『一閃の光』
「証拠を見せろと言われても……。なぜですか? あなた達には関係ないと思うんですけど」
「不正していないか知りたいんです」
「不正? でも、僕、歩いて受付さんのところにまで行きましたよ」
「本当にロックアントの素材なら、重さを操れませんが魔力で生み出した素材なら重さを改変できるんです。最近、各ギルドの詐欺事件が横行しているので、協力してください」
「は、はぁ。まぁ、いいですけど」
僕はなぜか、ロックアントの素材一〇〇個を持ち上げなければならなかった。ただ持ち上げるだけでいいのでそこまで時間を食う訳ではないが、疑われているらしく、誤解を解かないと返してくれなそうだった。
僕は素材置き場に向い、ロックアントの素材を集めてもらう。
「えっと、これがキースさんに持って来ていただいた素材です」
受付さんは滑車の付いた手押し車を三台持ってきた。
「これを一人でもって来られるものなのか」
金髪の男性が呟き、麻袋に入っているロックアントの素材を纏めて持とうとした。
「嘘だろ。持ち上がらねえ……」
麻袋の紐をすべて持ち、両手で持ち上げようとしているがこのまま続けると腰を痛めそうなので金髪の女性が男性を止める。
「じゃあ、私は『黄色魔法:細胞活性』を使って持ち上げてみる」
女性の体に光の線が走る。それは雷のようでバチバチと音を立てていた。
「よし、行くよ!」
女性は麻袋の紐を両手で全て持ち、全身に力を入れて持ち上げようとする。
「ふぐぐぐぐ!」
「おお! 持ち上がってるぞ! さすがの馬鹿力だな!」
「はぁ、はぁ、はぁ……。こ、これを持ち上げるだけで精一杯なんだけど……」
「じゃあ、次は僕ですね」
僕は片手で麻袋の紐を持ち、普通に持ち上げて肩に担いだ。
「は。う、嘘だろ」
「本当に持ち上げちゃっているよ。しかも片手で」
「先ほど確認しましたが、どれも本物のロックアントの素材でした。つまり、間違いなくキースさんが自分の力で持ち上げているという証明になります」
三人の冒険者は口をあんぐり開け、驚いていた。
「これで僕が不正していない証明になりましたね。では、僕はこれで失礼します」
「あ、ちょっと。君はどうしてこの依頼を受けているんだ。君ほどの力があればロックアントの討伐じゃなくても色々依頼を受けられるだろ」
金髪の男性が興味本位に聞いてきた。
「僕は冒険者の試験を受けていないので、高ランクの依頼を受けられません。あと、ロックアントの討伐がおろそかにされていると言われてたのでスライムと一緒に駆除していました」
「なるほど。と言うか、冒険者の試験を受けていないのに冒険者の依頼を受けられるのか? Fランクの依頼しか受けられないんだろ」
「僕はギルドカード(仮)を使ってEランクとDランクの依頼を受けています。それ以上はギルドカードを持っていないので受けられません。まぁ、命が大事なので別にいいんですけどね」
「なぜ、ギルドカードの試験を受けないんだ?」
「受ける必要がないからです。僕は今のままでも十分ですし、別の目的があります。あと、ギルドの依頼は副業なので本格的にやっている訳じゃないんですよ」
「その力を持っていて副業……。じゃあ、本業は一体何しているんだ?」
「飲食店で働いています」
「も、もったいねえぇ……」
三人の冒険者さんは皆同じ表情で、僕を見てきた。
「僕はこれで失礼します。時間は待ってくれませんから」
「そ、そうだな。すまない。疑ってしまって。貴重な時間を取らせちまった」
「いえ。気にしないでください。疑いが晴れて僕はよかったです。では……」
僕はその場を離れようとした。だが、またしても呼び止められる。
「あの。私達、ブラックワイバーンを討伐しに来たの。もしよかったらあなたも仲間にならない?」
金髪の女性からの申し出だった。
「私達はフラーウス領から来た冒険者パーティーです。あと一人か二人、仲間が欲しいと思っていたところなんですよ」
「仲間ですか……」
僕は迷った。先ほどまで喧嘩していた人たちの仲に入って馴染めるのかと。また、さっきの獣人さんみたいにへまをして大勢の前で曝されるんじゃないかと。だが、この人達は心優しいと何となく分かる。
でも、知り合って間もない人達のパーティーに入るのは危険が大きいと、獣人さんを見て知った。
「えっと、じゃあお試しってことでどうでしょうか?」
「「「お試し?」」」
「僕もブラックワイバーンが目当てです。なので仲間は欲しいと思っていました。でも、名前すらしない人達とパーティーを組むのは少し抵抗があります。なので、数日間行動を共にしてから決めるのはどうでしょうか?」
「そ、そうか。俺達まだ名乗ってすらいなかったな。すまない」
金髪の男性は僕に頭を下げて謝ってきた。
「俺の名前はマルト・サンダース。年齢は一八歳だ。三原色の魔力はイエロー一色。特技は魔剣攻撃だ。よろしく頼む」
マルトさんが挨拶すると、隣にいた女性が話し始めた。
「初めまして、私の名前はチルノ・ライデン。年齢はマルトと同じ一八歳。三原色の魔力はイエロー一色。職業は戦士で大抵の武器を扱える。よろしくね」
「初めまして、先ほどは挨拶をせずにすみません。改めまして、私の名はセキ・シデンと言います。『一閃の光』のリーダー。年齢は二〇歳。三原色の魔力はシアンとイエローの二色です。髪がないのは家系の規則ですのでお気になさらないようお願いします。主に魔法を使って戦います」
三人が自己紹介を終えたところで僕の番が回ってきた。
「僕の名前はキース・ドラグニティと言います。年齢は一五歳です。三原色の魔力は持っていません。なので真面な魔法は使えません。身体能力はそこそこ動けると思っています。武器の心得や体術の心得は全くありません。ど素人です。ただ、根性だけは誰にも負けないと思っています。これからよろしくお願いします」
僕は『一閃の光』さん達に頭を下げる。
「ああ、こちらこそよろしくな。キース。年下とは思っていたが成人してたんだな。顔が幼いからもう少し若いと思ってたぜ」
「私もそう思ってた。でも、ちゃんと成人してたんだね。若く見えるっていいなー」
マルトさんとチルノさんは僕が成人していないと思っていたらしい。冒険者の仕事は成人していないと受けられない仕事ばかりなので、そこの部分でも疑われていたのかもしれない。




