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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
身なりを整える為に金貨を一〇〇〇枚貯める。

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ミルの出番

 僕とミルは全力で走りルフス領に戻った。その途中では多くの馬車が行ったり来たりしていた。


 怪我人を病院へ運搬していたり、物資を運んだりしているのだろう。


 僕はいつもより体力が疲弊しているのでミルに追いつかれそうになってしまった。病み上がりのミルに追いつかれては、教えているにも拘わらず情けないので全力で移動する。


 一五分ほど走り、ルフス領の門が見えてきた。門にいる門番も大忙しで、多くの御者の商業ギルドカードを見て通過させていた。


 一刻を争う治療用の馬車はすぐにルフス領へと入って行く。


 僕は門を通過するために潔く待ち、五分たってから通過した。


 門を通過した後も一〇分ほど走り、ルフスギルド前。


 あり得ないほど静かだ。冒険者が皆、出払っているので、今いるのは数人のギルド員しかいない。


 他のギルド員は皆『赤の森』に向ったのだろう。ミリアさんはギルド員の部長なのでもちろん出払っていた。僕は朝にも声をかけているギルド員の方に話掛けに行く。


「えっと、今はお時間よろしいですか?」


「あ、キースさん。よかった、無事だったんですね。『赤の森』で不慮の大爆発が起こったと聞いてギルド中大騒ぎで。もし『赤の森』に向っていたら帰らぬ人となっていたかもしれません」


 受付の女性は泣いていた。まぁ、冒険者さんが大量になくなったら知り合いの方もいただろう。もし、その人達の訃報を聞いたら悲しいに決まっている。


「こんな時にすみません。これとこれを……」


 僕はミルからナイフを受け取り、自分のナイフも受付さんに差し出した。


「あ、スライムの討伐の依頼ですね。わかりました。少々お待ちください」


 スライムの討伐数は二〇〇匹を超えており、僕とミルは両者共に一〇〇匹のスライムを倒していた為、金貨一三枚を金貨六枚と銀貨五枚で分けた。


「ありがとうございます」


 僕は受付さんに頭を下げ、アイクさんのお店に向った。すると、アイクさんのお店は営業終了の看板が置いてあり、お客さんを入れていなかった。

 看板をどけて、扉を引き中に入る。ミルも一緒だ。


「アイクさん、遅れてすみません。『赤の森』で爆発が起こって冒険者さん達を助けている間に時間がたってしまいました」


「キース、無事だったのか。そうか、キースたちは『赤の岩山』に行っていたんだったな」


「アイクさん、その格好……」


 アイクさんは僕と同じような真っ黒な冒険服を着ていた。アイクさんが冒険服を着ている姿を見るのは初めてだったが、とてもカッコよかった。


「アイクさん、なんで冒険服なんて着ているんですか?」


「ミリアから連絡があった。人手が足りないから来てほしいんだそうだ。俺を呼ぶくらいだ。相当ひどいみたいだな。キースに貸していた服は防火のはずなんだが、所々解けたり焦げたりしているのを見ると、無茶したな」


「冒険者さんを助けていたら夢中になってしまって。出来る限り助け出しました。火災発生から三時間ほどで領主が到着したらしいです」


「そうか、領主も領主なりに準備していたんだろう。遅れたのは他のギルドへの連絡や騒動が起きないよう秘密裏に動いた証拠だ。仕方ない」


「そうですけど……」


 僕はフレイによって殺された冒険者さん達がいたたまれない。ロミアさんはフレイが悪くないといっていた。そんなことあり得るのか。ロミアさんは嘘をつくような人じゃない。でも、あのフレイならやりかねない。


「お前はミルと共に少し休め。顔が死んでるぞ。風呂を沸かして体を温めてからベッドで横になってろ。多くの者の死を見たんだ。心が疲弊している。そんな状態で無理に動いていたらお前まで壊れるぞ」


「わ、わかりました……」


「ミル、こういう時こそ従者の仕事だ。疲弊したキースの介護を頼む」


「は、はい! 任せてください!」


「夕食までには一度戻る。いいかキース、しっかり休んでろよ。釘を刺しておかないと、お前はすぐ動くからな。ミル、しっかりと見張ってろ」


「は、はい……」


 僕は弱々しい声を出す。


 アイクさんは剣を腰に掛け、裏庭に向った。きっとアイクさんの専用武器(スペシャルウエポン)餓狼(フルーファ)』を取りに行ったのだろう。


「さ、キースさん。一緒にお風呂に入りましょう! ぼくがキースさんの背中を流します」


 ミルは僕の腕をとり、グイグイとお風呂場まで引っ張る。


「い、いや、いいよ。そこまでしなくて。お風呂くらい僕一人で入れるから……」


「遠慮しないでください。どうせいずれ見られるんです。今見られても一緒ですよ」


「ど、どういう意味」


「とりあえず、お風呂に一緒に入りますよ~!」


「ちょ、ミル。力が強いって……」


「キースさんが弱っているだけです。ぼくは普通に引っ張っているだけですよ。キースさんが疲弊している証拠です。ささ、脱ぎましょうね~」


「さ、さすがに自分でするよ」


「むぅ~、ちょっと残念です。じゃあ、ぼくはお風呂を沸かしてきますね」


 ミルはこんな時にかぎってすこぶる元気だった。きっと無理して笑顔になっているのだろう。


 僕は顔を数回、パンパンと叩く。凄く痛い。手の平がひりひりする。無理に笑顔を作ってみたが、辛さは取れなかった。

 久々に味わうこの感覚。心が疲弊している証拠だ。きっと今、料理を食べても美味しく感じないだろう。


 僕は脱衣所に潔く向かい、服を脱いで黒卵さんを抱きしめながらお風呂場に入った。


 石造りのお風呂からお湯が溢れる。お風呂場の床とほぼ同じ高さなので、小さな音しかならない。

 お湯は裏庭の給湯器から出しているらしい。


 魔石が燃料らしいので月に一度取り換えるそうだ。

 蛇口をひねればお湯が出るなんて凄く楽だよなぁ。僕の家はどんなんだったっけ、無駄に広くて使いにくかった思いでしかない。

 実家のお風呂には五歳から入っていないので記憶が曖昧だ。


 でも最後に入った時、すぐ近くにシトラがいた。当時は胸がぺったんこでお尻も小さくて、特に何も考えていなかったが好きなこと一緒にお風呂に入れていたなんて。


 母さんが生きていた時は凄く楽しい時間だった……。


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