順位決定戦
「僕はアイクさんのもとで働かせてもらっていますから、よく知っていますよ」
「な……、そうだったのか。だから白髪でも依頼をこなせるほどの力をみにつけられたのか」
ハイネさんは僕の髪を見て言った。
「そうだと思います。でも、アイクさんは僕に働かせる気はなかったみたいですけど、フレイが関係しているんですかね?」
「そうだな、フレイの件で少々性格が変わった。アイクは元々弟子とかそういう者を作らない主義だった。もとから冒険者としての成績は常に優秀。失敗した仕事はないと言いきれてしまうくらい完璧なやつだった。本来ならあいつがギルドマスターをやるべきなんだが、なぜかあいつは店のマスターをやっている。ほんと、面倒事が嫌いなやつで、私に皴が全部寄ってくる」
ハイネさんはため息をついて、前髪をかきあげた。
「ハイネさんはアイクさんと仲がいいんですね」
「同期だからな。それなりに関係は深い」
「アイクさんが冒険者を止めた理由もフレイが関わっているんですか?」
「ああ。アイクの指導でフレイは成長した。性格はそのままで力を身につけたんだ。一五歳になった時、フレイは赤色の勇者になることをプルウィウス王に認められた。初めは小生意気な性格と熱い人情で仲間思いのいい勇者だった。だが、王城で勇者の順位決定戦が開催された。一年くらい前か……」
「勇者の順位決定戦は王都で有名な祭典です。遥か昔からどの領土が一番になるかで豊作を願ったり、報酬を与えて活性化させたりする行事です。今ではちょっとした娯楽みたいになっている戦いですよね。順位決定戦にフレイも出ていたんですね……」
「そうだ。一年前の順位決定戦でフレイの順位は最下位だった。トーナメント形式で一回目に運悪く当たったのがプルウィウス王国で最強と名高い藍色の勇者だったんだ。フレイは藍色の勇者との戦いにあっけなく負けた。魔法の差でもなく、技量の差でもない。ただ、圧倒的な魔力量の差で負けたんだ」
「魔力量の差……」
「フレイは他の勇者より優れているのが魔力量だった。今では一、二を争うほどまで成長したが、当時は虫を捻りつぶすが如く完敗した。私はギルドマスターとして共に参列したが、順位決定戦の会場である王城は重苦しい空気だった。今、思い出してもフレイに申し訳ない。成人になったばかりの少年には荷が重すぎたんだ。なんせ、ルフス領の代表で戦いに出る訳だからな。どれほどの重圧があったか……」
ハイネさんは両手を握りしめ、顔を暗くしている。
「ルフス領の全領民が勝利を欲している状況ですもんね。ルフス領の全てを背負って戦っていたのか。じゃあ、一年前の順位決定戦の頃からフレイがおかしくなったんですか?」
「そうだ。フレイは負けた時酷く落ち込んでいた。その後、王城で夜会があったんだ」
「夜会ですか。確かに勇者の順位決定戦があった時は夜会するでしょうね」
「その夜、フレイはプルウィウス王国の第一王女と仲良くなっていた。落ち込んでいるフレイに気さくに話しかけ、気を良くしていたんだ。さすが第一王女だと思った。私はこれで少しは気がまぎれるだろうと思い、第一王女のビオレータ様に後をお願いしたんだ」
「ビオレータ・プルウィウス。彼女がフレイに関わっていたのか……」
「フレイは成人だったからな、やけ酒をしてふらふらになるまで飲んでいた。その介抱もビオレータ様がやってくださった。休憩室に連れて行くと言われ、私はフレイから目を離した」
「それでフレイはどうなったんですか?」
「数時間して戻ってきた。だが、どこか雰囲気が違った。子供っぽさが抜けてたんだ」
「そ、それって。そういうことですかね……?」
「さぁ、分からない。だが、フレイの性格が豹変し始めたのはここからだ。何かあるとすれば夜会の中で何かが起こっていた。フレイは酒と女に入り浸り、権力を使ってやりたい放題。だが、最近は少しおとなしくなった。魔力の質が上がっていたんだ。何か混ざっていた物が吹き飛んだみたいな……、フレイの魔力そのものが、戻ったような感じだ」
――もしかして、僕がフレイを吹き飛ばしたから、何か変わったのかも。だとしてもフレイの問題行動は変わっていない。
多少良くなっただけでまたいつ暴走するかわからないんだ。でも、第一王女がフレイに関わっている可能性がある。僕が貴族のままなら会えた可能性はあったけど、もう絶対にあの家に帰りたくないからな。別の方法で探ってもらうしかないのか。
「私が知っているのはそれくらいだ。これでフレイの行動を許してくれと言わない。だが、フレイの件には目を瞑ってもらえないだろうか。今、フレイが勇者を止めたらまたしてもルフス領が乱れてしまう。あんな男でも勇者なんだ。いるといないのとでは他の領土との信頼関係に雲泥の差がある」
「でも……」
「今、下がり続けていた景気がようやく回復しているところなんだ。加えて、ブラックワイバーンの出現率が最も高い地区が『赤の岩山』になっているおかげで他の領土からの冒険者も増えた」
「確かに『赤の岩山』には他の領から来た冒険者さんがいっぱいいましたね」
「こんな好機、もう二度とないかもしれない。今、フレイが事件を起こしたとしても他の領土に知られなければそれでルフス領が安定するんだ。たとえフレイが悪事を働いていたとしても見逃してほしい。責任は領主と私で取る。それがルフス領のためなんだ」
ハイネさんは頭を深々と下げ、土下座してきた。僕が列車事故を知っているからか、ギルドマスターの誇りはもうないらしい。ただただルフス領の民を思ってやっているだけのはずだ。
それでも僕はフレイの悪事を認めるわけにはいかない。たとえ他の人が目をつぶっていたとしても、僕はフレイに罪を償わせる。そうしないと無残に死んでいった人たちが浮かばれない。
僕は運よく生き残ってしまった。なら、フレイに罪を償ってもらうよう請求するしかない。だが、フレイが罪を被ることをルフス領の民は望んでいない。
もし、フレイを捕まえて勇者が剥奪されたとする。そうなった時、ルフス領の民、全員が被害を受ける。列車で焼死した三〇〇人とルフス領の民、数十万人。死者と比べたらルフス領の民の方が人数は断然多い。だが、人の命に優劣があるとは思えない。
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