ミルにお土産
今日の依頼中は少し嫌なことが多かった。
『一閃の光』さん達からは引かれ、襲われている冒険者パーティーを助けたと思ったら余計なお世話だと叫ばれたあげく罵られ、ギルド内部で怒鳴り散らかす場面に遭遇し、マレインの冒険者パーティーに笑われた。
最近は順調すぎて忘れていたが、僕はもとからそういう対象なのだ。
あまり目立たないように行動しないとまたしても嫌な思いをするかもしれない。ただ、嫌な思いをしたとしても自分の気持ちに嘘はつけないので助けたいと思ってしまう。本当に面倒な性格だ。
僕はルフスギルドの本部にまで戻ってきた。
今日は余裕をもって午前一一時半に到着。スライムを討伐したダガーナイフを見せ、計二〇〇匹を超えていたので金貨一〇枚と増加の三枚を貰った。
「最近はスライムが本当に多いですよね。狩っても狩っても湧いてくる、困りものですよ。魔素が溜まっているのでしょうがありませんけど」
受付さんは笑顔で僕に話かけて来た。
「えっと少し疑問に思ってしまったんですけど、スライム一匹の討伐に銅貨五枚の価値があるんですか? あれくらいの魔物なら普通の大人でも倒せますよね」
「昔は報酬がもっと低かったんですよ。銅貨一枚の時もありました。他の依頼者と差別化するために依頼料が高額になるにつれ、スライムの討伐料も上がっていったんです」
「へぇ……」
「スライムは昔から人気のない魔物なんですよ。倒しても素材は出ませんし、服が汚れると洗うのが面倒ですし、片手間に倒せると言ってもナイフや専用の剣で討伐しないといけませんから、いちいち武器を変えるのも面倒なので銅貨五枚でも依頼を受けてくれる人がいません。なので、遠慮せずに受け取ってください」
「そうですか。ありがとうございます」
僕はルフスギルドでお金を受け取ったあと、余ったニ〇分ほどを使ってミルにお土産を買っていくことにした。ミルの好きそうな物でもあればいいのだが。
僕は市場に走り、露店や屋台を見てまわる。
「小物がいいか、食べ物がいいか、あまり高級品はミルも貰いにくいだろうし、銀貨二枚くらいの価値がある品が丁度良いかな」
僕は、とある店の前を通った。
「服か。でも、好みとかあるしな」
僕は服やの中を少し見ていると女性用の下着が安く売られていた。
真っ白で綺麗な下着が上下で銀貨一枚と書いてある。結構高級品だと思うのだが。
なぜ安いのかと思い、名札に書かれている理由を見てみると布地の裏に子供が落書きをしてしまったらしい。
何て書いてあるか見ようと思ったが女性用の下着を見るのは何か変な気分になってしまったのと、さすがに下着を渡すのはないなと思ってしまった。
ミルの着ていた下着はミリアさんの使っていそうな下着だったから貸してもらっていたと考える。
彼女は綺麗な下着を持っていなかった。高級な下着を渡したら喜ぶかもしれない。一瞬購入を考えたが踏みとどまった。
知り合いの女性に下着を送る場面を想像し、シトラに下着を送ったら必ず変な顔をされた。
「やっぱりやめておこう」
僕は服屋から出て、別の品を探していた。
ミルの使いそうな品を探しても、なかなか見つからない。
迷った挙句、食べ物にしようと思い、瓶に入れられた七色の金平糖を銀貨一枚で購入した。
あと銀貨一枚分何かないかと探している内に時間が迫ってくる。
僕はそのまま帰ればいいのに残りの銀貨一枚をどうすればいいか考えてしまって、何を思ったのか下着を買っていた。
「か、買ってしまった。どこかにこの綺麗な下着を付けているミルを見たいと思ってしまった僕がいたのかもしれない。ミルの体に合うのかな。あの大きさならこれくらいあるんじゃなかろうか。知らないけど」
金平糖を買った理由は色合いが綺麗だったのと、甘いお菓子だったから。
下着を買った理由は本当にわからない。ただの下心か。いや、ないない。一枚も下着を持っていないミルが可哀そうだと思っただけだ。うん、そう違いない。
子供の落書きって何が書かれているんだろう。見ようかな。でも、こんな街中で見たらさすがに変人だと思われる。
――アイクさんのお店に着いてから見よう。もし、変なことが書かれていたらミルにあげずに捨てればいい。銀貨一枚がもったいないが、きっと変な言葉が書いてある下着を貰っても嬉しくないだろう。
僕は下着と金平糖の入った紙袋を持ってアイクさんのお店に走った。
「はぁ、はぁ、はぁ。ただいま戻りました」
「お帰り。今日は間に合ったみたいだな。ん? なんだ、その紙袋は? キースがめずらしく何か買ったのか」
「はい。ミルにお土産を買ってきました。昨日のお詫びも兼ねてですけど」
「なるほどな。いったい何を買ってきたんだ?」
アイクさんは僕が何を買ってきたのか気になるらしく、聞いてきた。
「な、七色の金平糖を買ってきました」
僕は紙袋から金平糖の入った小瓶を取り出す。
「ほぉ。なかなか良い品を選んだじゃないか。きっと喜ぶぞ」
「そうだといいんですけどね。あ、今すぐ手を洗って着替えてきますね」
「ああ、その後、昼食だ。ミルもつれて来い。腹が減っているころだと思うからな」
「わ、わかりました」
僕は脱衣所で手洗いうがいして服を着替えた。その後、僕の部屋で横になっているミルの様子を見に行く。
僕は扉を数回叩き、中に入ってもいいか確認する。
「はっ、はい!」
僕はミルの声がしたので扉を開けた。
「ただいま。ミル、元気?」
「キースさん、お帰りなさい。ぼくは元気です。体はまだ痛いですけど、少しは動くようになりました」
ミルは上半身をゆっくりと起こし、苦笑していた。
「昼食の時間だから、調理場に連れて来いってアイクさんに言われたからさ、移動しよう」
「わかりました」
僕はベッドにお土産の入った紙袋を置いてミルを床に立たせる。少しでも体を動かした方が筋肉痛は治りやすいはずだ。全く動かさないでいると硬い筋肉になってしまう。そうならないためにミルを少しでも動かす必要があった。
「ミル、僕が肩を貸すから、少しずつ歩いてみよう」
「は、はい。よろしくお願いします」
僕はミルの腕を僕の肩に回し、腰を持って支えた。ミルの身長より僕の身長の方が高い。少し歩きにくいが中腰になればいいだけなので問題ない。
「キースさん。あの袋の中には何が入っているんですか?」
ミルも紙袋の中身が気になったのか、僕に聞いてきた。
「えっと……、あとで話すよ」
「そうですか。でも、何が入っているのか聞かされないと凄く気になっちゃいますね」
「いい、戻ってきても絶対に見たら駄目だからね」
僕は念押しに言っておく。万が一、下着を見られたら絶対に気持ち悪がられる。
「わ、分かりました。絶対に見ません」
ミルは分かってくれたらしく、コクリと頷いた。
僕とミルは時間をかけて移動し、調理場にまで歩いてきた。




