お金の問題
「いや、キース君いい男すぎるでしょ! そんなの惚れちゃうに決まっているよ!」
「そうなんです、そうなんです。キースさんはいい男なんです~」
ミルはトーチさんに相槌を打ち、誇らしげだ。仲良くなっているようで何より。
「じゃあ、キース君はブラックワイバーンの素材を得るために『赤の岩山』にいたから被害を受けずにすんだんですね。加えてこんなに美少女を捕まえて自分好みに育てていると……」
「ま、マイアさん。なんか棘があるような言い方なんですけど……。別に自分好みに育てているつもりは一切ありませんよ」
「ぼくはキースさん好みの女性になる気はありますよ~。服装だってもっとお尻の出ているホットパンツでもよかったんですけど、肌の露出は控えた方がいいって言われたのでこの服装なんです」
「へぇ~、キース君はミルちゃんのお尻が好きなんですか。確かにいいお尻してますよね~」
「マイアさん、なにか怒っているんですか?」
「別に怒っていませんよ。キース君はそっちの方が好きなんだな~って思っただけです」
「ちょ、ご、誤解っていうのも変ですけど、僕は別にそう言うのは関係なくてですね……」
「キースさんはお尻大好きですよ。特にぼくのお尻に熱い視線を向けてくれるんです。昨日もぼくのお尻を舐めまわすように見てくれたんです。はぁ~、ゾクゾクしましたぁ」
ミルは両手を頬に着け、恥ずかしそうに答えた。
どうやら僕がミルのお尻を眺めていたというのはバレバレだったらしい……。
僕は何も言えず、自分がお尻好きなのかもしれないと思ってしまった。もちろん胸も好きだ。
それは男なのだから仕方ないと思う。本能的に見てしまうのかもしれない。つまり、どっちも完璧なシトラは最高だということだ。彼女に性癖を捻じ曲げられてしまったんだな。
「皆さん、今日のところは帰ります。えっと、皆さんの生活費とか大丈夫ですか?」
「それが、一番の問題なんだよねぇ……」
トーチさんが険しい顏で腕を組んでいた。
「炎のせいで冒険着と武器が使い物にならなくなっちゃって買い直さないといけないの。加えて入院費に治療費、宿代、食事代。何もかもお金がかかるから貯金を崩しながらじゃないと生活は難しい。傷が治るまで冒険者の依頼は受けられない。でもギルドから手当てが出るみたいだからそれだよりって感じかな」
トーチさんは苦笑していた。このままだと皆さんの生活が危ぶまれる。僕の溜めたお金を渡すわけにもいかないし、ルフスギルドにお金が出せるのかと思うと分からない。
「ルフスギルドにも冒険者さんに渡せるほどお金を持っているでしょうか?」
「持っていないと思いますよ。今回の兼でルフスギルドの冒険者が大勢死亡、又は怪我しました。このほど一気に手当金が支払われる予定はなかったはずなのでどう考えてもお金が足りません。ですから死亡者遺族への手当金が優先され、怪我人への手当金は後回しでしょうね。もう、ほんの少ししかもらえないかもしれません……」
マイアさんは視線を下げている。
「私らは親に勘当されてるっすから、食い扶持を稼ぐしか生きていく方法がないっす。武器もなければ防具もない。こんな状態じゃ、冒険者の仕事などとても。最悪、体で稼ぐしかないっすね」
フランさんは歯を噛み締めながら包帯だらけの手を握り締めている。
『赤光のルベウス』さん達は終始暗い雰囲気だった。やはりお金がないとどうしようもない。
でも、僕は知っている。ランクの低い依頼でも食い扶持を稼げると。
「皆さん。そんなに落ち込まなくても大丈夫です。ルフスギルドにはランクの低い依頼もあります。それが結構お金になるんです。武器がなくても十分やっていけます。なんせ、ギルドが貸してくれるんです。僕も貸してもらった剣を使って戦っていました」
「え……。そ、そうか。武器と防具は最低限借りられるんだ。ずっと自分たちで買った高い防具と武器しか使ってこなかったから忘れてた」
トーチさんは顔をあげ、少し希望が見えたような表情。
「そ、そうですよ。私達だって始めは簡単な依頼からこなしていました。また最初からやり直せばいいんですよ。昔より確実に力が付いているはずですもん」
マイアさんも表情がパアッと晴れていき、瞳に光りが入る。
「そうっす。私らに体を売るなんてみみっちいことは向いてないっす。冒険者で生きて、成功するという夢を掲げた身なんすから!」
フランさんは握り拳を掲げ、力強さを現した。
どうやら皆さんやる気だけは燃え尽きていないようだ。
医者が言うには一ヶ月以上安静にしていないといけないらしく、食事代や入院代がかかるそうなのだが、食事代が馬鹿にならないらしく、どうしても高額な入院になってしまうそうだ。
一日入院するのに銀貨五枚。食費が一食銀貨一枚で三食、合計、銀貨八枚。
これを三〇日だとすると金貨二四枚になる。相当な痛手だ。治療費はギルド側が出すそうだが、それ以外は自己負担となる。新米冒険者にとってこの金額は痛い。
僕のように大量の貯金があればいいのだが、武器や防具の手入れや購入時の貸付金。その他諸々、冒険者の過酷さを知った。だが、それでも命があっただけ嬉しいと皆さんは言う。本当に心の強い人達だ。
「でもほんと、誰がこんな爆発を起こしたんだか……。私達の冒険者生活を滅茶苦茶にしやがって……」
「ほんとですよ。お医者様が言うところによると誰かが誤って火薬に火をつけ、連鎖的大爆発が起こったそうです。はぁ、運がありませんね」
「森の中で火薬なんて使うなって感じっすよ。ほんと、燃える物がある近くで火は使うなって教わらなかったんすかね!」
トーチさん、マイアさん、フランさんはそれぞれに愚痴を言う。
どうやら三人はフレイが爆破を起こしたと知らないらしい。ほんと情報を隠すのだけは上手い人達だ。ここまで来ると誰かが記憶を消しているとしか思えない。そんなことが可能な人、いるのか。
僕はロミアさんから言葉を聞きたかった。
ロミアさんがフレイのことについて覚えているのか聞きたかったからだ。もし、ロミアさんまでフレイのことを忘れていたのなら、どう考えてもおかしい。何か外部からの隠蔽工作がある。そこまでしてフレイを守る価値があるのか。




