プラータちゃんと買い物
「今さらだけど頭の傷は大丈夫。痛くない?」
僕はプラータちゃんの頭に巻き付けられている包帯を撫でる。
「はい、もう痛くありません。逆に、キースさんの腕の方が包帯でグルグル巻きで痛そうです。あと何でまだ入院着なんですか?」
「え……。あ、本当だ。着替えるの忘れてた……、と言うか着替える服が殆ど燃えてるんだった。どこかで買わないといけないな」
「それなら、あっちに市場がありました。一緒に見に行きましょう」
「ちょっと待って。お金、お金……。あれ、無い……」
「え……。お金を落としちゃったんですか」
――思い出せ。僕はいったいどこにお金をしまったっけ。革袋には黒卵さんしか入っていないし。胸の内ポケットに入れたかな。あぁ、思い出せない。
「とりあえず、病院に行って僕の所持品がないか聞いてくるよ」
「私も行きます」
僕はプラータちゃんと共に病院に戻る。
病院に入ってすぐ、待合室に僕を診察してくれた医者がいたので、話を聞きにいく。
「あの、すみません。さっき飛び出した者なんですけど。僕の私物ってありませんかね? 例えば、お金とか……」
「事故にあった方が当時持っていた私物はベッドの隣にある籠に置いてあったと思うんですけど。見ていなかったんですか?」
「あ……そうだったんですか。ごめんなさい、急いでいて確認する余裕がありませんでした。よかったら持って来てもらえませんか?」
「ちょっと待っていてください、看護師に探してきてもらいますから」
「お願いします」
白衣を着た医者は快く承諾してくれた。
入院着だってただじゃないのに、服のない僕にくれると言ってくれた。感謝以外の言葉が出てこない。
僕はプラータちゃんと待合室のソファに横並びで座り一〇分ほど待った。すると、籠を持った看護師の方が近くにやってくる。
「えっと、この持ち物で間違いありませんか? ベッドに眠っていない方で私物が残っていた籠なんですけど……」
看護師さんは籠を僕の足もとに置いてくれたので、僕はしゃがんで私物かどうかを確認する。
「服、ボロボロだで穴だらけだ……。でも、よかった。お金の入った袋は無事だ。これで買い物ができる」
「お間違いなかったですか?」
「はい、僕の服とお金です。服はどうしようもありませんけど、お金だけでも戻ってきてよかったです。ありがとうございました」
「いえいえ、元はあなたの持ち物ですから。お礼を言われる筋合いはありませんよ。では、私は仕事があるので戻りますね」
「お忙しいところ、本当にありがとうございました」
僕は最後に深く頭を下げて、お礼を言った。
「プラータちゃん、これでやっと買い物ができるよ」
「よかったですね。それじゃあ市場に早く行きましょう。いい商品ほど早く売れちゃうので、急がないと全部取られてしまいます」
「うん、急ごう。僕もこんな格好でずっと歩くのは恥ずかしい」
僕とプラータちゃんは病院を出て、人の流れに沿ってまっすぐ歩いていく。先ほど、プラータちゃんを探していて見ていなかったが大小さまざまな露店が列を作るほど並んでおり、多くの人が買いものしていた。
行き交う人は冒険者から、一般市民、観光客のお金持ちなど多種多様だ。
僕たちは人の流れに添いながら両側の露店を見て進んでいた。
――着やすそうな服が見当たらないな。普通の服でいいんだけど。
「服、服……。あ、ありました。キースさん、こっちに来てください!」
プラータちゃんが服を売っている店を先に見つけたようで、僕に向かって大きく手を振っている。
僕は足早に近づいていき、商品を見て回った。
「うん……、上着とズボンが銀貨一枚は安いんじゃないかな。上下合わせて買うと銅貨五枚も安くなるらしいし。買っておかないと損だよな。よし、上下を一枚ずつ買おう。まずは着て大きさを確認しないと」
僕は綿製で白い布地の長袖シャツと黒のズボンを手に取った。
昨日まで着ていた服装とほとんど一緒だ。
試着室で体に合いそうな服を何着か比べていき、体格に完璧に合う服を上下一枚ずつ購入する。
「上着とズボンを合わせて銀貨一枚と銅貨五枚です」
店員さんはシャツとズボンを手に取り、値段を言う。
「えっと、金貨一枚からでもいいですか?」
「問題ありませんよ」
僕は店員のお姉さんに金貨一枚を渡して上着とズボン、お釣りを受け取った。
「お釣りが銀貨八枚と銅貨五枚です。お確かめください」
「ありがとうございます。はい、確かにその枚数があります。それじゃあ、失礼しますね」
「またのお越しをお待ちしております」
服を受取ったあと僕は店の試着室で着替えてプラータちゃんのもとに戻る。
「あ、キースさん。よく似合ってますね」
「ほんと、よかった。あんまり服を自分で選んだ経験がなくてさ、結局昨日着てた服とほぼ同じ柄の服を買ったんだよ」
「キースさんはやっぱり白と黒が似合うと思いますよ」
「そうなんだ、ありがとう。それで、この後どうしようか。列車が運行するのは五日後って病院の先生が言っていたから、その間は移動手段が限られるけど……」
「私は一日でも早く家に帰らないといけないので、ルフス領まで歩こうと思います」
「いやいや、ちょっと待ってよ。列車で二日掛かる道のりを、歩きだけで付くのは五日じゃ絶対に無理だよ。ここで五日待って、列車で二日移動して計七日。これが一番早く安全にルフス領に向える方法だと思うんだ」
「で、でも……。早く帰らないと家族が辛い思いをします。本当なら明日にはルフス領に着いていないといけないんです」
プラータちゃんは、今にも泣きだしそうな顔で俯いている。
「プラータちゃん、昨日の事件の情報は近くのルフス領までとどいているはずだ。家族の皆は絶対に心配している。それなのに一向に帰って来なかったら、プラータちゃんの両親も苦しいと思うんだ」
僕はプラータちゃんの頭に手を置いて撫でる。
「そうですよね。ごめんなさい、私、焦っていました。少し冷静になって考えたら、それが一番得策ですよね。キースさんに言われて自分が焦っていると、気づけました。ありがとうございます。私も五日まとうと思います」
プラータちゃんは長袖の裾で、目尻に溜まった涙を拭き取ると、生き生きした顔で僕を見上げた。
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