここから逃げ延びないといけない」
「え? キースさん、逃げるんですか?」
「え? 逆に戦うつもりなの……」
「もちろんですよ! ぼく一人だけじゃ勝てなそうですけど、キースさんといっしょなら勝てる気がするんです。ぼく、逃げながら耳でブラックワイバーンの攻撃を覚えました。体の軋む音で何が繰り出されるか当てられます」
「ほんと?」
「はい。本当です。だから、ぼくは攻撃を受けずにブラックワイバーンの攻撃をかわせていたんですよ。青髪の糞野郎とマルトさんには申し訳ないですけど、攻撃の種類を覚えるための駒になってもらいました」
「ま、順番だから、後半になるにつれて倒しやすくなるのは仕方ないことだし、二人もわかっているでしょ。でも、凄く強そうな冒険者さん達が軒並みやられているのに、僕達だけで勝てるのかな……」
「勝てます。ぼくとキースさんの二人なら、絶対に勝てます」
ミルの瞳はキラキラと輝いていた。三カ月前、死んだ目をしていたミルがだ。
僕には自信が無い。
でも、ミルの自信の源は僕と二人でいると言う安心感だ。
僕も、ミルといっしょなら安心できる。だからブラックワイバーンのもとに戻って来れた。逃げてばかりいてもいずれあのブラックワイバーンは他の場所に行ってしまう。そうなったら二度と会えない。
「僕とミルの成長の集大成だ。ここであの巨大なブラックワイバーンを倒そう」
「はい! ぼく、ブラックワイバーンを絶対に倒してキースさんと一緒にお風呂に入るんです。ぼくがキースさんの黒い髪を洗ってあげます!」
「はは……。凄く平和なお願いだね。仕方ない。あのブラックワイバーンが倒せたら一緒にお風呂に入ろうか」
「やった~!」
ミルはまだ倒してもいないのに、凄く大きな声で叫んだ。そのせいで僕達の居場所がブラックワイバーンに気付かれてしまった。
『グラアアアアアアアアアア!』
「ミル、囮役をお願い。僕がブラックワイバーンの機動力を奪う」
「了解です!」
ミルは岩陰から飛び出し、ブラックワイバーンに向ってお尻を向け、パシパシと叩く。煽りの行動だが、やけに厭らしい。敵は容易に乗ってきて、ミルのお尻を追い出した。
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