脚に力が入らないミル
「ミル! 大丈夫!」
「だ、大丈夫です。すみません。脚が動かなくなりました……」
「もう、無理のしすぎだよ。お風呂に入って体を温めた後、揉み込んで血流をよくするから痛いのは我慢してね。少しでもほぐさないと明日、筋肉痛で真面に動けなくなっちゃう。えっと、一緒にお風呂に入っても大丈夫?」
「う、動けないのでお願いします。どうせ、キースさんには全部見られちゃっていますし、今さら恥ずかしがっても意味ないというか……」
「体は自分で洗ってね。僕はミルを介抱するだけだ」
「も、もちろんです。ぼくもキースさんにそこまでさせるわけにはいませんよ」
僕はミルを抱きあげ、脱衣所に向かう。
脱衣所で僕はミルの着ているつなぎのボタンを外し、脱がせる。ミルは内シャツとショーツ姿になった。あまり見ないようにしているが、汗のにおいが藻わっと香る。ミルのにおいが脱衣所に広がていた。
「す、すみません。ぼく、汗っかきで……」
「いや、気にしていないよ。じゃあ、ショーツも……」
「こ、これは、自分で……」
ミルに立ってもらい、ショーツを脱がそうと思ったのだが、ミルには立つ力も残っていなかったのを思い出し、寝かせようとした。だが、時すでに遅く、ミルは後ろ側に倒れてきた。僕はすぐさま抱えるようにして下敷きになる。
「あ、危ない……。ごめん、ミル。ミルが立てないのをすっかりと忘れてた」
「い、いえ……。ぼくも少しの時間なら立っていられると思ったんですけど駄目だったみたいですね」
ミルは僕に覆いかぶさり、顔がとんでもなく近い、ブラジャーが少しずれ、サクランボは見えないが重力によって少し大きくなった双丘が良く見える。ミルはなぜか動かず、僕をじっと見つめていた。
「あの、ミル。何しているの? 早く退いてほしいんだけど……」
「キースさんって……凄くカッコイイですよね。綺麗な顔立ちで、瞳の色がこんな七色に見えるなんて、すごい魅力的です……」
「えっと、ミル。褒めてくれるのは嬉しいけど、状況が情況だからさ、退いてくれるかな」
「ぼく、もっと頑張ってキースさんに褒めてもらえるよう頑張ります。だからぼくを、もっと見ててくださいね。あと、すみません、動けません。というか、もう、力はいらなくて……」
ミルは四つん這いの状態から潰れ、僕の体に密着する。僕が服を着ていたから良かったものの、もし半裸だったらまずかった。ミルの柔肌が僕の肌に触れあってしまうところだった。
僕はミルの肩を持って動かそうとした時……。
「ミルちゃ~ん。ミリアお姉さんが帰って来たよ~。いっしょにお風呂。え、え、えぇ! ちょ! キース君! 何しているの!」
ルフスギルドでの仕事を終えたミリアさんがお風呂場に向ってきた。きっとミルがお風呂に先に入れているだろうから、アイクさんが差し向けたのだろう。
危なかった。僕にシトラという愛すべき人がいなかったらミルの柔らかそうな唇を奪っているところだった。そんな場面を見られたら僕はこの場にいられなくなる。
「ミリアさんすみません。ミルが仕事で疲れすぎてしまったんです。もしよかったら、僕の替わりにお風呂に入れてあげてください」
「な、なんだ。そいうこと……。って! 私が返ってきたのほんとギリギリだったのね」
ミリアさんはミルを抱きあげ、僕は解放された。
ミルはむくれ、少し残念そうな顔をしていたが、僕は自分の部屋にそそくさと戻った。
「はぁ、危ない危ない。ミル、ちょっと可愛すぎるんだよなぁ。ほんと、男だったら何も思わなかったのに」
僕は部屋に戻り、今日の収支をミルに渡すため、小袋に金貨一三枚と七枚を入れておく。冒険者になれば、一日で金貨二〇枚も稼げるらしい。
まぁ、命と隣り合わせという危険な仕事なので割に合わないと仕事を受ける人がいなくなってしまう。実力があるかないかは依頼を達成できるかできないかで決まるため、冒険者の優劣はあまりない。技術を持っていようと仕事が出来なければ意味がないのだ。
「僕は金貨一九枚とアイクさんのお店で働いた一〇時間分で金貨三枚。計二二枚。これくらいが通常だとすると、金貨一〇〇〇枚貯めるには、四五日間お金を貯め続ければ達成できるんだ。まぁ、毎日同じ金額を稼ぐのは難しいけど、目標は一ヶ月半くらいか。待ってろよ、領主。絶対にあきらめないからな」
僕は何年掛かろうとシトラが領主邸にいる限り、たとえどんな馬鹿げた金額だろうと絶対にあきらめないと決めている。
僕がお金を計算していると、誰かが扉を叩いてきた。
「はい。空いてますよ」
僕が返事すると、扉がギーっと開いてホカホカのミルをお姫様抱っこしているミリアさんがやってきた。
「お待たせしました~。お風呂から出たてほやほやのミルちゃんで~す。お届けに参りました~」
ミリアさんは部屋に入ってくるとベッドの上にミルを置く。
「いい、キース君。ミルちゃんが成人するまで手を出しちゃだめだからね。こ~なに可愛い子に手を出したくなる気持ちもわかるけど、手を出したらキース君を捕まえないといけないから」
「だ、出しませんよ。確かにミルは可愛いですけど、僕には大切な相手がいますから」
「え!」
ミルは上半身をもたげて僕の方を凝視してきた。いったい何をおどろいているのだろうか。別に家族のことを言っただけなんだけど。
「き、キースさんに大切な相手がいたんですか……」
「何でミルが泣きそうになっているの? 大切な相手くらい誰にでもいるでしょ。僕は大切な相手のためにお金を稼いでいるんだ。言ってなかったかな」
「き、聞いてません。そうか、そうですよね。キースさんにもそう言う相手くらいいますよね。逆にキースさんみたいなカッコいい人にそう言う相手がいない方がおかしいですよね……」
ミルはゴロンと寝ころび、丸まった。
「ミルには大切な相手がいないの?」
「い、いませんでした……。最近まで」
「そうなんだ。でも、最近までってことは現れたの?」
「ま、まぁ。現れたというかなんというか……」
ミルははぐらかしながら話していた。
――ミルの大切な相手、家を出て行ったきりのお兄さんに会えたのかな。まぁ、何年も前に出て行ったと言っていた。そんな簡単に会えないか。ミルもお兄さんを探す気になったのかな。生きる希望が見つかってよかった。
「じゃ、じゃあ、キース君、私はお暇するね~」
ミリアさんは重苦しい空気から脱出し、僕もお風呂に向う。
部屋にはミルだけが残っていた。僕は黒卵さんを抱え、お風呂に入り体を綺麗に洗って運動のしやすい服を着て部屋に戻る。
僕は扉をとりあえず叩いた。
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