ロックアントの効率的な倒し方
「あ、ロックアントの鳴き声だ。近いぞ」
僕は耳を澄ませ、声がどこから聞こえてくるのかさぐる。
音は大きく、さほど遠くにはいない。壁の横や地面にはいない為、僕は上を向いた。すると、一〇匹のロックアントが群れを成し天井に張り付いていた。結構気持ちが悪い。だが、僕の大切な資金になってくれる魔物だ。丁重に倒させてもらう。
僕はロックアントのいる天井の真下から少し離れ、壁を思いっきり蹴る。
脚が壁にめり込むほどの力が出てしまい、力加減を間違えた。だが、ロックアントが反応し、天井から落ちてくる。
「さてと、洞窟内で僕は戦えるのか、実践だ!」
僕はロックアントの胸が入っている麻袋を手放し、地面に置く。左腕についているダガーナイフを鞘から抜き出し、逆手持ちで構えた。
ロックアント達は僕に威嚇するように大きな顎を開けたり閉じたりしている。あれに挟まれたら僕の腕はちょん切れるだろう。絶対に注意しなければ……。
僕はロックアントの出方を見ようと思ったのだが、初見の攻撃されても見抜けず食らう可能性を考え、先制攻撃に出た。
「先に倒せば攻撃を食らわずに済む」
左手に松明を持っているので少し戦いにくいが、道幅が広いため動きやすい。ロックアントの頭を潰せば僕の勝ちなのだ。一匹でも削れば、体勢も崩れるはず。
僕は地面に足跡を作りながら加速し、先頭のロックアントの頭にダガーナイフを突き刺して倒す。
後方のロックアントは既に移動し、壁全体に広がって行って、僕を取り囲んだ。
「なるほど……。全方位囲まれた。これは一人で戦うのは厄介な相手だな」
ロックアントは鳴き声を上げた瞬間、全方位から僕を襲ってきた。壁にいた個体は跳躍し、僕を大あごで挟もうとしてくる。地面にいる個体は物凄い速さで脚に噛みつこうとしてくる。頭上にいる個体は胸の重さを利用して落ちてきていた。
――考えろ、どうやって倒す。どうやって攻撃を受けずにこの状況を回避できる。
僕はダガーナイフを前方にいるロックアントの頭に投げる。
ダガーナイフが頭部に見事に命中し、ロックントは動かなくなった。だが、まだ八匹残っている。僕は腰に掛けていた松明を右手で持ち、両壁から飛んでくる二匹のロックアントに松明を噛ませ、顎を使わせる。そのまま手を放し、後方に移動。後ろから迫っていたロックアントの頭部を靴裏で踏み潰す。
天井から落ちてきたロックアントは地面に埋まり身動きが取れなくなっていたので剣をさっと引き抜き頭部に突き刺して倒す。ここまでで、一〇匹中、四匹を倒した。これだけ倒すと包囲網に穴が開く。
僕はロックアントの頭に刺さっていたダガーナイフを引き抜き、地面を蹴って加速して包囲網を抜け出す。僕に攻撃をかわされた六匹は再度陣形を整えて僕の前に立ちはだかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。まだ半分も倒せていないのか。数が多いとやっぱり厄介だな」
ロックアントの足下に燃えた松明があり、敵の様子はよく見えた。奴らは見た目が虫なのに炎で燃えないみたいだ。僕は剣を鞘に戻し、ダガーナイフを逆手に構える。
「さぁ、もう一回行くぞ!」
僕は加速し、ロックアント達の頭上に移動する。奴らは三角形の陣形を取っており、僕が動くや否や、六方位に別れ、僕を再度囲った。先ほどと同じように一回目から頭を潰させてくれないみたいだ。こうなるとまた僕の周りからロックアントが飛び込んでくる。しかも同じ瞬間にだ。つまり、どの個体も最終的には中央の僕にたどり着く。天井にも同じように僕を塞ぐロックアントがいた。
――これ、僕が抜けたらどうなるんだろう。
僕は先ほどよりも個体数が少ないのを利用して包囲しきれていない隙間に飛び込んでみる。
天井から落ちてきたロックアントの胸が重なり合う他の五匹の頭を潰した。
「連携が取れすぎるのも問題なんだな……」
僕は地面に埋もれている最後の一匹の頭をダガーナイフで刺した。
「ふぅー。何とか倒せた。これで二○匹。金貨四枚だ。なかなか順調な滑り出しだぞ。麻袋にロックアントの胸が一〇個しか入らないからもう一枚新しい袋に入れないと」
僕はウェストポーチから麻袋を一枚取り出し、ロックアントの胸を入れていく。右触角も忘れずに千切り、腰のベルトに挟んである麻袋に入れた。
「よし、次々行くぞ」
僕は計一〇〇キログラムのロックアントの素材を持ち、歩く。少し重いが歩けない訳じゃない。ロックアントを発見したら素材を地面に置けばいいし、強敵が現れたらその場に捨てて逃げればいい。そう決めておくだけで冒険者の依頼が楽しくなった。
ただ、松明を二本無駄にしたのはもったいない。折れた松明をとりあえず拾い、持ち歩く。半分になっていたので三〇分経てば燃え尽きるはずだ。僕は燃え尽きる前に折れたもう一方の松明に火を移し変えて使った。炎は熱かったがフレイや領主の炎に比べれば屁でもない。
松明を二本分使い切ったころ、新たなロックアントの群れに遭遇し、先ほどと同じ方法を使って難なく撃破。ロックアント達は騎士並みに全く同じ攻撃を繰り出してくるので、連携が完璧に取れていた。それ故に、攻撃する箇所を一点に絞れば、まとめて倒せてしまう。
「倒し方が分かると討伐が凄く楽になったぞ。これで三〇匹。あと七〇匹だ」
洞窟を歩いていると、ロックアントの素材が捨ててある。素材が風化せず残っている物も多かった。どうやら、他の冒険者は重い素材を毛嫌して進むのにじゃまだからロックアントを倒しているだけらしい。
「じゃあ、ありがたくいただきますか」
松明三本分の間に僕はロックアントを三〇匹倒し、ニ〇匹分の素材を拾った。時間的に昼になり、僕は洞窟の中でアイクさんのお弁当を食べる。
「何か、土竜になった気分だ。と言うか、アイクさんの弁当はいつも美味しいな。凄い元気が出てきた」
僕は洞窟の中でも比較的広い場所で休憩を取っていた。周りにも、休憩を取っている冒険者さん達が多数おり、僕の方を見てきているような気がした。
――僕、見られてるのかな。もしそうだとしたら、何で見てきているんだろうか。恥ずかしいからやめてほしいな。
そう思っていたが、どうやら見ていたのは僕の方ではなく、大きな魔物を解体している冒険者パーティーの方を見ているみたいだった。
――あれは、何て魔物だろう。あんなに大きな魔物がこの土の中をうろついているのかな。ちょっと手引きで調べてみるか。
僕は解体されている魔物の形と大きさ、色などから一頭の魔物の名を見つけ出す。
――ふむふむ。あれはサンドワームって言う魔物か『体長が五メートルを超える個体が多く、成虫になると光沢のある甲虫になり、取れる素材は高額で取引される。しかし、危険度はロックアントの女王に匹敵し、甲虫になる前のサンドワーム中に倒すことを推奨する』か。なるほど、甲虫になる前に討伐したのか。
そのまま僕はサンドワームの説明を読み続けた。
――へぇー。サンドワームからは有用な素材が取れないんだ。でも、珍味として広く好まれているか。美味しいのかな。見た目はただの芋虫にしか見えないけど……。
僕も周りの冒険者さん達につられ、サンドワームの解体を見ていた。すると解体をこなしている冒険者パーティーが他の冒険者さん達にサンドワームの一部を配り始めた。
陰の薄い僕のところにも来てくれるか不安だったが、一人の女性が歩いてくる。




