冒険者は基本二人組から
「今日は何をしてきたんだ?」
「『赤の岩山』に行ってロックアント討伐とスライム討伐を行ってきました。初めて行ったので人の多さに驚きましたよ。皆ブラックワイバーン狙いなのが丸わかりで、凄い装備の人たちばかりでした」
「今はそうだろうな。ブラックワイバーンの出る確率が一番高いのは『赤の岩山』に間違いない。だが、ロックアントの討伐とはなかなかきつい依頼を受けたんだな」
「きつい? まぁ、確かに見つけるのに苦労しました。倒すのはそこまで難しくなかったですけど……」
「あいつらの素材は結構重いだろ。洞窟の中であんな重たい素材を持って移動するのは大変だからな。全部エルツに持たせていた。あいつは笑って一〇○個を担いでいたから本当に筋肉馬鹿だと思ったものだ」
「はは……。凄いですね」
「ロックアントが厄介なのは洞窟の中だ。外だと動きが鈍くなる。外だと音が反響しないからな、狙うなら外にいるやつらにした方がいい。あと、女王には気をつけろよ」
「女王? ロックアントの女王ですか」
「そうだ。女王は通常のロックアントの一〇倍はある。もし遭遇しても絶対に近づくなよ。気性が荒いうえに周りにいる特段強いロックアントの個体に守れている。女王自体も強いから見かけても逃げろ。キースの足なら逃げられるはずだ」
「わ、分かりました」
僕はアイクさんに念押しされ女王を見かけても絶対に近寄らないと決めた。
――せっかくアイクさんと話しているんだから洞窟の中で戦いやすくなる道具がないか聞いてみようかな。
「あの、アイクさん。質問してもいいですか」
「何だ?」
「ロックアントは主に洞窟の中にいるじゃないですか」
「そうだな」
「洞窟の中にいる魔物を一人で狩るにはどうしたらいいですか?」
「冒険者は主に二人以上のパーティーで行動するものだ。ソロで行うものじゃない。だから、一人で洞窟の中に入るのは危険だ。無理に入らない方がいい」
「それは分かってるんですけど、洞窟の外だけじゃどうしても大量に倒せないんですよ。洞窟の中に入っていく冒険者さん達に同行をお願いしても全部断られてしまいました」
「ま、そうだろうな。キースをパーティーに入れる利点がないからな。きっと対外の場合は断られるだろう。だが、自分の役割をしっかりと遂行できるなら、入れてくれる可能性もある。お前は何が出来ると思っていたんだ?」
「僕は荷物持ちなら出来ると思ってお願いしようとしたんですけど、冒険者さん達は皆昼以降まで洞窟の中に潜るんですよ。なので、昼に返ってこないといけない僕は荷物持ちも出来なくて……」
「なるほどな。確かにキースほどの力と体力があれば荷物持ちは適任かもしれない。月曜日は冒険者の仕事しかないはずだから一日中依頼を受けられるはずだ。明日にでも自分の有用さを他のパーティーに見せるか、はたまた、知り合いのパーティーに同行をお願いするのでもいいんじゃないか?」
「僕の知っている冒険者パーティーなんて『赤光のルベウス』さん達くらいです。それ以外は全く知りません。誰もパーティーに入れてくれなかったらどうしたらいいんでしょうか……」
「なら、一人の奴隷を買うのも検討してみたらいいかもしれないな。たとえキースが白髪でも奴隷なら文句を言えないからな。戦闘が得意な奴隷を買えばキースの手助けをしてくれるはずだ。エルツに頼めば良い個体を見繕ってくれると思うが、どうだ?」
「奴隷ですか……。考えてませんでしたけど、奴隷を買うのは少し抵抗があるんですよ。僕は奴隷と一生を共にするのは難しいかなと思うんです」
「ま、一つの方法としてあげただけだ。あと考えられるのは光源を持って入るくらいだな」
「光源? 松明とかランタンとかですか?」
「そうだ。だが、片腕が塞がるからな、危険な方法でもある。だが、どうしても仲間が集まらず依頼が達成できないと言うのなら使ってみてもいいかもな。俺のお勧めは油付きの松明だ。ランタンは壊れたらおしまいだからな。あと、松明の方が残り時間を把握しやすい。短くなってきたらすぐに戻ればいい。松明はギルドで購入できる。一本銅貨五枚くらいだ。大体一本一時間くらい燃え続ける。短い時間で切り上げるのなら十分だろ」
「分かりました。参考にしてみます」
僕はアイクさんから助言をいくつも貰い、頭に叩き込んだ。歯を磨いてトイレを済ませたあと部屋に戻る。
「アイクさんから色んな助言を貰ったけど、奴隷か……。一番着実なんだよな。でも、僕に奴隷を買う勇気なんてないし、シトラすら助け出せていないのに自分で増やすなんて……。僕だけでも生活するので精一杯なのに」
僕はシトラ以外の奴隷を従えるなんて絶対にない。そう言い聞かせる。奴隷が使えないとなると、松明作戦と荷物持ち作戦が有力候補だ。
「明日は松明を数本買っていこう。今日よりも成果を上げるぞ」
僕は筋力鍛錬にいそしみ、眠れない時間を潰す。黒卵さんは合い変わらず重い。なぜこれほどまで重いのか分からない。だが、この重さが体に丁度いい負荷を掛けてくるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。鍛錬終了。さ、仕事だ」
☆☆☆☆
僕は朝の仕事を終え、早めにお店を出た。アイクさんのお弁当を持ち、水筒を持った。銀貨数枚をポケットに入れ、ダガーナイフを装備してルフスギルドの本部に急ぐ。今日は一時間程早くお店を出ていたのでずいぶんと余裕でルフスギルドに到着した。
もちろんと言っていいほど人がいない。受付に数人と真っ赤な髪色の女性しかいなかった。どこか見覚えのある方で僕は覗き込むように顔を見る。
「あのぉ……すみません、もしかしてあなたはギルドマスターですか?」
「私がギルドマスターでいいのだろうか……。いいのであれば、私はルフスギルドのギルドマスターだ。名をハイネ、性をクリシュナと言う。白髪の青年は王都で見かけた気がするが……、あの時に死んだはず。なのになぜ白髪の青年がここに……。白髪が二人も現れるとは考えにくいし……、もしかして同一人物なのか……」
――王都の駅でフレイを止めようとしてくれたギルドマスターだよな。喋り方は敬語じゃなくなってるけど、でも白髪の僕を覚えているみたいだから同一人物のはずだ。
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