パーティー解約
「ミル、大丈夫?」
「はい。全身痛いですけど、それだけ強くなったということですから。これくらいの痛み、耐えきって見せます。今日も一緒に行きたかったんですけど、ミリアさんに行かない方がいいと言われてしまって……」
ミルは険しい顏をしながら、悔しそうに手を握っている。
「大丈夫。ミルの分も僕が頑張ってくるから。ミルは体を治すことだけを考えていればいいよ。何か買って来てほしいものがあれば買って来るけど」
「だ、大丈夫です。ただでさえ迷惑をかけているのに、ぼくのために何か買って来てもらうなど出来ません」
ミルは僕の善意を断固拒否した。ミルが要らないと言うのなら別にいいのだが、僕も全身筋肉痛にさせてしまった責任があるので罪悪感を得ている。
僕はミルに謝罪の意を込めて何か渡したかったのだが、いいのが思いつかなかった。だからミルに聞いたのだが拒否された。ん~、何か美味しい物でも渡したら喜んでくれるだろうか。
僕はミルの分も働くと決め、アイクさんのお店を出る。
ルフスギルドでスライムとロックアントの討伐依頼を受け『赤の岩山』に直行した。
時刻は午前七時四〇分ごろ。
『一閃の光』さん達との待ち合わせ場所がルフスギルドの支部内だったので、ギルドの中に足を運んだ。
「おはようございます。今日もいい天気ですね」
僕はギルド内で待っていた『一閃の光』さんに挨拶をした。
「お、キースおはよう。今日はミルちゃんと一緒じゃないのか?」
マルトさんは僕に気づくと手を振ってくれた。
「はい。全身が筋肉痛になってしまったみたいです」
「あらまぁ、そうなんだ。全身が筋肉痛って珍しいな。原因は何なんだ?」
「いやぁ。昨日、午前中の仕事ですでに疲れ切っていたミルに午後からも働いてもらって夜まで体を酷使させてしまったんです」
「なるほど、夜の営みで全身運動させちまったわけか。怪しからんな、キース君。俺にもっとよく教えてくれないか、特に体力のある獣人族を全身筋肉痛にさせちまうほどの夜の営みの方、ぐはっつ!!」
マルトさんはチルノさんに強烈な蹴りをお腹に入れられ、ギルドの床を跳ねながら転がっていき、壁に衝突した。
「キース君は一言もそんなふしだらな発言しとらんだろうが!」
チルノさんは伸びているマルトさんに向って激怒する。
「ごめんね、キース君。マルトは馬鹿なの。多めに見てもらえるとありがたいんだけど……」
「はい。別に気にしてません。マルトさんが何を言っているのかよく分からないので、傷つけられたのか罵られたんか分かりませんけど、意味が分からなければ心は無傷です」
「そ、そうなんだ。それなら良いいんだ。気にしないで。あと、マルトの話は真面に聴かなくてもいいから。聞き流すつもりでいればいいよ」
「わ、分かりました」
「ではキース君。とりあえず上に運ぶ物資はこれだけある。一つ一つ確実に……」
セキさんは何か言おうとしていたが、時間をかけるのも持ったいないし、ミルに同じ仕事をさせる訳にも行かなくなってしまったので、即座に終わらせようと思い、全ての物資を持ち上げた。
木箱がひとまとまりにされているおかげで体勢を崩しても物資が落ちないので安定感を保ちながら持てそうだ。
「き、キース。そんなに一気に持って大丈夫なのか。というか重くないのか?」
壁際から歩いてきているマルトさんは声からして驚いているようだ。
「はい、大丈夫です。このまま運んでしまいますね」
僕は大量の物資を頭上に持ち上げ前を見ながら進む。
扉と物資の幅がすれすれで何とか外に出られた。
外に出てからは早いもので『赤の岩山』の入り口にいるギルド員に名前と依頼を伝えた後、全速力で走り、頂上まで到着した。だが、物資をどこに置けばいいのか分からず、岩陰に物資をおいて『一閃の光』さん達のもとに戻り、残りの物資も運ぶと言って迅速に運んで行った。
『一閃の光』さん達は目を丸くして何が起こっているのか分からないと言った表情、三時間弱で全ての物資を運び終えた。
三時間の間に入口と頂上を何度も往復し、眼にしたスライムを討伐しながら行っていたら初めの一時間半ほどで二〇〇匹ほど討伐出来た。
ロックアントの方は難しいかもしれないが『一閃の光』さん達から金貨三枚を貰い、スライムの討伐で金貨一三枚は確定している。
残り三〇分でロックアントを何体狩れるか分からなかったが数匹でも狩っておいた方がお金になるので、一五分程洞窟に潜り、一匹のロックアントを討伐した。
「よし、とりあえずロックアントを一〇匹討伐出来ました。帰り道で見つけそびれた個体がいたら倒していこうと思います。じゃあ、今日はこの辺で僕は帰りますね」
「あ、ああ。わかった。何て言うか……、キースの強さの底が知れないよな」
マルトさんは僕の方を見て得体のしれない人物だと思ったのか、少し引いていた。
「ま、まさか一日で終わるとは思ってなかった。私達三人で運んでも一週間以上かかる予定だったのに、キース君一人で終わらせるなんて……、規格外すぎるよ」
チルノさんもマルトさん同様に僕に恐怖心を抱いてしまったのか、近寄ってほしくないと言った嫌悪感を向けられる。
「キース君、我々は君の力を侮っていたようだ。だが、物資を運び終えたおかげで資金作りとブラックワイバーンの戦闘に専念できる。ありがとうございました」
僕は何か嫌な予感がした。三人の表情は初めて洞窟に潜ろうとした時に声を掛けていった冒険者さん達と同じ顔だ。
案の定、僕は別れ話を持ちかけられる。
「どうやら私達とキースさんでは力のつり合いが取れないようです。私達がブラックワイバーンと戦闘中に割り込んでこないようにして頂けるとありがたい。パーティー内の連携が乱れるといけないので規格外の仲間を持つことは出来かねます。私達の判断からしてキースさんは人間ではない……」
セキさんには丁寧にパーティーの介入を断られたが、ブラックワイバーンを倒したときの報酬の分け前は貰えると言ってくれたので、了承した。
『一閃の光』さん達は僕のもとから逃げるように去っていった。短い間だったが人数の多いパーティーというのを経験出来て良かったと考えよう。でも少し悲しかった。今までとは違う避けられ方だったので、心の準備が出来ていなかったのもあるが得体のしれない者と一緒にいると言うのは相当怖いらしい。
僕は過去に無能として煙たげられた。伯爵家の三男が無能だと言う汚名を着せられ、家の者から嫌われていた。それとはまた違った避けられ方……。
僕が何か分からないから怖いと言う、得体のしれない恐怖感を相手に与えてしまっているらしい。
ミルにはそう言った感情を向けられていないのだが『一閃の光』さん達には僕が恐怖の対象らしいのだ。
強さの底が知れない、規格外、人間ではない、などと言われたのは初めてだった。悪気はないと思うが、結構落ち込む。
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