ミルとスライム
「では、明日からよろしくお願いします」
「こちらこそ、ブラックワイバーンの討伐、頑張ってください」
僕はセキさんと握手を交わした。大きくゴツゴツした手で強者の手だった。
「これからどうするおつもりですか?」
「今からスライムを倒して、ロックアントの討伐に向かいます」
「なるほど、私達はサンドワームの討伐を受けていますから、道中ご一緒しますよ」
「本当ですか。ありがとうございます」
僕達と『一閃の光』さん達は洞窟までの道を歩いていた。
「ふっ! はっ! せいっ!」
僕は大量に発生しているスライムを狩っていく。
「すげぇ……。動きに無駄がなさすぎる」
「ほんと、あれで何も魔法を使っていないんでしょ。さすがに速すぎない……」
「キース君は卓越した身体能力の持ち主のようですね」
マルトさん、チルノさん、セキさんは僕の動きを見て少し驚いていた。僕は普通に動いているだけなのだが何かおかしい部分でもあっただろうか。
「キースさん! 凄くカッコいいです!」
ミルは薄黄色の瞳を輝かせて僕を見てきた。あまりそう言った眼差しを向けられた経験がないので焦ってしまう。
「相手はスライムだし、褒められるほどじゃないよ。さ、次はミルの番だ。一度戦ってみて。何が足りないか判断するから」
「わかりました。頑張ります!」
ミルはナイフを手に持ち、地面を這うスライムと向かい合う。
「はあっ!」
ミルはダガーナイフをスライムの核目掛けて突き刺した。
スライムは三〇センチメートルほど横に移動し、停止する。
ミルの持っていたダガーナイフの穂先が硬い岩に衝突し、ミルは手首を捻ってしまった。
「痛っ!」
「ミル。大丈夫?」
僕はミルのもとにすぐに駆け付けて手の状態を見る。
「これは、捻挫しているかも」
「うぅ、ごめんなさい。スライムすら倒せなくって……」
ミルは涙目になってまた泣きだしそうになっていた。
僕はすぐにミルの頭を撫でて言う。
「はじめてなのによく勇気を出してあそこまで思いっきり突けたね。よく頑張った。今回は上手くいかなかったけど何度も続けていけば絶対に上手くいくようになるから」
「うぅぅ。はい……」
「セキさん。簡単な回復魔法をミルの手首に掛けてくれませんか?」
「はい。お安い御用です」
ミルの手首は赤くはれ、とても痛そうだった。実際、ミルの瞳には涙が溜まっている。すでに泣きだしたいのをぐっと我慢しているみたいだ。
「『緑色魔法:ヒール』」
セキさんはミルの手首に手の平を翳し、緑色の光を当てた。すると、赤みが引いていき、ミルの険しい顏も緩んでいく。
ミルが回復してもらっている間に、僕は辺りに残っていたスライム達を討伐しておく。
「ま、まじか。あのまま全部討伐する気だ……」
「ここら一帯だけで三〇匹くらいいたんじゃないかな。でも、みるみる消えていく……」
マルトさんとチルノさんが僕の討伐場面をじっと見ていた。
僕は少し恥ずかしいのであまり見てもらいたくない。ただ、同じ冒険者なので僕の手順に手違いがあれば直してほしい。
「キース、俺にもその動きを教えてくれよ」
「キース君。私にもお願い!」
「僕はたいしたことしていないんですけど」
「「え?」」
マルトさんとチルノさんは目を丸くして、僕が何を言っているのか分かっていない様子だった。
僕は特別な動きをしている訳ではないので教えてくれと言われても何も教えられないのだ。教えられないとなると、見て覚えてもらうしかない。
二分程たち、セキさんの掌から緑色の光が消える。
「これでもう、傷みは無くなったはずです。どうですか、ミルちゃん。痛みはありませんか?」
「は、はい。痛くなくなりました。昨日も回復魔法を使ってくださったのに、今日も使ってもらえるなんて、本当にありがとうございます」
ミルはセキさんに頭を下げた。
「それじゃあ、ミル。今度はゆっくりやってみよう。一匹だけ残しておいたから、このスライムの核にナイフを突き刺すんだ」
「は、はい! 頑張ります!」
ミルはダガーナイフをしっかり持ち、スライムの核をしっかりと狙ってゆっくりと突き刺す。だが、スライムも命が掛かっているので攻撃をかわし、反撃に出る。ミルのお腹に突進しようとしていたので、僕はナイフを投げてスライムの核を破壊した。
「ま、また倒せませんでした……」
「大丈夫。今の動きをもっと早く出来るようになればいいんだ。焦らずゆっくりでいい。着実に倒せるようになるには、スライムをしっかり見て狙いを打定めてナイフを核に刺す。この工程をふめば倒せる。ミルは戦うのが初めてなんだ。できなくても当たり前だよ。しっかり見て狙いを定める所までは出来た。あとは核に突き刺すだけだ。何もできなかったわけじゃないよ」
「キースさん……」
ミルは少ししょげていたがしだいにやる気を燃やし出す。スライムは確かに倒せなかった。だが、スライムを倒すためには様々な手順がある。手順を途中まではふめているのだから最後まで出来るようになるはずだ。あとは反復練習あるのみ。
「さっきのナイフ捌き、何メートル先から投げてた」
「多分、一五メートル先くらいだと思う」
「手慣れているようですね。キース君はスライム討伐にたけているようです」
『一閃の光』さん達に驚かれるようなことはしていないと思うのだが、三人はなぜか僕を見ていた。視線を向けられると、どうしても気がめいってしまう。
――依頼に集中するんだ。ミルが倒すために一匹を残して、スライムの群れは駆除しよう。
僕は目に見えたスライム達を片っ端から狩っていった。
今までは一〇〇匹までしか倒す意味がなかったのだが、今日は二〇〇匹まで倒せるのだ。報酬はミルと半分ずつにするのでなるべく多く狩っておきたい。そうすればミルはお金に当分困らずに済む。
「しっかり見て、よく狙って、刺す」
ミルの行動はゆっくりだが確実に工程をふんでいる。スライムには逃げられているもの。先ほどのように地面に向ってナイフを打ち込んでいる訳ではないので岩石にナイフを突きす心配はなくなった。




