『赤の森』の火災
「はい、ミル。今日の報酬だよ。スライムの報酬がまだ残っているけど、今日は最高金額なんじゃないかな?」
「はい! もう、超えまくっています! ぼく、こんな大金を持った覚えがありません。でも、ロックアントの討伐はキースさんにばかりお願いしちゃっていますから、ぼくももっと手伝えるように努力します!」
ミルは意気込み、やる気満々。やはり彼女は笑顔が一番似合う。
「うん。一緒に頑張ろう。今日のミルを見て思ったけど、ミルはまだまだ強くなる。あれだけ成長しようと努力出来る子は中々いない。だから、ミルは凄いよ」
僕はミルの頭を撫でて出来るだけ褒める。
ミルはほめれば素直に飲み込み、自分の力に変えられる子だ。つまり、褒めれば褒めるだけ伸びる子なのだ。
頭を撫でていると、ミルは不意にゴロゴロといった音を喉から鳴らす。
「あ、キースさんに撫でられて、喉、鳴らしちゃってました……」
気づかれて恥ずかしかったのか、ミルは少し下を向き、耳をヘたらせる。
――可愛いなぁもう。ほんと可愛い。
僕はシトラから乗り換える気はないが、ミルを他の男にやる気もない。それくらい独占したくなるほど愛らしかった。
「じゃあ、ルフス領のルフスギルドに向うよ」
「はい。帰って体を鍛え直します!」
ミルは華奢な腕を振って、斧を振る動作をまねる。
「うん。その意気だよ」
僕とミルはルフスギルドの支部を出て、ルフス領に向っていた。
一一時三〇分。『赤の森』付近。僕たちは異様な光景を目の当たりにする。
「な、なんだ。これ……」
「ひ、酷い……」
僕とミルは『赤の森』の前を通り掛かっていた。だが、地形が一部変わっている。
『赤の森』の入り口付近の木々は爆風によって吹き飛ばされ、もっと先を見ると地面が大きく抉れ、深さはざっと一〇メートル以上あった。
森の木々は半径一キロメートルの圏内は吹き飛ばされ、周りは大火事となっている。
「担架! 早く担架を!」
「ポーションと回復魔法を使える魔術師を早くよこせ!」
「包帯の残りはどこだ! 早く持ってこい!」
「くっそ! 火の勢いが全然消えないぞ! こんなちんけな方法じゃ意味がない。『青色魔法』が使える者がいないと鎮火は難しそうだぞ! それか、領主を早く呼んで来い!」
多くの冒険者達が叫び、『赤の森』は騒然としていた。『赤の森』で起こっていたゴブリンの大量発生は魔法の一撃で消し飛んだらしいが、周りにいた冒険者達も同時に吹き飛ばし、重症を負わせたようだ。
爆風で森の木々はなぎ倒され、炎で森が火事になっていた。轟轟と燃える炎は巨大な木を一瞬にして飲み込み、燃えていく。
「煙が凄い。ミル、ここにいたら僕達も危ない、少し下がろう」
「き、キースさん。森の中にまだ沢山の冒険者が取り残されてます。こ、声が、声が聞こえます」
ミルは耳を立て、音を拾ってしまったようだ。
「そんな。で、でも。この火の壁じゃ、森の中に入れないよ。入れたとしても森の中から助け出すなんて不可能だ。あの中に飛び込んだら、簡単に焼け死ぬ」
僕はミルを抱きかかえ『赤の森』から離れさせる。すでに救護隊が到着しており、怪我を負った冒険者さん達が救護されていた。皆、包帯塗れの状態だったが……、かろうじて生きているようだ。
「ミルはここにいて、僕は何か出来る訳でもないけど、森の中に入れる方法がないか考える」
僕は怪我人たちのいる救護場所にミルを座らせた。
「ぼくも一緒に行きます。キースさんだけに危険な場所へ行かせるわけにはいきません。キースさんが森に向かうのは、ぼくが余計なことを言っちゃったからですよね」
ミルは僕の手を取ってくっ付いてくる。
「ううん。違うよ。僕は無理なんてしない。だから、心配しないで」
僕はミルの肩に手を置いて呟いた。ミルを不安にさせないようにできるだけ笑顔で話し、頬を撫でる。
「絶対、絶対、絶対に無理はしないでくださいね。ぼくはここで待っていますから、キースさんが戻ってくるまで絶対にここを動きませんから」
ミルは僕の手に擦り寄ってきて、宣言する。
「わかった。でも、この場所もいつまで安全か分からない。危険だと思ったら逃げるんだよ」
「はい……。ぼくはここで怪我をした人たちを救護しています」
「うん。じゃあ、行ってくる」
僕はミルの頭に手を置いて最後に一度撫でたあと『赤の森』の入り口に戻る。
「すみません! 今はどういう状況なんですか!」
「キース君。えっと……、それは……」
僕は『赤の森』の入り口で仕事をしていたギルド職員に話を聞いた。だが、男性は口をつぐみ、言葉を発さない。どうやらフレイの仕業で間違いないらしい。
彼らもフレイがこの大火事を起こしていると知っているが、それを大体的に言えないのだ。
「ある冒険者が強力な魔法でゴブリンの大量発生を止めました。ですが、魔法が私たちの思っていたよりも強力で、少し後退していただけの冒険者達は吹き飛ばされ、手を貸そうとした冒険者は重症。魔法を放つ前から『赤の森』の中にいて戦っていた冒険者達がまだ戻ってきていません」
「救出作戦はどうなっているんです?」
「私達はマゼンタの魔力しか持っていない者が殆どです。なので『青色魔法』が使えないんですよ。火を消すには水が最も有効なんですけど、川から水を運んできて消せる炎の威力じゃありません。このままでは『赤の森』全体に広がってしまう。それなのに炎を消す方法がないんです。領主の到着を潔く待つしかありません」
「あの炎の中にまだ人が取り残されているんですよね?」
「名簿を確認しましたが半分以上戻ってきていません。森の中で気を失っているか、焼死しているかさまよっているのか、わかりませんが、わかっている人だけを確認しても、この数が戻ってきていないんです」
ギルド職員の男性は名簿を見せてくれた。名前の知らない方ばかりだったが新人からベテランまで多くの人が討伐作戦に参加しており、ルフスギルドの殆どの冒険者が赴いていたため、数が一〇〇〇人を超えていた。その半数が戻ってきていないとなると、ルフスギルドの存続すら危うい。
「『赤光のルベウス』さん達の中でロミアさんだけ帰って来てない。何で」
「ロミアさんならメンバーである、トーチさん、マイアさん、フランさんの三人を助け出したあと、また赤の森の中に入って行ってしまいました。多くの人が止めたんですけど、振り切って……」
「どうやってロミアさんはあの炎の中に飛び込んでいったんですか?」
「マゼンタの魔力を持っている者は火に強い傾向にあります。自身の発生させた火を身に纏い防護服の代わりに飛び込んでいったんです」
「この火災を起こした調本人はどこに行ったんですか。その人なら止められるはずですよ」
「依頼は完了したと言って飛んで行ってしまいました。後処理は私達が全て行うという話なので……」
ギルド職員の男性は拳を握り締めている。悔しいのか、手の平から血が滴る程握り締めていた。
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