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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
身なりを整える為に金貨を一〇〇〇枚貯める。

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喧嘩の原因

「そのお金はミルの将来に必要なお金なんだよ。お金が無いと生活できないし、飢えて死んじゃう。ミルもお金のない生活に戻るのは嫌でしょ」


「うぅ。ぼくがお金を持ったら、キースさんと一緒に生活できなくなっちゃうじゃないですか。そんなの、耐えられません。また一人寂しい生活に戻るなんて、絶対に嫌です」


「そうはいってもいつか独り立ちしないといけない時が来るんだよ」


 僕はミルを自分の妹、又は娘のように扱っていた。どこか僕に似ているミルに親近感がわき、手助けしてあげたくなってしまうが、ぐっと堪える。


「キースさん。ぼくはキースさんの妹でも娘でもないんですよ。血のつながりのない赤の他人なんです。なのでその、えっと、け、結婚だって出来るんですよ」


 ミルは頬を赤くし、視線を背けながら喋る。


「確かにそうだけど。僕はミルと結婚する気はないよ」


 結婚のためにミルを助けたんじゃない。ミルが自立できるように手助けしているだけ。ミルがこのまま僕におんぶにだっこ状態だったら何も成長していないのと一緒だ。

 ミルは僕に好意を抱いているんじゃない。ただ依存しているだけだと思う。


「ミルの言い分を聞くと、別に僕じゃなくても優しくしてくれる男なら誰でもいいって聞こえちゃうよ」


「うぅぅ。キースさんの馬鹿! もういいです! 今日はもう寝ますから話掛けないでください!」


 ミルは大きな声で叫んで布団にくるまり、眠った。僕はミルに初めて馬鹿と言われ、すごい悲しかったのだが、ミルのためだ。そう言い聞かせて僕はミルに何も言わなかった。


 そんな夜があって、今に至る。


 僕とミルは互いに背を向けながら朝食をとっていた。


 今までは仕事の内容とか成長度合いとかを話しながら食事していたのだが、今日は昨日の喧嘩の影響か一度も会話していない。僕がミルの顔を見るとふっと視線をずらされてしまう。相当怒っているようだ。だが、ミルに現状を分かってもらうため仕方ない行為だった。


「何だ、二人とも。喧嘩でもしたのか?」


 アイクさんは僕たちの仲をみかねて料理を煮込みながら話掛けてきた。


「いえ、そういう訳じゃありません」


「じゃあ、どうして料理をそんなムスッとした顔で食べているんだ。俺の料理が不味いみたいじゃないか。ちゃんと説明してもらわないと俺の気が済まん」


「アイクさんの料理は凄く美味しいです。まぁ、簡単に言うとミルがお金を受け取ってくれないんですよ。僕としてはちゃんとした対価なのに、ミルはいらないと言うんです。お金は大切だから受け取っておいた方がいいじゃないですか、なのに一向に受け取ろうとしないので僕も色々言ってしまって」


「ミルはキースからのお金をなんで受け取らないんだ?」


「ぼ、ぼくはキースさんの仕事に全然貢献できていないんです。昨日だってロックアントは一匹しか倒せなかったですし、スライムは二〇匹だけしか倒せませんでした。それなのに、キースさんは報酬の半分を渡そうとしてくるんです。ぼくはキースさんの役にちゃんとたってから報酬を貰いたいんですよ」


「なるほどな。互いの意識の違いによる喧嘩ってやつか。そうだなぁ。人それぞれ考え方が違うからな。完璧に意気投合するなんて現状は不可能だ。俺の考えとしてはミルの討伐数から得た賃金をそのままミルに渡すという方法が一番二人の仲を取り持てると思うのだが……」


「でも、それだと僕の方が圧倒的に賃金の量が多くなってしまいます。パーティー間で仲が悪くなる原因がお金関係だと知っていますから、始めに決めた決まりは守らないといけない。なので報酬の半分はミルが受け取るべきです」


「キースはパーティーの仲を気にしているのか?」


「ま、まぁ。そうですね。ミルとは息も合いますし、仕事しやすいですから……」


「今、実際に仲が悪くなっているのが分からないのか?」


「うぅ。た、確かに。悪くなっていますね。色々と」


「なぜ仲が悪くなっているか分かるか?」


「なぜ。うぅん。えっと。お金を受け取るか受け取らないかの問題ですかね?」


「そうだ。じゃあ、なぜその問題で反発しているのか分かるか?」


「え。ん~~。僕が決めた報酬は半分ずつにするという取り決めのせいですか?」


「そうだ。キースの決めた規則で今、仲が悪くなっている。それなら、今からどうすればいいかわかるだろ」


「二人で新しい規則を作る。ですかね?」


「わかっているのならさっさと話しあって決めろ。規則なんて何度でも変えていけばいいんだ。ずっと同じ条件でやっていける訳ないんだからな。不満が出たらその都度改正していく。それがパーティーメンバーとの規則の基本だ。二人パーティーなら簡単に変えられるだろ。メンバーが多くても長い間活躍している冒険者は必ずといっていいほど毎回話合って規則を変えている。そうしないと不満が出るからな」


「な、なるほど。えっと、ミル……、話しをしてくれないかな?」


 僕はミルの方を向いて話しをしようと思ったのだが、聞く耳を持ってくれなかった。


「どうやらミルは規則以前に何か嫌なことがあったみたいだぞ。キース、ミルになにを言ったんだ。女性は言葉で簡単に傷つくからな。心遣い(デリカシー)のないキースのことだ、きっとミルが言われて嫌な言葉でも言ったんだろう。思い出して謝らないと話すら聞いてもらえないぞ」


「ミルの嫌な言葉……」


 僕は昨日の喧嘩の内容を少し思い出した。だが、ミルは何を言われて嫌だったんだ。僕は何が嫌だったのか全く分からず、頭を抱えていた。


「ミル、何が僕に言われて嫌だったの……」


 ミルは僕の話を聞いてくれないみたいだ。早急に原因を見つけないと仕事に差し支える。このままミルを置いて仕事に行ったらもっと関係が悪くなるぞ。


 僕はミルの気持ちがわからなかった。

 どうして知り合ってまだ間もない男の部屋に入り浸ろうとするのか謎だ。娘や妹と同じように扱ったらダメなのか。結婚の話がなぜ出てくる。ミルは僕が好きな訳じゃなく、ただ、助けてくれたから、優しくしてくれるから、依存しているだけなんじゃないのか? ん? 待てよ。翌々考えたら僕もそうなんじゃないのか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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