『赤光のルベウス』さん達の安否
「き、キースさん。髪の色が橙色になっています」
ミルは僕の髪を見ながら聞いてきた。
「え、そうなの……。多分、白髪に泥の色が入っちゃったんだよ」
「髪に色が入るって凄いですね。そんな簡単に入ったりしないと思うんですけど」
「まぁ、僕はあんまり深く考えないようにしているんだ。しっかり洗って落とせば白色の髪に戻ると思うから、安心して」
「ま、まぁ、キースさんは何色でもカッコイイですけど、やっぱり白が一番似合うような気がします」
「はは……、ありがとう。ミルにそう言ってもらえると嬉しいよ。ミルはここで救護の手伝いをずっとしていたの?」
「はい。運ばれてくる皆さんが酷い火傷で、死にかけの方も多くて。でも、回復魔法とポーションのおかげで何とか乗り切っているそうです」
「そうなんだ。じゃあ、僕達は帰ろうか。ここに長居してもお邪魔だと思うし……」
「ぼくたちは医療技術なんて持ってないですから、ここにいても意味がないです」
「あ……そうだ。僕、知り合いの人達がいるんだ。その人達の様態を見てから帰るよ」
僕は『赤光のルベウス』さん達の安否を確認したかった。
一番仲がいい冒険者パーティーの人達なので、無事であってほしい。
怪我人はパーティーメンバーごとに並べられているらしく、端から順に探していき、二列目当たりに四人並んでいた。
皆、生きているらしいが、全身包帯塗れにされている。先ほど助けたロミアさんが一番ひどい怪我で、全身大火傷。他の三人も大なり小なり火傷を負い、意識がなかった。
「皆さん。助かってよかった。ロミアさんも、よかった……」
「う、うぅ……。き、キース君……」
「え、ロミアさん。気が付いたんですか?」
ロミアさんは他の三人より先に眼を覚ました。体が丈夫なのか、直りが早いのか、それとも僕が与えたポーションのおかげか。どれにしろ、意識が戻ってよかった。
「ここ、どこ。私はいったい……」
「ここは冒険者達を応急処置している場所です。ロミアさんは『赤の森』で倒れていたんですよ。後ろに乗っていた人が炎から庇ってくれていたみたいです」
「そ、そんな。じゃあ、私、助けられなかったんだ……。ごめんなさい……」
ロミアさんは顔にも包帯が巻かれており、左眼は完全に隠れていた。右目は出ており、大粒の涙が浮かび、臨界点を迎えると一本の筋が頬を伝う。
「ロミアさんが生きててくれてよかったですよ。ロミアさんも救出活動していたんですよね」
「私、人を助けるのは上手だと思ってた。でも、方向音痴で森から出る方角を見失っちゃって……。ほんとバカ……」
ロミアさんは包帯の巻かれた手を握り締めている。相当悔しいらしい。
「ちゃんと療養してまた元気になってください。僕は邪魔になりますからルフス領に戻ります」
「き、キース君。お願い……、フレイを攻めないで……、あのフレイ……、フレイじゃない……の」
「え、どういう意味ですか?」
「フレイ、最初は普通にゴブリンを倒してた……、でも、途中から様子がおかしくなって、極大魔法を使っちゃったんだよ。あの時のフレイ、絶対おかしかった……」
ロミアさんはフレイがおかしくなったと言った。だが、僕からすれば元からフレイはやばいやつだと思っているので、どの程度おかしくなったのか分からない。
「ロミアさん、また元気になったら話し合いましょう。僕が聞いても意味がないですから」
「フレイは悪くないの……、フレイは悪くない……」
ロミアさんの声は小さくなっていき、死ぬように眠った。
「えっと、キースさんの知り合いの方たちですか?」
ミルに合わせるのは初なのだが、まさかこのような形で出会うとは思わなかった。
「そうだよ。僕の知り合いの冒険者パーティーなんだ。皆生きているみたいでよかった」
「生きてはいますけど……、酷い怪我ですね。ぼくたちもゴブリンを倒しに行っていたら、どうなっていたか……。考えるだけで身の毛がよだちます」
「そうだね。僕たちは被害を受けずに済んだ。でも、これからが大変だよ。ルフスギルドはもとから冒険者が少ないんだ。そんな状態なのに、無傷の冒険者は既存の半分以下しかいない。相当な痛手だ。でも、ここで立ち往生していても仕方ない。いったん帰ろう」
「はい。そうですね。ぼくたちに出来ることは他の人の方が何倍も出来ますし、邪魔になるだけですもんね」
僕は亡くなっていた冒険者のギルドカードを赤の森の入り口にいたルフスギルド役員の方に渡した。
「すみません。これ、冒険者を救出する際に亡くなっていた冒険者さんのギルドカードです」
僕は総勢、八八人分のギルドカードを手渡した。
「こ、こんなに。キースさん、いったいどうやって」
「僕にはこれを持ってくることしかできませんでした。燃えないようになっていたおかげでもって来れたんです」
「ありがとうございます。これで他の冒険者たちの捜索に集中できます」
ギルド員の方は泣きながらギルドカードを受け取り、一枚ずつ名簿の名前にバツ印を入れていく。すでに四分の一ほどの数がバツされており、死亡したと思われる。
「では、僕たちは一度ルフス領に戻ります。知り合いを待たせているのでこれ以上心配はかけられません」
「はい、キースさんは本職ではないのに命を張っていただきどうもありがとうございました。キースさんがいなかったらもっと多くの冒険者が死んでいたでしょう。感謝してもしきれませんよ」
「いえ……、今回は僕の手で助けられてよかった。以前、僕もルフスギルドの女性に助けられたので、その恩返しです。まぁ、私情も少しは入っていますけど……」




