『赤の岩山』でロックアント討伐
「ルフス領の周りには大きく分けて四つの地帯があります。一つ目が広大な面積を誇る『赤の森』二つ目が多くの洞窟が入り乱れている『赤の洞窟』三つ目は荒野地帯が広がる『赤の荒野』四つ目が活火山の山岳地帯『赤の岩山』です」
「へぇ、ルフス領の周りにも結構色々な場所があるんですね」
「はい。この中でブラックワイバーンに出会う確率が一番高いのは『赤の岩山』です。『赤の森』から西の方角にあります。距離は馬車で三時間ほどですね。距離が離れているのであちらにも支部があります。今頃は多くの冒険者さんが入り浸っていると思いますよ。ブラックワイバーンに出会おうとヤッケになっているはずです」
「ま、一攫千金ですからね。僕は靴が作れるだけの革が取れれば十分なんですけど……」
「なるほど、キースさんはブラックワイバーンの素材の方に興味があるわけですね。確かに高級な素材ですから自ら手に入れた方が安く済みます。まぁ、討伐した方々は殆ど売りに出されますけどね」
「冒険者さん達はブラックワイバーンの素材を使わないんですか?」
「冒険者は悠々自適な日常を送りたいんですよ。大金が手に入れば働きません。大金を手に入れるために働いているんです。ブラックワイバーンが手に入れば一生働かなくてもいいくらいの金額が手に入りますからね。皆さん、我先に手に入れようとする訳です」
「はぁー、その中に割って入らないと素材が手に入らないのか。有名な冒険者さんとかもいるんでしょうね。僕には難しいかも……。でも、行くだけ行ってみます」
「そうですか。では『赤の岩山』付近の依頼をお受けしますか?」
「何か効率の良い依頼はありますか? 別に雑用でも構いませんけど」
「それなら『赤の岩山』に住む、ロックアントの討伐を進めします」
「ロックアント?」
「はい。『赤の岩山』に生息する魔物なんですけど、数が増えやすい魔物なんです。頭部が比較的柔らかくロックアントの弱点なので鈍器や鋭利な武器を使って倒してください。ロックアントの腹部は武器を作る際の素材にもなります。なので売っていただければそれなりに稼げると思いますよ」
「なるほど。どういった依頼か詳しく教えてもらえますか?」
「かしこまりました。ではこちらをお読みください」
受付さんは僕に依頼書を見せてきた。
「えっと。ロックアントの討伐。目標数十匹、最大一〇〇匹。一体銀貨一枚。最大報酬金貨一〇枚か。えっと、ロックアントってそんなに一杯現れる魔物なんですか?」
「そうですね。一〇〇匹くらいざらにいますよ。群れで行動する場合が多いので取り囲まれないよう注意してください。スライムより強い魔物なので武器の扱いに慣れていないと少し苦戦します」
「ロックアントの生態ってわかりますかね?」
「それならお渡ししている手引きに書いてありますよ。『赤の岩山』の部分を開いてもらうと最初に書いてあるはずです」
僕はウェストポーチから冒険者の手引きを開き、指定された場所を見る。すると、ロックアントの絵と生態が記されていた。
『ロックアント』:大きさは約三〇センチメートル。強靭な顎で岩をも砕く。通常は翅がなく、飛行出来ない。頭部が弱点で洞窟などの暗い場所で主に生活している。だが山岳地帯にも生息しているため、頭上からいきなり落ちてくる場合があるので注意。
「なんか、結構強そうな敵ですね」
「初めは無理せず慣れて行けばいいと思いますよ。『赤の岩山』にはスライムも出ますから、スライム討伐の方もよろしくお願いします」
受付さんはスライム討伐用のナイフを手渡してきた。
「わかりました。二つの依頼を受けさせてもらいます」
僕は依頼書に名前を書く。
「ありがとうございます。ナイフの方はこちらで回収しますのでまたお持ちください。素材の方は支部の方でも換金が可能ですから、お好きなようにしてください」
「わかりました」
僕はルフスギルドから出る。そのまま突っ走り、ルフス領の門にまでやってきた。
この先に出ればルフス領の領土だが魔物などの被害が出る区域になる。外に出ると無法地帯となる為、危険がつきものだ。
郊外は冒険者さん達が素材を集めたりするために欠かせない場所だが、魔物が出るのは恐怖でしかない。
僕は門番にギルドカード(仮)を見せて門の外に出た。
『赤の岩山』までの道は先ほど教えてもらったので迷わず行けるはずだ。
「『赤の森』の入り口から西に向って進めば『赤の岩山』に行けるって言っていたな。そう言えば『赤の森』から少し先に、岩山っぽい所あった。あそこか……」
僕は押し固められた地面をさらに踏みしめるようにして走る。
今日の朝、太ももがパンパンになっていたとは思えない程の速度が出た。そのお陰でルフス領の門から三〇分ほどで午前八時頃『赤の岩山』に到着した。
僕の目の前には大きな大きな岩山があり、てっぺんは雲にとどきそうだ……。周りは一〇メートル以上の高い木が生い茂り、山脈の周辺は森林になっていた。地面はいたって普通の土で雑草も生えている為、『赤の荒野』と隣接しているのかもしれない。
僕は多くの冒険者さん達が集まっている場所にやってきた。
「『赤の岩山』の入り口はこちらです。冒険者の皆さんは依頼と名前を名簿に記入しますので並んでください」
ルフスギルドの職員が断崖絶壁だらけの『赤の岩山』の入り口で大きな声を出していた。
朝っぱらから大きな声を出さなければいけない理由としては冒険者さん達が多いからである。
我先にと入口に向っていき、名前と依頼を記入してもらっていた。
「本当に凄い人だかりだ。皆ブラックワイバーンを狙いに来たのかな。そうなると、奪い合う敵同士……いや、違うな。仲間と言ったほうが正しいかもしれない。皆でブラックワイバーンを見つけて倒せば分け前を貰えるかもしれない。僕は僕の受けた依頼を精一杯受けて、その間に出会えたら幸運だと思おう」
僕は長蛇の列をなしている冒険者さん達の後方に並んだ。
――もっと早く来れば最前列に並べたかもしれないな。そうすれば『赤の岩山』いち早く入って依頼を受けられる。ロックアントを一〇〇匹倒せば金貨一〇〇枚なんだ。金貨を一〇〇〇枚貯めるためには一〇〇日の間、仕事をやり続ければいい。アイクさんのお店でも働かせてもらえるから、もう少し早められるはずだ。
僕が列に並んでいるとさらに後ろに冒険者パーティーが並んで行く。
「髪の色が全然違う。別の領土からも冒険者さん達が来ているんだ。ルフス領で全然見かけられなかったのは皆ここにいたからなのか。でもやっぱりシアン、マゼンタ、イエローのどれかだよな。色の濃さは違うけど」
僕は大量にいる冒険者さんの中で唯一白髪だった。目立ちそうなものだが、僕の存在を認識していないのか誰も僕に興味を示さない。
「ま、影が薄いに越したことはないけど、ここまで露骨だとちょっと悲しいな」
実際、髪色を気にしているのは自分だけなのかもしれないと勝手に考え始める。僕は並び始めてからニ〇分ほどして入口までやってきた。




