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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
身なりを整える為に金貨を一〇〇〇枚貯める。

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ミルとのお風呂

「キースさん、キースさん。相当ボーってしてますね。お湯の温度はそれくらいでいいですか?」


 僕たちの使った服を洗濯し、外に干してきたミルが脱衣所から声をかけてきた。


「あ、うん。丁度いいくらいだよ」


「そうですか。じゃあ、ぼくも入りますね~」


「え、ほんとに入るの?」


「もちろんです。今のキースさんが何しでかすかわかりませんからね。ぼくがしっかりと癒してあげますよ。ミリアさんが言うにはぼくって結構癒し系らしいですから」


「癒し系って。それはただ、ミルが可愛い顔しているからでしょ」


「い、いきなり可愛いとか言わないでくださいよ。えへへ~」


 ミルの姿は見えないがにやけ面が目に浮かぶ。

 可愛いものに可愛いといってはいけないという規則はない。

 僕は可愛いと思ったら、可愛いと正直に言う方が相手も僕も気持ちがいいはずだ。まぁ、気持ち悪がられるから、仲のいい人にしか言わないけど。


 黒卵さんを抱え、ボロボロの手で黒卵さんのてっぺんにお湯をかけていく。黒卵さんにも灰が被っていたので綺麗に洗ってあげなければ……。せっかく真っ黒なのに鼠色になってもったいない。


 僕は黒卵さんのおかげで頑張れているといっても過言じゃない。黒卵さんが孵るまであと四カ月。長い様で短い。鳥のお母さんはこれほどまで卵に早く孵ってほしいと思うものなのか。

 黒卵さんを抱きしめながら考えていると、お風呂場の扉が開く。


「き、キースさん。入りますね……」


 体の前に一枚の布を張り付けるようにして身を絶妙に隠しているミルがお風呂までやってきた。


 大きなお尻はもちろん隠れていないのだが、たいしていつもと変わらないというか少々前まで同じような服装だったので大切な部分さえ隠れていればどうとでもなる。


 ミルは桶を使ってお湯を掬い、体の汗を落としてからお湯の中に入ってきた。


「ふぅ~。あったかぁ~い」


 ミルはヘロヘロになった顔で吐息を漏らした。水面が揺らめいて白い光が反射し、突起は見えていない。顔が少々濡れ、いつも以上にしっとりとしていた。髪も細く艶々でお風呂の水上気によって湿り、艶めかしい。


「ん? どうしたんですか。そんなに見つめて」


 ミルは僕の方を見て訊いてきた。


「一緒にお風呂に入るなんて初めてあった時以来だなと思って」


「確かに。あの時はキースさん、ぼくのことを男だって思ってたんですもんね。まぁ、ぼくも恥ずかしい間違いは一杯してきましたから、もう気にしていないですけどね」


「ミルって心が強いのかな……、辛い時でも頑張ろうっていう気になれるのが凄いよ」


「それはキースさんも一緒じゃないですか。さっきも多くの人を助けたんですよね。やっぱりキースさんは凄い人です。尊敬します」


「そんなふうに言ってくれるとなんかうれしいよ。ありがとう」


「感謝するのはぼくの方ですよ。キースさんがぼくを助けてくれなかったら今頃どうなっていたか」


 ミルは僕の腕に肩を当ててきた。とんでもなく近くにミルが座っており、前髪を頭上で縛っているのでおでこが広く、細い眉に大きな目、小さくもすっと通った鼻、ピンク色の唇が小顔のシュっとした形にあっており、本当に整った顔立ちをしている。


 ミルは僕の方を見て、口角を少々上げ、猫口っぽいいたずらっ子の表情になっていた。僕になにかされるのを待っているのかもしれない。


 僕は右手でミルの左手を握った。そのまま手を水面から出し、フニフニと揉んでみる。僕の手とは全く違い、細くしなやかな指でしっとりモチモチだ。でも、手のひらには硬くなった豆が出来ていて頑張っていたんだなとすぐにわかる。


「ミルの手の平、豆だらけだね。僕もだけど」


「キースさんの手は今、すごくボロボロじゃないですか。そんな状態でお風呂に入ってもよかったんですか?」


「うん。大丈夫。焼け焦げた皮が捲れているだけだから。したことないけど日焼けと同じだと思う」


「日焼け?」


「日に当たり過ぎると肌が変色して皮が捲れてしまうだって」


 ――熱によって生まれた風が炎の勢いを強めないといいけど……。


「キースさん。今は『赤の森』について考えなくていいんですよ。今はぼくの体でも見て興奮していてください。その方が恐怖心を抱かなくて済みますよね」


 ミルはお湯から立ち上がって全裸を見せようとしてきた。

 僕はすぐに後ろを向いてミルの裸を見ないようにする。


「キースさんなら見てもいいんですよ」


「み、ミル、ちょっと大胆過ぎるよ。そこまでしなくても大丈夫だから。僕の心はまだ、性欲に頼らなくても立ち直れるよ」


「むぅ~、ちょっとでもシトラさんとの差を詰めておこうと思ったんですけどね。キースさんの守りが硬いです~」


 ミルは僕の方に歩いてくる。


「ミル、シトラと張り合っているの。そんなことしなくてもいいのに」


「だってシトラさんもぼくと同じ獣人なんですよね。なら、ぼくにも勝機があるんじゃないかな~って思っていたんですけど、今のところみじんもなさそうです。でも諦めませんよ。ぼくもキースさんにしっかりと見てもらえる女性になりますから!」


「ほ、ほんとミルってちょっと抜けてるよね。なんか、羞恥心が欠けているというか」


「は、恥ずかしいに決まっているじゃないですか。でも、ぼくはキースさんと同じで目的のために全力疾走出来るんですよ。毎日寝ないで働いているキースさんのシトラさんを思う気持ちは痛いほどわかります。ならぼくも、キースさんと同じくらい頑張らないと振り向いてもらえない訳です」


「何か、凄い根性論なんだけど。僕、ミルとそう言う関係になる未来が見えないんだけど、それでも僕についてくるの?」


「当たり前じゃないですか。逆に今のぼくにはキースさんに釣り合わないですから、もっと努力して力を着けてキースさんに認めてもらえるよう、頑張ります!」


「ほんと、ミルは強いね。僕も初めからそれくらい強ければ、シトラを失わずにすんだのかもしれない。ミルの心の強さが羨ましいよ……」


「もう! キースさん暗すぎますよ。ぼくが明るくなれるのはキースさんのおかげなんですから、そこのところをもっと自覚してください!」


「僕もミルがいるからこれくらいの落ち込み具合でいられるんだよ。ミルの明るさがなかったら僕は今頃、死人と同じような眼をしていたかもしれない」

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