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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
身なりを整える為に金貨を一〇〇〇枚貯める。

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一緒にいると癒される

 僕は水面に映る自分の顔を見た。

 まぁ、酷い顏で、もの凄くやつれている。相当疲れているみたいだ。

 熱い炎の海の中を長い間走り続けていたから無理もない。


 僕の心を抉ったのは八八人の焼死体と大やけどを負った冒険者達のうめき声、仲間が死んだと知って泣き叫ぶ仲間たちの悲痛な叫びだ。

 僕にはどうすることも出来ないのに、心が締め付けられる。

 忘れようとしても、フレイへの憎しみがただただ浮かび上がってくるだけで何の解決にもならない。


 もし、ロミアさんにフレイは悪くないという言葉を言われていなかったら、僕はフレイを問答無用で犯罪者と決めつけただろう。僕だけじゃないはずだ。今回は多くの冒険者が見ている中、フレイは行動を起こした。


 もし、フレイが故意にやったわけではないのなら事故として処理される。だが、もし周りの冒険者を気にせず殺すつもりがあって行ったのなら捕まえるべきだ。


 ルフス領を守る冒険者達がいなくなったら魔物の被害が拡大する一方になってしまう。

 フレイは自分で自分の首を絞めているのに気づいていない。馬鹿なのか、無能なのか、それともロミアさんの言う通り、フレイ本人の意思ではないのか。


 僕が水面に顔を映して眺めていると水面が揺れる。ミルが動いているらしい。きっと体を洗うのだろう。ミルは結構暑がりなので、お風呂もすぐに上がる。そう思っていた。

 でも、ミルは僕の首に両手を回し、背中にヒト……っと抱き着いてきた。背中に何か柔らかい物体がむにっと当たる。


「み、ミル……?」


「昔、お父さんに一度だけ普通にギュッとされたんです。その時、すごく暖かくて、お母さんが死んだ時だったのに辛さが和らいだんです」


「そ、それはお父さんだからであって、僕たちは赤の他人だよ。いきなり抱き着かれるのは心臓に悪いよ。あ、あと、背中に当たっている……」


「あ、当ててるんです! ぼくの全然ない、なけなしの胸を全力でくっ付けてるんですよ! 逆に感謝してください!」


 ミルは僕の耳元でぎゃんぎゃんと騒いだ。


「ご、ごめん。えっとその、ありがとうございます。とても柔らかいです……」


「いきなり敬語にならないでくださいよ。他人行儀じゃないですか!」


「そんなこと言われても。ぼ、僕のあれがああなって、困るというか」


 僕は必死に前部分を隠す。気分は落ち込んでいるのに、下半身だけは立ち上がってしまっていた。

 こんな状況、立ち上がるなと言われる方が難しいか。つまり、僕の体は立ち直っている。下半身が立つ気力があるのなら、まだ疲弊しきっていない。

 ミルに立ち上がらされてしまったのは不服だが、しだいに気分も上がってきた気がする。


「ミル、もう大丈夫だから、離れていいよ」


「もう、いいんですか? 耳をハムハムするくらいならすぐにしてあげられますけど……」


 ミルの美声が僕の耳元で囁かれる。


「い、いや、いいから。もう、十分だから」


「そうですか。じゃあ、キースさんの体を洗わせてください。隅から隅まで全部綺麗に洗ってあげます。スポンジを使ってもいいですけど、ぼくの両手で摩りながら……、綺麗にしてあげますよ」


「も、もう! ミル。ミリアさんに何を教え込まれたの! 僕はそんなこと頼んでないよ。ミルは普通にしてくれていればいいから。僕はそれでいいから……」


「ご、ごめんなさい。ミリアさんが『キース君にしてあげたら喜ぶから』って言ってぼくの体を弄ってきたんです。同じようにしたら、キースさんも喜んでくれるかと思って」


 ミルはシュンとしてしまい、お風呂につかってちょっと泣きそうになっている。


 僕は黒卵さんを太ももで挟み、両手を開けたあと、落ち込んでいるミルにギュッと抱き着いた。


「僕はミルに無理して欲しくないだけなんだ。こうしているだけで充分癒されてるから、落ち込まないで」


「き、キースさん。前同士は流石に、は、恥ずかしいですぅ。ぼくはキースさんが優しいとわかっていますからちょっと怒鳴られたくらいで落ち込みませんよ」


 ミルにギュッと抱き着いていると人肌って素晴らしいと感じる。

 なぜか嫌なことも忘れてしまいそうな、辛い現実から逃げられそうな気がする。


 フレイが女性と遊びまくっているのは辛さを緩和するためだったのかもしれない。


 今、僕が体験しているからわかる。女性の体にギュッと抱き着いていると涙が出そうになってくる。

 辛い気持ちを吐き出したくなってくる。


 僕は無意識に泣いていたのか、ミルの肩に涙の雫が落ちていた。ミルは何も言わずに、背中をさすってくれている。年下の女の子なのに母親のような包容力があり、驚きつつも自分のとめどない涙が心を癒していると実感した。


 お風呂場に僕のすすり泣く音が反響し恥ずかしい。だが、心は凄く暖かい。どれだけ抱き着いていただろうか。体感では短く感じるが、一〇分程抱き着いていたかもしれない。僕はミルから離れ、頭を下げた。


「ありがとう、ミル。なんか……、すごく楽になったよ」


「キースさんがそう思ってくれてよかったです。泣きたくなったらまたいつでも行ってください。ぼくはキースさんの為なら一肌脱ぎますから」


「はは……。ありがとう、ミル。すっごく嬉しいよ」


 疲弊していた心の時は笑顔が出来るようになるなど、まだまだ先だと思っていた。なのに、泣いたあとは自然に口角が上がってミルに感謝出来た。


「キュンッ……!」


 ミルの頬が真っ赤になって目が大きくなり、耳をヘたらせている。


 僕はお風呂から出て体を洗い、汗と涙、菱汚れ油汚れ、何もかも石鹸で綺麗に洗っていく。全身を洗い終えたら黒卵さんを洗い、お湯で石鹸を流す。


 ミルと交代し、僕はお風呂に再度入る。お風呂のお湯で温まり、ミルの背中を見て、視線を少しずつ下にずらしていくと、むっちりとしたお尻があり、細く長い尻尾が尾骶骨当たりから生えており、綺麗な体だなぁと思ってしまった。


 僕は頭を振り、未成年、未成年と頭に言い聞かせていた。

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