ミルの策略
僕は自分の状態とミルの状態を比べてみた。
僕はシトラが好きだ。なぜ好きになったのかと言えば、一目惚れだ。その時は分からなかったがどんどん好きになっていった。メイドと使用人の関係だったが兄妹のような関係に近かった。
でも僕は勝手に恋心を抱き出した。相手がシトラだったからだ。シトラはこんな僕に優しくしてくれた。
シトラの寝泊まりしていた屋根裏部屋には毎日のように入り浸っていた。結婚したいと何度も思った。
翌々考えたら僕もシトラに依存しているようなものじゃないか。なのに僕は勝手にミルの気持ちを捻じ曲げて考えてたのか。
「えっと、ミルは僕が好きなの?」
「…………」
「だから、娘や妹に見られたくないんだね。そのごめん。僕が勝手に決めつけてた」
「…………」
「ミルは僕に依存している訳じゃなくて、本当に好いてくれていたのかな? それなのに、ミルの好意を依存なんて言ってごめん」
もし、シトラに『キースの気持ちは私に依存しているだけ』と言われたらさすがに僕も立ち直れない。どうやら僕はミルに相当酷いことを言ってしまったみたいだ。もしこんな恥ずかしい言葉を言って違ったら僕は耐えかねない。でも、謝る内容がこれくらいしか思いつかないんだ。
「…………」
「ミル? えっと、顔を見せてくれるかな」
ミルは顔を横に振った。どうやら今は顔を見られたくないらしい。僕は了承し、顔を振ってくれたということは、ミルは僕の話を聞いてくれたということだ。なので、このまま話死を進める。
「ミル、顔は見せなくてもいいから、ミルの意見も聞かせてほしい。今からパーティーで稼いだお金をどうするかっていう話し合いがしたいんだ」
ミルは首を縦に振る。
「えっと、僕の意見は全ての報酬を半分にするという内容なんだけど、ミルは嫌なんだよね?」
ミルは頭を縦に振った。
「じゃあ、ミルは自分の狩った分の報酬は受け取れるんだね?」
ミルは頭を縦に振る。どうやら、自分で稼いだお金なら受け取れるようだ。僕と同じだ。
僕はミルに働いてもらっていると思っているんだけど、ミルは自分で働いていないと思っているという矛盾を解消する方法を僕は思いついた。
「よし! わかった。ミル、時給制にしよう」
「はっ、なるほどな。そう来たか」
アイクさんはいい案だなと言いたげな声をあげる。
「朝七時から働いて、正午までだから、五時間。一時間の金額は僕と同じ銀貨三枚。加えて、倒した魔物の数を加算してく方式にするんだ。最高額は一三日間の平均額の金貨二○枚でいいかな。これで僕とミルの意見を合わせた新しい規則の完成だ。ミル、どうかな?」
「わ、わかりました。それなら……、いいです」
ミルは少し震えた声で返答した。でも、了承を貰えたので僕としても嬉しい限りだ。
「あの、キースさん。一ついいですか?」
「ん? どうしたの?」
「ぼくはキースさんのことが嫌いです……」
「え。そ、そうなんだ。じゃあ、さっきの考えは僕の思い違い。は、恥ずかしいなぁ」
「ぼく、キースさんのこと大っ嫌いです。もう、嫌いで嫌いで仕方ないんです」
「そこまで。僕、ミルにそこまで嫌われていたなんて思わなかったな」
ミルは何度も嫌いと言ってきた。それだけ僕がミルを傷つけてしまったのだろう。
「ぼくはキースさんに依存しているって言われて凄く悲しかった。何で悲しいのか分からなくて、ずっともやもやするから、いっそキースさんを嫌いになろうと思って。でも、そう言い続けていたのにキースさんの嫌いなところが全然見つからないんです」
「え? ど、どういう意味?」
「ぼくはキースさんに酷いことを言われても嫌いになれませんでした。だって、その言葉はぼくを心配してくれたキースさんの優しさだって分かるから。沢山酷い言葉を言われてきたので分かります。普通は痛くて辛い言葉しか向けられないのに、キースさんの言葉はどこか温かかった。絶対、ぼくのことを思って言ってくれたんだって感じたんです」
「まぁ、確かに僕はミルの将来を思って言っていたけど」
「ごめんなさい、キースさん。ぼくは嘘をついていました」
「嘘。僕が嫌いじゃないってこと?」
「はい。ぼくはキースさんが大好きです。もう、結婚したいくらい好きです。まだ成人じゃないので結婚出来ないですけど、それでもキースさんのずっとそばにいたいって思うんです。あの、ぼくはペットでも構いませんからキースさんと人生を共にさせてください」
「え、えぇ……」
ミルは僕の方を向いて、真っ赤な顔と大粒の涙を流しながら頭を下げてきた。アイクさんにばっちりと聞かれ、化粧してきたミリアさんにもばっちり聞かれた。
「えっと、えっと。ミル、その。僕にも好きな相手がいて、ミルの願いをかなえてあげるのは、出来な……」
「出来るぞ。キース。プルウィウス王国では、一夫多妻は推奨されている。別に傍に置いておいてやるくらい何ら問題ない。ミルはそれでいいと言っているんだ。なら、惚れさせた責任をちゃんと取るんだな」
「ちょ! 何ですか惚れさせた責任って。ミル、もっとよく考えてよ。僕は白髪だよ。仕事を見つけるのは大変だし、この先もずっとアイクさんのお店で働き続けるなんて多分出来ない。今は冒険者で上手くやっていけているけど、将来性は皆無だよ。あと、僕の好きな相手が何て言うかもわからない。だから、もう少し待って。僕が大切な人を助け出してから……」
「情けないわね、キース君! こんな可愛い子のどこが不満なの! 頑張り屋で、健気で一途な完璧な女の子じゃない!」
「え、えぇ。ミリアさんまで」
アイクさんとミリアさんはミルの言葉に感化されたのか、僕と強引にくっ付けようとしてきた。
ミルは真剣な表情で僕を見ている。今、何を思っているのだろうか。多分、二人きりの場面で言っても僕がはぐらかすと分かっていたんだ。だから、アイクさんとミリアさんのいるこの場所で言った。僕が逃げられないようにするために。
僕はミルの策略にまんまとはまり、窮地に立たされている。
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