ミルが大人っぽく見える
「ミル、どうやって発情を止めたの?」
「え……。い、いやぁ……、その……」
ミルは口をつぐみ、内股を擦る。
顔が熱り、耳がへたり込んでいる。どうやら恥ずかしくて言えないことらしい。
「ごめん、別に聞かなくてもよかったね。でも、自分で発情を押さえられるようになったんだ。成長したんだね」
「ミリアさんが教えてくれたんです。定期的に行えば発情しにくくなるって聞いたので毎日していたら、効果があって。これでキースさんに迷惑を掛けずに済みますね」
ミルは笑って誤魔化していたが、汗をものすごく掻いていた。
水分を取らないと脱水症状になってしまう。
そう思い、僕はお店で水を飲んでもらうため、握っているミルの右手を掴んだ。
すると、汗か、水かよくわからないがビチャビチャだった。
「ミル、手汗がすごい出てるじゃないか。大丈夫なの?」
「こ、ここ、これは大丈夫。全然、全然大丈夫です!」
ミルは相当慌てており、何が大丈夫なのか僕にはわからなかったが、とりあえず水を飲んでもらおう。
僕とミルはアイクさんのお店に入り、飲み水をコップに注いで飲んだ。
雨水だが不純物は全て沈殿しているのでとても綺麗な水になっている。
「ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ……。んッぐぅ……。ぷは~。あぁ……、おいしいれすぅ」
ミルはコップ一杯の水を一気に飲み干した。首筋に垂れる汗が妙に厭らしい。
熱った顔に黄色っぽい瞳、なぜだか、ミルのなにもかもが厭らしく見えてくる……。
僕は頭を振り、ミルは未成年と頭の中で連呼した。
「く……。ゴクゴクゴク」
僕は冷たい水を飲み、喉を潤した。
だが、なぜか喉が渇く。テーブルに手をつき、ふら付く体を何とか制御する。
「キースさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。ちょっと疲れただけだから……」
お店の中に入ったとたん体が熱くなり、血が沸騰するような感覚に見舞われた。
僕は何が起こっているのかわからず、とりあえずお店の外に出て、息を大きく吸う。
すると心臓の高鳴りがおさまり、体温も下がっていった。
いったい何が起こっているのかわからない。
アイクさんのお店の中に入るとまたもや頭がぐらつき、ミルがエロく見える……。
僕はいてもたってもいられず、お店の外に立ち尽くす。
「いったい何が起こってるんだ。ミル、僕はお店の中に入ると気がおかしくなりそうなんだけど、ミルは大丈夫?」
「え、全然大丈夫ですけど……」
ミルはキョトンとした表情で答える。
「ごめん、ミル。そんな気があるわけじゃないのに、お店の中だとミルのことがありえないくらい厭らしく見えてしまうんだ。だから、アイクさんが戻ってくるまで外でぶらぶらしてよう」
「そ、そうなんですか。そう見えるのなら、ぼくはキースさんにお店の中に是非とも入ってもらいたいくらいですけど……。でも、キースさんがそう言うなら仕方ありませんね。じゃあ、デートの続きをしましょう」
ミルは僕の左腕を掴み、尻尾をくねらせながら笑みを浮かべる。
お店の中で見た彼女ではなく、いつものミルだった。これなら平常心を保てる。
僕は昼食を得にミルと共に、歩きだした。
その後、午後一時ほどに美味しそうなパスタを食べた。
ミルの唇がミートソースでベタベタになっているのが子供っぽく可愛らしい。
午後三時頃に喫茶店に入った。
見栄を張って買ったブラックコーヒーが苦すぎて飲めない。
知ってか知らずか、ホットミルクを購入していたミルにお願いして、ホットミルクをコーヒー牛乳に、僕の持っているコーヒーをカフェオレに作りかえる。
互いに正反対の飲み物を買ったのだが、結局ほぼ同じ飲み物になってしまった。
コーヒーだけでは飲めなかったけど、カフェオレになるとコーヒーの苦さと牛乳の甘さが丁度よく溶け合い、絶品になっている。
今日は一一月二九日なので良い肉の日である。
まぁ、語呂合わせなのだが、どうせならいい肉を買って力をつけようという話になった。
アイクさんに肉を焼いてもらえば絶品になるのは間違いない。
☆☆☆☆
僕とミルは余った金貨を使うため、繁華街に買い物に来た。
僕の所持金は残り金貨五枚。元は金貨二〇枚持っていたが、ミルの上着に金貨一〇枚、美容師に金貨二枚、花と果物、菓子折りのお見舞いの品に金貨二枚、昼食やおやつ、食べ歩きなどで金貨一枚。という消費で残りの金貨が五枚だ。
金貨五枚もあればいい肉は沢山買えるはずだ。牛か豚、鳥でもいい。
「ミル、どんな肉にする?」
「ん~っと、ぼくは牛が食べたいです。いつも鳥なので良い牛の肉を食べましょう!」
「いいね。僕もたまには別の肉を食べてみたかったんだ」
僕とミルは繁華街を歩き、肉屋さんをさがした。
見つけるも、高い品を売っているわけではなく、安くて量が多いというのが売りの店が多い。
そりゃあ、繁華街なのだから家族連れが多い。出来るだけ安い肉の方が買ってもらいやすいのは普通か。
僕たちは一等地に移動し、屋台で肉を売っているお店ではなく、建物でお肉を売っている高級店にやってきた。
入るのには両者共ドキドキだったが、丁度二人とも周りから見て恥ずかしくない恰好だった。
ミルの美しさが目を引いたのか、周りの紳士淑女も僕達を見て何も嫌な視線は送って来なかった。
でも、僕たちからしたら居心地が悪すぎるので、さっさと出ていきたい。
僕はミルの手を取り、共に歩く。
ここのお店を利用している客は騎士貴族やルフス領の貴族などが多い。
といっても王都の貴族よりかは庶民らしいというか、落ちついているというか……。
まぁ、おしとやかそうな貴族たちだったので、普通に街を歩いていても気付かないくらいの雰囲気しかない。
逆にギラギラいしていなくて見やすい。
「さ、ミル。行こうか」
「な、なんか……。ここお肉屋さんじゃないみたいです……」
僕はミルをエスコートし、透明なショーケースに並べられている肉を見た。
二〇〇グラムで金貨一枚という高額な品ばかり並んでいた。
牛肉を五〇〇グラムずつ切ってもらい、計一キログラムの牛肉を購入した。
僕は金貨五枚を支払う。
すると、料理人の方が二枚の牛肉を小さめの木箱に入れ、紐で縛ってくれた。
本当に高そうなお肉だなぁと思いながら受け取り、肉屋をあとにする。
その後アイクさんのお店に戻った。
僕達がお店の前に到着すると、アイクさんが立ち尽くしていた。
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