スキル『無傷』
「キースさんは悪くありませんよ。まさか男と間違われていたとは思わなかったですけど。逆に、ぼくのほうはこんなにしてもらいました。何か返さないといけないという気持ちで一杯になっていて、キースさんにならいいかなって思ってたんですけど。な、なんか、ぼくのほうが舞い上がっちゃってたみたいで、凄く恥ずかしいです……」
ミルはなぜか泣きだしていた。少し笑いながら泣いていた。なぜそのような現象になるのか僕にはわからないが、涙が出るということはきっと悲しいからだろう。
僕はどうにかしてミルに泣き止んでもらうべく、頭を撫でようとした。だが、こんな男から頭を撫でられて嬉しいと思うだろうか。嫌悪感を抱かれるのでは。そう思うと手が伸びなかった。
「えっと、ミル。全部見なかったことにするから、出来れば仲直り……」
「嫌です……」
「うぐ」
ミルは俯きながら仲直りを拒否してきた。
――そりゃそうだ。ミルは決死の覚悟を持って今までこの場に居たのに僕がミルの尊厳を傷つけた。知識がおかしいといえばそれまでだが、ミルがどうにかして生き延びるために考えた行動であり、辛いと思いながらも選んだ道を僕は足で踏みつぶしたようなものだ。
じゃあ、僕がミルを抱けばいいのか。いや、そうじゃない。そうしたらもっと関係が悪化するに決まっている。
「ど、どうして、僕は仲直りをしたいんだけど」
「キースさん、全部見なかったことなんかにしないでください。キースさんはぼくの傷を見ても全く動じていなかった。それどころか、生きてきた証と言ってくれた。実際、こういう場面は一杯あって、他の男性は背中の傷を見た途端、不気味がって部屋の外に蹴り飛ばしてくるのが落ちで」
「いや、その、あれは本心だし、ミルが男だと思ってたから、傷がついていてもどおってことないって言いたかっただけで」
「そうだとしてもぼくは凄く嬉しかった。実際、傷はぼくの生きてきた証に違いありません。そう言ってもらえた時、自分が今も生きているんだって実感できたんです。だから、全部見なかったことに何てしないでください。ぼくは体くらい見られても動じません。キースさんになら全部さらけ出せます! 夜の営みだって頑張ってやります。だから、捨てないでください!」
ミルは床におでこを着けて土下座してきた。
僕はミルを捨てる気はさらさらないのだが、ミルはなぜ捨てられると思うのだろうか。
もしかして僕がそんな悪人に見えてしまっているのだろうか。そうだとしたら少し悲しい。
出来るだけ善人でいようと心掛けていたのに。だが、ミルに土下座させてしまったのは僕の失態だ。
僕は上着を脱ぎ、ミルの丸見えになっている傷だらけの背中を隠すようにして羽織らせる。
僕の上着がミルの体に当たると、ミルは体をびくっと跳ねさせた。どうやら相当怖いらしい。上着を羽織らせてもなお、ミルは土下座したままだった。どうしたらいいのか僕には分らない。
「ミル……」
「お、お願いします! 捨てないでください! いつでも、どこでもぼくを使っていいですから、お願いします!」
ミルは必至だった。このままだといつもと同じように捨てられる。今の季節に外で野宿したら凍え死んでしまう。そう言った感情が今のミルを突き動かしているのかもしれない。
「ミル、こんな僕だけど君の頭を撫でてもいいかな」
「ど、どうぞ……」
僕はミルの頭を撫でた。
僕が洗った後、もう一度洗い直したのでもっと綺麗になっていた。
髪が白っぽく、僕の髪と似ている。髪どころか、境遇もどこか似ている。ただ、僕には生きる希望があって、ミルには無かった。ただそれだけの違いだと思う。
運もあるけど、それは皆、平等に与えられていて調子がいい時は運がいい、悪い時は運がないと言っているだけだ。
だから、僕は運がいいという言葉は嫌いだ。まるで自分が何もしていなくて良い結果を掴み取ったみたいじゃないか。
僕は自ら運を掴む。その為に努力して行動を起こす。そうしないと運が巡ってくるわけがない。今、ミルは運を手繰り寄せたんだ。
「ミル、僕は君を捨てたりしないよ。もとから捨てる気はないし、ミルが一人で生きて行けるようになるまで面倒を見る。そう決めたのは僕だ。だから、顔を上げて。土下座なんてしないでよ」
「じゃ、じゃぁ。ぼくは、ここにいてもいいんですか?」
ミルは顔を上げて僕の方を見てきた。キラキラと光る瞳はどこか金色に見えなくもない。
「うん。もちろんだよ。安心して」
「う、うぅぅ……」
ミルは髪と同じように薄い黄色の瞳に涙を浮かべ、ぽろぽろと泣きだす。
「キースさんっ!」
「うわっ!」
ミルは僕に飛びついてきて胸の中で泣いた。僕の手はミルの頭と背中に振れている。こんなに大胆な子だとは思わなかったが、ここからどうやって動けばいいのか僕にはわからない。
僕にシトラという愛すべき人がいなかったら余裕で襲ってる気がする。
ミルはそれくらい愛らしく、美しい。さっきまで男だと思っていた僕が何てバカだったんだろう……。
その日の夜は泣き続けるミルの頭を撫で続けた。背中の痛々しい傷跡を掌で撫でてる。
――こんなに綺麗な体を傷つけるなんて、ミルを悼みつけた男たちはいったいなにを考えていたんだろう。
獣人がいけ好かないと思うのは勝手だが、傷つけるのはおかしい。治ってくれればどれだけいいかと思う。治癒魔法だとどうなるんだろうか。僕に魔法が使えれば。
僕は何も考えず、ただただ、ミルを撫で続けた。そんな時、微かに黒卵さんのほうから声が聞こえた。
『認証・治療不可の傷を確認。スキル『無傷』を取得』
「え……」
「き、キースさん。どうかしましたか。ぼ、ぼくはいつまで待っていればいいんでしょうか……」
ミルは僕の胸から顔を上げる。すると僕の視界にミルのあばら骨が見え、胸元に少し実った愛らしい乳房がまみえる。
「み、ミル。僕はミルとそういうことはしないよ。そういうことをしたいからミルを助けたわけじゃない。ただ、ミルの助けになりたいだけなんだ」
「そ、それじゃあ、何でぼくをずっと撫でていたんですか?」
「いや。それはミルに泣き止んでほしかったから」
「そ、そうですか。キースさんは優しいんですね……」
ミルは頬を赤く染めて、僕から視線をそらした。
「えっと、ミル、服を早く着てくれないかな。その、見えるんだ……」
「えっ……。はっ! きゅぅ~~~~!」
ミルは僕から完全に離れ、背中を僕に向けた。
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