ロックアントの女王と戦闘
「はわわ……。キースさんからの初キス……。うぅ~!」
ミルは手の甲に自分の唇を合わせようとしたので、咄嗟に右手を掴み引っ張りながら走る。
「あぁ~、キースさんとの間接キッスが出来そうだったのに……」
「今はそれどころじゃないよ。あの巨大なロックアントの女王を倒さないと、頂上で戦っている冒険者さん達が危ない」
「そ、そうですね。あの巨大なロックアントを倒せば、お金、沢山もらえますよね」
「多分……。何たって通常のロックアントの六六倍だからね。加えて相当強い。なら、報酬も高いはずだ。まさかブラックワイバーンに出会えず、女王に鉢あうなんて思ってなかった」
「あの巨大なロックアントを倒して、新婚生活の資金にします! キースさんとの愛の巣、ぼくが買えちゃうくらい儲けられるといいなぁ……」
「ミル、顔がヘロヘロになってる。気を引き締めて。浮かれた気分で戦ったら死ぬよ!」
「は、はい! ごめんなさん」
ミルは自分の白い肌が赤くなるほどひっぱたたき、気を引き締めようとする。
「ど、どうしましょう、キースさん。ぼく、キースさんといる時間が幸せ過ぎて顔が引き締まりません!」
「…………」
僕は黒卵さんの入った革袋を背中に縛りつけたあと、ミルの額にデコピンを一発入れる。パシッツ! という快音が響き、ミルの額に入った。
すると、ミルは涙目になり、おでこを手で押さえていた。だが、眼を開けた時、きりっとした表情になっており、いつものミルが戻ってきた。
「ミル、落ちついた?」
「はい。もう、大丈夫です。少し取り乱しすぎました……すみません」
「いや、気持が落ち着いたのなら、問題ないよ。ミルは女王の体が発する音から、次の攻撃を予測して僕に教えてほしい。援護に回って。僕は女王と戦闘する」
「了解です!」
僕とミルは岸壁を上り始めている女王のもとに急ぐ。頂上付近で鳴り響く爆発音と破裂音。剣や魔法のぶつかる音などが長い間、響続けていた。未だにルフス領からの増援は来ず、僕達と頂上付近で待機していた冒険者達だけが戦っていた。
『ギュイイイイイイイ!』
「く……。早い。地面を走るより、壁を移動する方が得意なのか」
僕は『赤の岩山』の山道を走るしかないが、女王は切り立った壁をやすやすと上っていく。そのせいで、僕が女王に追いつくには普通に走っているだけでは不可能だった。
「こうなったら……。ミル、僕の腕を踏み台にして上に思いっきり飛んで。ロックアントの頭部にこのダガーナイフを突き刺してほしい。そうすれば進行が少なからず止まるはずだ」
「わかりました!」
僕はミルにダガーナイフを渡し、腕を構える。ダガーナイフを持ったミルは僕に向って走ってきて両脚で僕の掌の上に乗る。
「ふっ!」
「はっ!」
僕の全身の力とミルのばねを使い、超絶速く上空へ飛んで行き、女王を追い越した。空中で体勢を立て直すのが上手いミルは力の入りやすい体勢になり、女王の頭部へダガーナイフを刺すために降下する。
「はあっ!」
『ギュイイイイイイイ!』
女王の頭部に刃の長さが一五センチメートルほどしかないダガーナイフが刺さった。
女王は一時停止し、頭部を振り回す。
ミルはダガーナイフを持ち続けており、ブンブンと振られている状態だった。だが、握力を保ち続けているミルのおかげで頭部の亀裂が広がり、ダガーナイフの切れ味がすごいのか、ミルがずりずりと下がっていくのに従って女王の頭部も切り裂かれていく。ただ、外骨格が一五センチメートル以上あるのか、体液が漏れ出さず、頭部に亀裂が入っているだけで、女王に致命傷を与えられていない。
僕はミルが頑張って耐えている間に山道を上り、女王よりも高い位置へと移動した。これで、戦える。
「ミル! ありがとう。今すぐ離脱するんだ!」
「わ、わかりました!」
僕は縄を投げ、ミルがつかんだのを確認すると、魚釣りのように思いっきり引っ張り、体重の軽いミルを引き上げる。
崖からミルだけが上ってきて僕に飛びついてきた。
「キースさん~! ぼくやりました。褒めてください~!」
「よしよし。最高の仕事ぶりだったよ。よく頑張ったね」
僕の腕の中には生きの良い一四歳の猫獣族がおり、すでに汗だくになっている。釣れた美少女は逃げるそぶりを見せず、逆に抱き着いてくる。いったん地面におろし、縄を回収したのち、眼の前に現れた超巨大なロックアントとの戦闘に移る。
『ギュイイイイイイイ!』
「く……。ここを通らないと頂上まで行けないぞ。避けて通ってもいいけど、周りは雪がまだ残ってる。そのせいで滑っても知らないからな。この高さから、落ちたら、隙だらけの頭を叩き潰して倒す」
『ギュイイイイイイイ!』
女王は崖から地面のある位置へと移動してくる。僕がいるのは『赤の岩山』の第二休憩所の広間だ。多くの冒険者がいつも休んでいるため、比較的広く作られている。大きさで言うと四○メートル四方くらいだ。女王の体が乗ってもギリギリ戦える広さはある。
『ギュイイイイイイイ!』
「キースさん! 突っ込んできます!」
「くっ! ミルは比較的安全な位置に移動。僕は進行方向の壁に移動する」
「わかりました!」
女王は大あごをガチガチと鳴らしながら、馬以上の速さで突っ込んできた。
僕は崖に移動し、女王は僕の上っている崖に突進した。このまま、頭部を破壊して倒せるのだろうか。
僕は崖から飛び降り、ダガーナイフを両手で持って大きな頭の切れ込みに思いっきり突き刺す。
「ギュイイイイイイイ!」
僕渾身の一撃はロックアントの女王の頭部を陥没させた。
地面に大きなクレーターが出来ており、力が十分伝わったおかげだと思われる。
アイクさんから貰ったダガーナイフの硬度は尋常ではなく、傷一つついていない。ただ、女王はまだ死んでいなかった。頭部が陥没したのにも拘わらず、大きな翅を動かし、強風を生み出した。
「まだ死んでない……。顎は崖に突き刺さってるのに、何をする気だ……」
女王の顎は岩に挟まったままなのに浮上しようとしているせいで生え際から折れ始める。それでもなお、女王は大きな翅を動かし、体が浮いた。
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