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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第一章 『無限』の可能性

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無色ドラゴン固有魔法:『無反動砲(遠距離型・近距離型)』

 紫色の炎を纏ったフレイだった何かが、燃え盛る剣を振り、炎の斬撃を飛ばしてくる。攻撃は反れたが、炎の斬撃が擦過した地面は灰に変わっていた。


『速く、私を抱きしめてください』


「何が何だか全く分からないけど、言うとおりにすればいいんだよね」


 僕は空中に浮いている黒卵を抱きしめる。

 先ほどは得られなかった鼓動を感じ、凄く暖かい。


『あれは三原色の魔力が暴走した姿です。つり合いのとれていたマゼンタとイエローの割合が変わってしまい、うまく制御できなくなったようですね』


「今、そんな説明要らないよ! この状況どうするの!」


 フレイは走っている僕に対して、何度も剣を振りかざしている。その度、炎の斬撃が三日月状になって襲い掛かってくる。

 狙いが定まっていないのか、ほとんどが僕の体を逸れて行ってくれているので助かっている。でも、一撃を真面に食らえば燃え尽きてしまうのは明白だ。


『私に溜められた魔力は極わずかのため『無限』を発動できません。現在使用可能の魔法は無色魔法:『無重力』。無色ドラゴン固有魔法:『無反動砲(遠距離型・近距離型)』のみになります』


「え……ドラゴン。ちょ、何か嫌な名前が聞こえたんだけど」


『主は何も気にしないでください。それよりも、あの怪物を退ける必要があります』


「そ、それはそうだけど。いったいどうしたらいいの」


『あの怪物の前に立ち、私の殻に攻撃を当てさせてください。そうすれば、あの怪物は浮きます。そうなれば、すかさず掌を奴の腹に翳してください』


「いやいやいや……。あれに近づくのは無理でしょ。ここから何とかできないの」


『魔力量が乏しいため不可能です。ギリギリまで近づく必要があります』


「そ、そんな……」


『逃げていても、意味ありません。奴は今のままだと永遠に追ってきます。外部からの衝撃で体に込められたマゼンタの魔力を放出させるのです。そうしなければシトラさんと、いちゃこらできませんよ』


「な! なんで、そのことを……」


『魔力が同調しているので、大声で聞こえてきましたよ。それにしても、私に祈ってくれなかったのは悲しかったですね』


「は、はずかしい……。と言うか、卵に祈るってどういう状況……」


『時間がありません。私が話している間にも魔力は減っていきます』


「それを早く言ってよ!」


 僕は、すぐさま振り返る。炎の化け物が目の前から迫ってきていた。


 ――シトラに会うためだ。何だってやってやる。たとえよくわからない黒卵の話でも今は信じるしかない。


「ぐろがみ……、ぶっころす……」


「僕はまだ死ねないんだ。諦めてくれ」


「主、黒髪になったのですね。私の殻とおそろいです」


 ――今、そんな話している場合じゃないでしょ。あと、これは煤で黒くなっているだけだから。


『なるほど、擬態ですね。クラーケンですか?』


 ――君って喋るの結構好きなの……。僕、今から死ぬかもしれないんだけど。


『主に死なれると困るので、死に物狂いで生き残ってください。シトラさんとチュッチュできませんよ』


 ――絶対面白がっているよね……。


 黒卵に話しかけられ、目の前のフレイに集中できない。

 だが、震えていた足がいつの間にか止まっていた。

 死がすぐそこにあるのに、足が竦まず、堂々と立てている。

 疲労も感じない。


 ――足が動く。これも君の力なの。


『いえ、私との会話で緊張がほぐれたようです。会話には緊張を取り除く効果があるようですね。学習しました』


 ――実際は話しあっていないけどね。頭の中での会話だから……念話になるのかな。


『魔力が一〇〇パーセント同調していますからね。心が通じ合っているとも解釈できます』


 ――なるほど。つまり、僕は心から通じ合える黒卵を持っている訳か。うん、訳がわからない。


「くろかみ……、ぶっころすスゥ。おれがぁ……サイキョウぅ、なんだああああああ!!」


『主、どうやら念話を楽しむ時間もないようです』


「そうみたいだね。ふぅ……。行くぞ!」


 僕は一度深呼吸して体の力をさらに抜く。

 黒卵をフレイの体に当てないと話にならない。

 その為に、剣の間合いに入って黒卵を押し付けるか、高速で動く剣に当てるかのどちらかを生身の僕がやらなければならない。

 相手は勇者だ。

 さっき一撃を入れてしまったから僕にはもう油断してくれない。その状況で当てるのは、さすがに厳しい。でも行くしかない。

 待っていたらフレイの流れに持っていかれる。そうなったら、無理やり僕の流れに変えるのも不可能だ。

 だったら、僕から攻めるしかない。


「うおおおおおお!」


 僕はフレイを威圧するように大きな声を出しながら走り始める。


「グア! ゴラアアアア!」


 フレイは僕の声で一瞬怯み、動き出すのが遅れた。

 それでもさすが勇者なだけある。踏み出して、最高速度に達するまでが僕より格段に早い。


 僕が三から四歩目で移動速度がやっと上がり始めたのにフレイは踏み出しから既に僕以上に速い速度で移動し、僕が五メートル進む間にフレイは五〇メートル移動する。


 ――速い、もう来る。


 フレイの燃え盛る剣が既に頭上に振り上げられていた。

 どうやら、初めから最速で切ってくるらしい。


 ――横一線で振るうのか、そのまま縦に振るうのか。見るんだ。少しでも手首が動いた時、直感で躱せ。考えてたら切られて終わる。

 体が反応するまま動くんだ。そのためには怖がらず、攻撃をギリギリまで引きつける必要がある。生き残るための難しい要件だけど、やるしかない。


 僕は何が何でもシトラに会いたいんだ。


「うおおおおおお!」


 僕は一歩一歩、着実に進んでいる。

 目の前にいるのが七色の勇者であるのが不思議でならない。

 赤色の勇者は大勢の人を殺した。それを詫びる姿勢はおろか、罪悪感すら持っていない。 このような人間が勇者でいいのか。いいわけない……。

 勇者は一人の命も失わせないよう動く。

 もし仮に犠牲者が出ても、心の底から民衆と共に泣ける。

 そんな人を勇者というんじゃないのか。

 強い者が勇者じゃない。

 勇者は皆の心を繋げる人間だ、僕はそう思っている。


「今、からお前を、止める。目を覚ましたとき、少しでも悪いと思ったのなら、自首して罪を償え!」


「だぁぁぁまあああああれえええええ!」


 僕は走っている間、シトラの顔をずっと思い浮かべていた。

 子供のころからずっと一緒にいた者の顔だ。

 忘れるわけがない。

 笑った顔はほとんど見た覚えがないが、尻尾を揺らしながら無表情を貫いている愛おしい姿なら何度も見た。


 生きて、シトラの笑顔を見るんだ。

 まだ知らないシトラを知るんだ。

 僕が辛い時、いつも助けてくれたシトラに少しでも恩返しするんだ。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


「オラアアアアアアアアアアアア!」


 僕とフレイの間は五メートルにまで狭まっていた。

 未だにフレイの腕は動かない。

 恐怖で足が止まりそうなところを好きな相手の顔を思い出して無理やり動かす。

 不思議なもので、恐怖よりも、相手を思う気持ちの方が強いらしい。だから僕は、今でも動けている。


 残り四メートルになった時、フレイの腕が少し動いた。


 ――動いた! いや、まだだ。ここで動いたら、すぐ剣の軌道を変えられて僕の体は真っ二つになる。フレイが確実に僕を切り裂けると思った瞬間にかわすんだ。


 残り三メートル。

 フレイがさらに腕を高く持ち上げた。

 すでに人の顔かどうかも判断できない表情で、笑った雰囲気を醸し出す。どうやら決めに来たようだ。


 僕はこの時をずっと待っていた。


 残り二メートル。


「オウラアアアアアアア!!」


 フレイは腕を高く持ち上げた状態から、僕の頭目掛けて一気に振りかざした。


 ――ここだ。


 僕は体を右に少し傾ける。

 するとフレイの剣は空を切った。

 すぐ目の前に腕が現れ、僕はすかさず黒卵を当てる。


『無色魔法:無重力。対象、フレイ・ルブルム』


 頭の中で黒卵が言葉を放った瞬間、フレイの体は五〇センチメートルほど浮き上がる。

 僕は慌てるフレイの懐に入り、右手を燃え盛る炎の上からフレイのみぞおち辺りに当てた。


 燃え盛る炎に触れた瞬間に、腕が炎に焼かれる激痛が走る。

 あまりにも熱く、腕から焼け焦げた臭いがする。

 鼻の奥も焦げてしまったのかと思うほど激痛が走り、潤っている瞳が熱で乾燥しそうだったが、溢れ出る涙がすぐに潤した。


「ぐあああああああああ!」


 腕が焼ける刺激が痛すぎて、眼がすぐに乾燥しないくらい大量の涙が溢れ出してしくる。

 まだ右腕に感触があるため燃え尽きてはいない。


『主、右腕は完治しますのでそのままさらに深く押し込んでください。そのままだと力が加わりません。今、振れているのはフレイの本体ではなく炎の鎧です』


「すごーーーーく痛いんだけどおおおおおっ!」


『シトラさんの大きなおっぱいを揉むためには生き残らないといけませんよ』


「やればいいんだろおおおおおおっ!」


 僕は燃え盛る炎の鎧を押しつぶしながらフレイの体を探す。

 右腕全てが埋まるほど深いところにフレイの体があり、ようやく僕の手の平がみぞおちに触れる。


『無色ドラゴン固有魔法:『無反動砲(近距離型)』を使用します。主リコウレスと発してください』


「り、リコウレスっ!」


 僕の掌に、今まで感じた覚えのない力が集まってくる。

 そして一定量が溜まったのか、撃ち出された。


「ぐあああああああああ! ぐろがみぃいいいいいいっ!」


 僕の体は全く反動を受けず、その場に脚を踏ん張って立っている。

 一方、フレイは目にも止まらぬ速さで吹き飛んでいる。

 飛んで行く間に、炎の鎧は剝がれていき、上半身裸のフレイに戻っていった。


 『無重力』の効果がまだ続いているのか、一向に地面に落ちないまま、フレイは僕の視界でとらえられないほど遠くに消えていった。


「はぁはぁはぁ……、す、すごい……。フレイが見えなくなった。それになんだよ、今の威力。風圧で地面が抉れてるし……。僕、こんな力、知らない」


『いい吹っ飛びっぷりでしたね。さすが主、私と同調するだけのことはありますね』


「痛つつ……。そのかわりに僕の腕が丸焦げなんだけど。ほんとにこれ治るの」


『問題ありません。主の体は魔力の回復が速いので相応して傷の自然回復も速いです。あ、すみません。そろそろ魔力が切れます。孵化するための魔力を使ってしまいましたので、もう一度温め直してください。私の予想では一八〇日、約六カ月……の間……ですので、お願いします……』


「ちょ、黒卵さん! あぁ、また光が消えた」


 黒卵からの声が聞こえなくなり、ただの重たい非常食に逆戻り……。


「で、でもよかった。僕、生きてるんだ。あ、今すぐ髪を洗ってしまおう。黒髪だと殺されかけるとか、二度とごめんだ」


 黒髪にあこがれていた時期もあった。もう黒髪にあこがれるのはやめよう。

 プルウィウス王国の初代国王様、どうやら今の時代で黒髪だと、勇者に殺されかけらしいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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