サンドワームの味
「あの、もしよかったら食べてもらえませんか。サンドワームの丸焼きなんですけど、甘くて美味しいですよ」
「え、ああ。はい。貰います……」
僕は初めて会った女性と話し、言葉がつっかえてしまい、恥ずかしい思いをした。だが、女性からサンドワームの丸焼きを貰う。
サンドワームの丸焼きの見かけは輪切りにされた大根を銀杏切りした形で、身の色はカスタードクリームのような薄い黄色。匂はほのかに甘く、プリンのように身が震えるほど柔らかい。ただ、皮は硬くてしわしわだ。僕は食べた覚えのない食材なので一口目がとても緊張した。
「ハム……。モチュ、モチュ、モチュ……」
触感をそのまま言うとねっとりとしたゼリー状の肉。クリームに歯ごたえを持たせ、噛めるようにした物と言ったほうがいいか。とにかく初めて食べる触感だった。
味はとても甘い。お菓子と同じくらいの甘さがあり、土臭いとかは一切なく、クリーミーでとても美味しい。プリンを噛めるようにした食べものと表現したら分かりやすいかもしれない。
「凄い。サンドワームってこんな味がするんだ。ほぼプリンだよ。でも、食べ過ぎると肛門から油が出るんだっけ。この一片だけのしておこう……」
僕はサンドワームのお返しが何か出来ないか考えるも、持っている品がロックアントの胸を七○個と触角七○個、松明五本だけしかなく、あげられる物がなかった。
「だーっくそ。サンドワームを切ってたら、刃がなまくらになっちまった。これじゃあ、スライムでも切れそうにないぞ。誰か、研磨材を持っているやついたか? それか、砥石でもいいんだが」
剣を持っている男性はパーティーメンバーに聞きまわっているが誰も持っていないみたいだった。
――丁度いい。これだけあるんだ。一個くらいあげてもいいよな。
僕は麻袋からロックアントの胸を一個取りだし、剣を持って困っている男性のもとに向う。
「あの、これよかったら使ってください。ロックアントの胸の素材です。確か、研磨材になるんですよね」
「おお、ありがたい。だがいいのか? その素材、ここまで運ぶのに苦労しただろ。対して単価も高くないのに。せっかく運んでいた素材を譲ってもいいのか?」
「はい。さっきサンドワームをいただいたお礼です。一個くらいすぐに取れますよ」
「そうか。なら、ありがたく使わせてもらう」
男性の冒険者さんは僕からロックアントの素材を受け取り、ダガーナイフで綺麗に半分に叩き割った。
球体が半球になり、一個は下に置いた。
「ふっ!」
半球は男性の手の中で粉々になり、手で受け止めきれないほど細かい砂が地面に落ちる。
手の中に残っている粉を剣全体に塗し、男性はウェストポーチから使い込まれた布を取り出した。布を使って剣に着いた粉を擦り取っていく。すると、油でテカっていた剣が銀本来の輝きを取り戻し、魔法の明りを反射していた。
男性は床に置いてあるもう一頭の半球を使い、剣を研いでいく。すると、ほんの数分で剣の手入れを終えてしまった。きっとやり慣れているのだろう。それだけ剣を愛用している証拠だ。
「よし。これでこの先も戦える。ありがとう、少年」
――少年。まぁ、僕は子供っぽいけど、実際に言われるとちょっと悲しいな。実際は成人しているのに。
「リーダー、そろそろ休憩も終わりますし、先を急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
サンドワームを解体し、皆に振舞っていた冒険者パーティーは休憩場を移動する。
「あの人たちは何を目的にしているんだろうか。強そうな人達ばかりだったから、凄い難しい依頼に挑戦しているのかも……。面白そうだけど、着いていくのは危険だな。ちゃっちゃと仕事を終わらせてしまおう」
僕は洞窟の更に奥に進み、ロックアントを討伐、素材の回収を二時間行って一〇〇個の素材を集められた。
「よし、あとは外に出てブラックワイバーンを探すだけだ」
僕は進んでいた方向と反対方向に移動する。脇道にそれたわけでもないのでずっと真っ直ぐ行けば出られるはずだ。
僕が一歩を踏み出すたび、地面が少し凹む。ロックアントの胸が一〇〇個と言うことは、一個五キログラムなので五〇〇キログラムの重さがあるということだ。
つまり、五〇〇キログラムが僕の体重に加算されている。だが、地面が凹むという現状は五〇〇キログラムの体重が増えたくらいで起こらないはずだ。
何かが異様に重くなっていると結論付けるしかない。
どう考えても黒卵さんなのだが、明らかに重さが二倍以上になっている。
僕の体が鍛えられていなければ到底歩くと言う動作をこなすのすら難しかったはずだ。でも、僕はどうにかこうにか動けていた。重さにもしだいに慣れ、小走りで移動できるようになったため、移動速度が各段に上がり、松明の消費を削減できた。
隣を進む冒険者さん達は僕の方を何度か見て、何を運んでいるのか気になっているような表情を浮かべていた。
「あの少年、いったい何を運んでるんだろうな?」
「さぁ、でも地面がぬかるんでるわけでもないのに、足跡が出来てるぞ。どれだけ重たい物を運んでいるんだ」
「三原色の魔力を持たない白髪なのに、そんなに重たい物を持てるのかよ」
「無理だろ普通。普通のやつなら橙色魔法の身体強化を使っても三〇〇キログラムの石を持ち上げられるくらいだ。それでも岩の地面に足跡なんてつかないぞ」
「じゃあ、あの少年は魔法も使わずに三〇〇キログラム以上の素材を運んでいるというのか?」
「そうだが……、現実的に考えてあり得ないよな」
「ああ、あり得ないな。あれは何かの間違いだ」
僕の横を通り過ぎて行った冒険者さん達は皆、同じような内容を話しながら移動していった。
実際の僕はそのまさかをこなしているわけだが、今にも重圧に押しつぶされそうになっている。
どれだけ重くなれば気が済むのか。一歩、一歩進むごとに重さがまし、汗が止まらない。まるで先に進むなと言っているかのようで、その場で少し停止する。重圧は変化しなかった。この先が出口のはずなのだが、いったい何があるのか、僕は気になってしまった。
「でも、黒卵さんが無意識に僕を塞き止めようとするくらいだからな……。さすがに行かない方がいいか」
僕は脇道にそれる。道は狭かったが体に感じる重さがしだいに軽くなっていった。
「やっぱり、何かあの先に危険があったんだ。黒卵さんが守ってくれたのかな。ありがとうございます」
僕は手持ちの素材を何とか外に出せるくらいの小さな出口から這い、洞窟から脱出した。
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