ミルの初仕事
「じゃあ、ミル。早速だけど、依頼を受けよう」
「はい!」
僕とミルは受付に向った。
「おはようございます。キースさん。今日も朝早いですね」
僕は受付のお姉さんに話しかけられた。
「おはようございます。今日もロックアント討伐とスライム討伐の二種類の討伐依頼をお願いします」
「わかりました。えっと、そちらの方は?」
「この子は僕のパーティーメンバーです。えっと、パーティーを作るのってすぐにできますか?」
「はい。可能ですよ。こちらの書類に名前を書いていただければ、パーティーを結成できます」
受付さんは僕に一枚の紙を渡してくれた。枠の中にパーティーの名前と大きな枠にパーティーメンバーを書けばいいみたいだ。
僕は自分の名前を大きな枠に書き、ミルの名前も書く。
「パーティー名ってどうすればいいですかね?」
「パーティー名はお好きなように着けてもらえればいいですよ。ただ、お二方ともギルドカード(仮)ですから、得点はつきませんし、名無しでも構いません」
「確かにそうですね」
僕はパーティー名の枠に『名無し』と書いた。必要事項を記入し、紙を受付さんに渡す。
「ありがとうございます。えっと、パーティーメンバーが二人ですので、討伐依頼の個体数が増加します。一人では一〇〇匹が討伐上限でしたが、二人で二〇〇匹に増加します」
「つまり、互いに一〇〇匹ずつ倒せるってことですか?」
「はい。ですからロックアント二〇〇匹、スライム二〇〇匹の討伐が可能です」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
僕はパーティーになると、依頼の討伐数が増えると知らなかった。まぁ、パーティーになれば討伐しやすくなる上に報酬も山分けせざるを得ないから、その分高く設定されているんだと思う。
「ではこちらがスライム討伐用のナイフです」
受付さんはナイフを二本渡してくれた。一本はミルに手渡す。
「はい、ミル。これでスライムを倒すんだ」
「わ、わかりました。頑張ります!」
ミルは小さな手でナイフを受け取り、腰に固定する。
今日は午前中で終わる予定なので松明を五本買っておく。
「ではお気をつけて」
「はい、今日は昼頃に戻ってくるとお思います」
僕はミルと共にルフスギルドを出た。
「それじゃあ、ミル、ちょっと時間がないから思いっきり走るよ」
「え、ちょ、またこの格好ですか」
僕はミルを抱きしめるような体勢で持っている。
「この体勢はちょっと恥ずかしいので他の持ち方をお願いしたいんですけど……」
ミルは頬を赤らめ、お願してきた。
「そうか……。じゃあ、こうするよ」
僕はミルの肩甲骨辺りと膝裏に手を入れて持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこという持ち方だ。
「キュ~~~~!」
ミルは恥ずかしさのあまり、声が出ていない。もう、時間がないのでこのまま走る。
僕はルフス領の門をくぐり、無法地帯に出たのち『赤の岩山』に向って全速力で走った。
僕達が『赤の岩山』に到着したのは午前八時前。
約束の時間ギリギリの到着になってしまったが何とか間に合った。
僕はミルを地面におろすが、ミルは顔を真っ赤にして力なく地べたにヘロヘロと座り込む。
「ミル、まだ仕事が始まっていないのに休んでいる暇はないよ」
「えっとその、休んでいる訳じゃなくて、気疲れしちゃったというか、恥ずかしかったというか……」
ミルはその場で小山座りをする。耳と尻尾がへたっており、仕事をする前から気がめいっているようだ。太ももが細ばっているせいで、丈の短いホットパンツから下着が見えそうになっており、厭らしい。
「ミル、誰も僕たちのことを見ていないよ。周りの目を気にしていたら行動できなくなるから、誰も見ていないって思うようにすると、少しは気がまぎれると思う」
「そ、そんな訳……」
ミルは恐る恐る顔を上げ、周りを見渡した。
「本当に誰も見てない」
「そうでしょ。だから気を張らずに普通にしていればいいんだよ。誰も見ていないと思えば行動に移しやすくなる。周りを気にしすぎないようにした方がいいよ」
「は、はい。わかりました」
「それじゃあ、待ち合わせ場所に行こうか」
僕とミルは昨日『一閃の光』さん達と約束した場所に向った。
僕達が入口に到着すると冒険者さん達がズラッと並んでいる中に『一閃の光』さん達がいて僕達に気づいていないのか手を振っても反応がない。僕達は仕方がないので、列の横を歩いて行き『一閃の光』さん達に話しかけた。
「あの、おはようございます」
「え、あぁ、おはよう。って、いつの間に……」
マルトさんは僕が真横にいることに驚いていた。
「今、列の後ろからここまで歩いて来ました。えっと、もしかして僕、時間に遅れてましたか?」
「いや、時間通りだ。というか、全く気配を感じなかったんだが」
「え……。気配ですか?」
「そうだ。生き物は少なからず気配を持っている。説明するのが少し難しいが、そこに何かがいると教えてくれる感覚とでも言おうか。その気配が今まで全く感じ取れなかった。何でなんだ……」
「さぁ、僕に聞かれても分かりませんよ。自分の気配はどうしようもありません。消し方はわかりませんし、まぁ、確かに影が薄いとは思いますけど」
「ところで、キース君。後ろにいる可愛い子は誰?」
チルノさんがミルに気づいたらしい。昨日あなた方が助けた獣人なのだが、見かけがあまりにも変わり過ぎており、正体が気づかれていない。
「急遽僕のパーティーメンバーになった子です。ちょっとした理由で人見知りなんですけど、仲良くしてあげてくださいね。ほら、ミル、挨拶してみて」
僕はミルを前に立たせて自己紹介させる。
「えっと、昨日は助けてくれてありがとうございました。ぼくの名前はミル・キーウェイと言います。よろしくお願いします」
「え……? 昨日、私達があなたを助けたの? いつ?」
チルノさんは未だに気づいていないらしい。まぁ、髪の色や服装が全く違うから気づけなくても仕方ないと言えば仕方ない。
「もしかして、昨日の獣人さんですか?」
セキさんが気づいたらしく、ミルは頭を立てに数回動かした。
「う、嘘だろ。こんなに可愛かったのかよ。俺が優しく介抱すればよかった」
マルトさんはチルノさんに殴られてお腹を抱えながら地面に両手と両膝をつける。




