不運な日もあるから、なるべく笑顔でいよう
僕は調理場の椅子に座り、フォークすら持てないミルに料理を食べさせる。
「あーん」
「あ、あーん」
ミルは鶏肉を食べ、頬を赤くしていた。どうやら僕に食べさせてもらうのが恥ずかしいらしい。
「ミル、ごめんね、僕なんかに食べさせられたくないよね」
「い、いえ。逆にキースさんに申し訳ない気持ちで一杯ですよ。ぼくに料理を食べさせてくれてありがとうございます」
ミルに昼食をとってもらった後、僕達は部屋までもう一度歩いて行き、ミルをベッドに寝かせた。
「じゃあミル、僕は仕事をしてくるからなるべく安静にしておくんだよ。あと、紙袋の中身は絶対に見たら駄目だ。絶対だからね」
僕は再度念押しした。ミルなら見ないと思うが一応だ。
「わ、わかっていますよ。みません。誓います」
ミルは右手を上げて見ないと誓った。僕は頷き、仕事に向う。
僕は昼のお客に揉まれて疲弊した。その際、床にこぼれた水に滑って僕はひっくり返り、料理をぶちまけた。その料理がお客さんの頭からぶっかかり、激怒され何度も頭を下げて許してもらった。
昼の仕事が終わり、お客さが減って来た頃、僕はビラ配りに向った。晴れていたと思ったらいきなり曇りだし、大雨になった。どうやら運悪く集中豪雨の時間帯がビラ配りと被ってしまったらしい。
僕の全身はビショビショ、ビラも全て濡れてしまい、使い物にならなくなった。結局お店に戻り、もう一度配れていない場所からビラを配っていった。
「はぁ……。ただいま戻りました」
僕は濡れた状態でお店に戻って来た。
「災難だったな。ほら、乾いた布だ。体を拭かないと風邪ひくぞ」
アイクさんは乾いた大きな布を僕に渡してくれた。髪の毛と体を拭き、水気を取る。
「昼には珍しく失敗してた。大雨にうたれてびしょ濡れになっている。今日のキースはついていないみたいだな」
「いえ……、昼は僕の不注意が招いた事故なので必然です。集中豪雨は予想できなかった僕の失態です」
「なんだ、なんだ、しみったれてるな。今日、嫌なことでもあったのか?」
アイクさんは感が鋭い。僕の状態を見て即座に何かがあったのだと判断したらしい。
「冒険者の仕事中にちょっと」
「何があったんだ。聞いてやってもいいぞ」
「いえ、特にお話しするような対称な内容じゃないので気にしないでください。さてと、夜の仕込みを終わらせてしまいましょう」
「そうか。なら、仕事にするとしようか」
僕とアイクさんは仕事を進め、夜になった。夕食の時間になり、僕はミルを呼びに行く。
僕は扉を叩き、扉を押して部屋に入った。
「ミル、夕食だよ」
「は、はい。夕食ですね! 行きましょう!」
ミルは元気よくはきはきと声をあげていた。自分から立ち上がろうとするほど体力が回復し、筋肉の疲労も多少はよくなったみたいだ。
「ミル、だいぶ元気になったね。明日は依頼に行けるかな?」
「まだわかりませんけど、多分行けます。頑張って行かせてもらいます!」
ミルは大きな声で元気を主張した。さっきより遥かに元気で一帯どうしたのだろうか。
「ミル、何でそんなに元気なの?」
「え? ぼ、ぼく、元気ですか?」
「うん。凄く元気になっているように見えるんだけど、何かあった?」
「べ、別に何もなかったですよ。あ、でも、ちょっとだけいい夢を見たかなーって気がします。内容は覚えていませんけど嬉しい思いがずっと残っているんだと思います」
「そうなんだ。よかったね。逆に僕はあまり良くないことばかり起こっているよ。きっとミルに厳しい仕打ちを与えたのがいけなかったんだ。ごめんね」
「何言っているんですかキースさん。昨日の疲れはもう吹っ飛んでます。ただ筋肉の疲労があるだけです。体が動くのなら、キースさんについていきたいくらいでしたから、キースさんの主張は違うと思います」
「そうかな。じゃあ、なんで今の僕はこんなに不運ばかり続くんだろうか」
「キースさん、そう言う日もありますよ。人生は長いんですから不運の続く日が一日や二日ほど起こり得てもおかしくありません。ぼくは不運続きだったですけど、諦めず生きていたらキースさんという素敵な人に出会えました。ぼくが諦めなかったからですよ。キースさんがくよくよしていると逆に幸運が逃げてしまいます。いつも通りに生活していれば絶対に良いことが起こりますから」
ミルは僕に熱弁した。辛い思いを沢山してきたミルの言葉は僕に沁みた。確かにと思い、僕は無理やりにでも笑う。アイクさんにもしみったれていると言われてしまったので笑顔でいるのを心掛けた。調理場まで移動し、僕は笑顔を作ってミルに料理を食べさせる。
笑顔でいるだけで少し気が晴れたような気がした。食事が終わり、ミルは自力で部屋まで戻っていった。
――ミルの頑張りに負けないよう、僕も努力しないと!
僕は昼の失敗があってから床の水を懸命に拭き、靴裏の水分も全て落とした。夕食の時間帯になり、お客さんが増え始めたので忙しい時間を送る。
凄く疲れたが疲労感より満足感の方が大きかった。いつも淡々とこなしていた仕事が少しだけ違って見えた。辛くても笑っていれば何とかなる。そんな単純な話ではないが、何事にも笑っていけるように努力しなければならない。
少しでも方向が変われば景色も変わるはずだ。笑顔で接客していたら、いつの間にか仕事が終わった。午後一〇時三〇分、ミリアさんがアイクさんのお店に帰ってきた。
「ミルちゃーん。ミリアお姉さんが帰って来たよぉ~」
「み、ミリアさん。お帰りなさい……」
「ただいま、キース君。ミルちゃんは部屋にいるの?」
「はい。部屋にいますよ」
「そうなんだ。じゃあ、お風呂に入れちゃうわね」
「はい。よろしくお願いします」
僕はミリアさんとお店の入り口であった。仕事は終わっていたのだが、掃除で気に食わない場所があったので少しだけ長めに掃除していたのだ。
ミリアさんはすぐさまお店に入って行き僕の部屋に向かったはずだ。
「まぁ、ミリアさんに頼んでおけば何とかなるか。僕はあとからお風呂に入ればいいや」
僕はもう少しだけお店の外を掃除してお店の中に戻った。
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