記者のおじさん
「プラータちゃんを一人にして怖い思いをさせてしまった。僕の勝手な判断で、プラータちゃんの命を危険に晒してしまった。謝らないと気がすまない」
僕は病院を飛び出し、辺りを見回した。
ほとんどの人がマゼンタの髪でイエローの髪が見当たらない。
「でも逆に見つけやすいぞ。通りかかった人がイエローの髪を見ていれば覚えているはずだ」
僕は通りかかる人にイエローの髪をした女の子を見なかったかと複数人に質問した。
すると同じ答えが返ってきた。
「村のルフス領方向の出口に向かっていたぞ。どうやらルフス領に向いたいらしい。ここから歩いていくと結構な距離があるんだがな……。それと、人も探していた」
「教えてくださり、ありがとうございます」
僕はルフス領方向の出口を目指して走った。近くの駅で大きな事故があったと噂になっており、警戒しているのか表情が硬い者が多かった。
「はぁはぁはぁ……。プラータちゃん、いったいどこにいるんだ」
僕は人込みをかき分けて、プラータちゃんを探す。
周りを見渡していると人が集まっているところに出くわした。
「嬢ちゃん止めときな。線路に入ろうとしても冒険者が中に入れてくれんよ」
「でも、探したい人がいるんです。外から回り込めば……」
「無駄だ。私たちも調べさせろと言ったがお帰り下さいの一点張り。もう王国が新聞を発行して事故として処理されてしまった」
そこには、数名の大人に周りを囲まれているイエロー髪の少女がいた。
「プラータちゃん……」
僕は大きな声で呼びかけたつもりだったが周りの大衆の音にかき消された。
「え……。今、知り合いの声がした気がするんですけど、何か聞えませんでしたか?」
「プラータちゃん……」
「ほら、やっぱりします!」
僕は人だまりの中心を目指して歩いていく。
無理やり押し入って開けた場所に出ると、そこには目を丸くした少女がいた。
「キースさん。ほ、ほんとにキースさんですか……」
「うん……、プラータちゃん、心配かけてごめんね」
「うぅぅ……、よかった……。よかったよぉ~」
プラータちゃんは緊張の糸が切れたのか、その場で泣き出してしまった。わんわんと大泣きしているので、多くの大人からの視線が痛い。
人の視線とはここまで痛いものなのかと改めて痛感する。
「プ、プラータちゃん、周りに人がいっぱいいるから、あまり大声で泣かれると困るというか……」
「だって、あの時、もう会えないと思ったから……」
――あの時? ああ、僕がプラータちゃんと距離をとった時か。謝らないといけないところじゃないか。あんな危険な目に合わせてごめんねと……。
「プラータちゃん、ごめんね。あの時、君を危険な状況にしてしまった。あの場を何とかするには僕に注意を引き付けるしかないと思ったんだ」
「うぅぅ……、何でキースさんが誤るんですか。キースさんは何も悪くありませんよ。逆に私が感謝しないと行けない方です。キースさん助けてくれてありがとうございます」
プラータちゃんは、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして僕に頭を下げてきた。
「僕はプラータちゃんに感謝されるようなことしていないよ。力のない自分がどうやったら周りの人たちを助けられるかと考えたら、あの方法しかなかったんだ」
「そうですよね……。キースさんはそういう人ですもんね。でも、ほんとによかった。無事こうして会えるなんて、思ってもいなかったです」
「僕もだよ。自分がまだ生きているなんて、今でも実感がわかないんだ。ほんとにずっと死ぬと思ってた。生きないといけない理由があったから、こうしてこの場に立てているんだ」
「うぅぅ……キースさん。ギュってしてもいいですか……」
「え、うん……いいよ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ。よかったよぉ!」
プラータちゃんは僕に抱き着くと周りの目を気にせず泣き喚いた。
女の子を泣かせるのは男として不甲斐ない。でも、うれし泣きなら……許されるのかな。
「嬢ちゃん。その白髪が探してた男かい?」
「はい、そうです。私を助けてくれたキースさんです」
「よかったな、嬢ちゃん。あの事故で知り合いが生き残ってたなんて、相当運がいいぜ」
僕の目の前には大柄で、頭皮がつるつるの悪顔が立っていた。
見かけだけで判断するのは失礼だが、顔があまりにも怖いので悪い人に見えてしまう。
「えっと、プラータちゃん。この人はだれ?」
「あ。どうやら、記者さんらしいですよ」
「記者……。そうなんですか。僕はてっきり顔が怖い冒険者だと思っていました」
「まぁ、よくそう言われるが俺は今回の事故に関して調べてる記者だ。色々話を聞いてみると、どうも胡散臭くてな。嬢ちゃんにも話を聞いたんだが、にわかに信じがたくてよ」
「プラータちゃん、なんて答えたの?」
「私は赤色の勇者が全部やったと言いました。ずっと同じ話をしているんですけど、どうしても信じてもらえなくて」
――プラータちゃんの言い方でほとんど間違いはない。今回の件は赤色の勇者が魔法を乱射したから起こったんだ。
「僕も同じです。列車が燃えたのは赤色の勇者が関わっています」
「ん~、だが……赤色の勇者は列車が燃えている時、列車のある位置から相当離れたルフス領にいたんだ。ルフス領の市民が壁にめり込んでいるところを見たと証言している。そうなると、さすがに赤色の勇者がやったとは考えにくい」
――もしかして……。僕が吹き飛ばした方向はルフス領だったのか。そんなに飛んで行ったなんて。つまり、僕が勇者の現場不在証明を作ってしまったのか……。
「そんな。でも確かに赤色の勇者が列車に乗っていたんですよ」
「だが、勇者だしな……。三〇〇人以上の命を奪う行動をとるとは考えられん。勇者がいたという証拠でもあればいいんだが、探すにも今は冒険者たちや王国から派遣された調査隊が列車を囲っていて、調べられない」
「それじゃあ、このまま事故として処理されてしまったら。勇者は罰を受けないんですか……」
「そうだな。やったかやってないかもわからない勇者を捕まえられない。自国を守る七色の勇者の一人だから、なおさら難しいだろう」
「そうですか……」
――やっぱり勇者は国にとって必要な人なんだ。たとえどんなに人を殺していても、国さえ守っていれば安全を保障してもらえる。そんな仕組みがあるのかもしれない。でも、その制度があったら勇者はやりたい方だ。国王が決めているのか……。でもプルウィウス国王は厳格な方だと聞いたのに。
「あの、プルウィウス国王は何と発言されているんですか?」
「ああ、国王は今、病床に伏しておられる。順調に回復中との話だが、何があるか分からないな。王国の貴族にすら知らされていないが俺にはちょっとした伝手があってな。この話は内緒だぜ」
「は、はぁ……わかりました」
――国王が病気だったなんて知らなかった。
「それじゃあ、いったい誰が政治を行っているんですか?」
「プルウィウス王国の第一王女だ。つまり、国王の娘だな。あまり素行が良くないとのうわさだが……。滅多に顔を出さないんで、情報が少ないのが現状だ」
「第一王女。ビオレータ・プルウィウス……。よりによってあの人か」
「なんだ? 白髪のあんちゃん。第一王女の素性を知っているのか?」
「いえ、そこまでよく知りませんが僕の大切な人を殴った相手なので、よく覚えています」
「王族と面識があるとは……。あんちゃん、どっかの貴族か?」
「いえ、違いますよ。僕はただの一般市民です」
「そうか、じゃあ俺たちはここら辺で失礼する」
「ちょ、まだ話が……。行ってしまった」
強面のおじさんは数人の部下を連れて、僕のもとから去っていった。まだ、名前も聞いていないのに。
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