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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
シトラを取り返すために身なりを整える

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ブラックワイバーンの素材

「その靴は何ですか? ボロボロですよね。あまりにもみすぼらし。そんなんでよく会おうと思えましたね」


「そ、それは……。紳士服だけだと聞いたので」


「甘いですね。甘すぎます。そんな考えでは領主に会わせられませんよ」


「で、でも。知り合いから領主邸には誰でも普通に入れると聞きました」


「それはルフス領の領民だからです。貴方はルフス領の領民ではありませんよね」


「ルフス領に住んでいるんですから領民と言ってもいいじゃありませんか?」


「そんな簡単な話ではないのですよ。申請、検査、判断、様々な工程を経て、領民と判定されるんです」


「じゃあ、僕にも早く審査してくださいよ。何をしたらルフス領の領民になれるんですか?」


「あなたは領民にはなれませんよ。なんせ、髪色がマゼンタかイエローではありませんからね。たとえ髪色がマゼンタとイエローではなく、シアンや他の髪だったとしても、妻や夫がマゼンタかイエローであれば、領民になれます」


「じゃ、じゃぁ……僕は誰かと結婚するしか領民にはなれないってことですか」


「そうですね。ですが、お勧めしませんよ。ルフス領では離婚することが原則禁止ですから」


「く……。じゃあ、僕が領主に合うための方法は」


「領主の許可が出るまで行ったり来たりすることだけですね」


「なら、次は高級な靴を買ってこればいいんですね」


「身だしなみを整えるのは領主に合うための最低条件です。ただ、言っておきますが外側だけでなく内側もしっかりと自分磨きして置いてくださいよ。あった瞬間に追い出されるかもしれませんから」


「わかりました。なら、一つだけ教えてください」


「そうですね。紳士服を買ってこれた報酬として一つだけ私が答えられる質問を受け付けましょう」


「ありがとうございます。少し、考えるので時間をください」


「時間はありますから、よく考えてください」


 ――よし、何を質問しよう。やっぱりシトラの状態を聴いておきたい。シトラは元気ですか。シトラは生きてますか。シトラはどんな生活していますか。シトラは日頃何していますか。


 僕は考えて考えて、何を質問しようか悩んでいた。だが、一つ心に突っかかっていた疑問があった。

 それも質問する候補にしようと思ったのだが、思いが強かったのか言葉に出してしまった。


「シトラは領主と寝ましたか……」


「…………いいえ、寝ていません。領主は犬より猫派ですから、撫でたり、ブラッシングしたりと手を出している様子は見た覚えはありません。そもそも獣人に興味はありません」


「よ、よかったぁ……。よおーし! これで明日からも仕事が頑張れる! この前までずっともやもやした気持ちでいたからな。すっきりとした気分で長時間労働が出来るぞ!」


「購入する靴は一等地にある高級店で最も高い物を買って来てください。注文作品(オーダーメイド)がお勧めですよ」


「わかりました! シトラ! 待ってろよー! 僕が絶対に助けてあげるからな!」


「こんなところで大声を出さないでください。近隣の人々に迷惑です」


「す、すみません」


 僕は領主邸から離れ、一等地に並ぶ高級なお店の中から、一軒の靴屋さんを見つける。


「ここも、仕立て屋さんと同じで高級な品が売っていそうだ。というか、靴屋さんがここしか見当たらないから、ここで買うしかない。今はお金を持っていないから買えないけど、視察くらいはできる。また、お金をいくら貯めたらいいかの指標にするんだ」


 僕は光沢のある扉の取っ手に手をかけて引く。

 中に入っていくと、革、接着剤、塗料、と言った靴を作るために必要な素材の匂いが充満しており、一気に引き込まれる。


「いらっしゃい。って、おお、これは、これは……、中々のたたずまいをお持ちのお客じゃないか。今日はどういったご用件で」


 お店の中にいたのはお爺さんだった。

 僕の何倍生きているのかというほどの風格を持っている。

 髪は抜け落ち、白い髭だけを生やしていた。


「あの、このお店で一番高額の商品ってどれですか?」


「一番高額の商品……。そうだな。靴の値段はどれも同じだ。使う素材によって値段が変わる。この店にある素材で作ると最高で金貨一〇〇枚ほどだ。だが、今はないがある素材で作ると金貨一〇〇〇枚だ」


「く、靴が……。金貨一〇〇〇枚。ど、どういった素材を使うんですか?」


「ブラックワイバーンの革を素材として使う。並大抵の攻撃では傷一つ掴ん。王都から素材を取り寄せて作る必要がある。ま、そんな靴を買う者は王都の貴族くらいだ。金貨一〇〇枚の靴でも十分すぎる高級品だと思うぞ」


「金貨一〇〇〇枚……」


――ど、どうする。なんだよ。金貨一〇○○枚の靴って。どう考えてもおかしいだろ。何、あのカッコイイ男の人。僕にどれだけ働かせたいんだよ。領主の命令だよな。絶対そうだよな。嫌がらせか。


 僕はお店にある一番高い金貨一〇〇枚の靴を買おうか迷った。


 ――でも、金貨一〇〇枚の靴を買ったとしてあっちが許してくれるのか。許さないだろうな。金貨二〇〇枚貯めるのに、三週間かかった。じゃあ、金貨一〇〇〇枚貯めるには一五週間かかる計算になる。

 一五週間ということは、一ヶ月が四週間だから、四カ月かかるのか。でも最近、冒険者の依頼料が三割増えたからもう少し早く溜められるようになるかも。もっと難しい依頼を受ければさらに早くお金を貯められる可能性だってある。


「あの、ブラックワイバーンの素材が貴重だからそれだけ高いんですか?」


「そうだな。ワイバーンの革は高級品でよく売買されているが、黒色は滅多にお目に掛かれない。レッドやブルー、イエローの個体は多く出現するがブラックは一年に一頭現れるかどうかという貴重な個体だ。だから革だけで値が張る」


「そうですよね……。あの、ブラックワイバーンってどこで見つかるんですか?」


「何だ? 素材を取りに行こうとしているのか。止めておけ。命が惜しいのならな。あいつらは気性が荒く、ドラゴンとほぼ同格の力を持っていると言われている。普通の色ならまだしも、黒い個体は少ない分、かなり強い」


「ど、どんな具合に強いんですか?」


「どの色魔法も威力が半減以下にされる。剣などの物理攻撃も奴らの硬い鱗に阻まれる。やつに勝てるのは相当な実力者か、団体戦での討伐だ。素材が欲しいなら素直に金を払えば手に入ると思うぞ。まぁ、なぜそんなものを欲しがっているのか知らないがな。どうしても自分で捕りに行きたいのなら、教えてやらないこともないが……」


「検討したいので教えてください。ブラックワイバーンはどこにいるんですか?」


「黒い個体は毎年各領土を飛び回っている。やつらは寒い所が苦手だからな。比較的暖かい所に飛んで行く習性があるんだ。加えて、魔素が大量に集まっているところに現れる。運が良いのか悪いのか。今年のルフス領は暖冬で魔素の集まりが異常だ。加えて、今年は一度もブラックワイバーンが討伐されていない。この地にやってくる可能性は高いぞ」


「そうなんですか……。えっと、素材を持って来たらいくらで作ってくれるんですか?」


「靴一足分の値段だ。金貨一〇枚。ま、素材を持って来たらの話だがな」


「なるほど……。金貨一〇〇〇枚を貯めて作ってもらうのか。素材を取って金貨一〇枚で作ってもらうのかの二択ですか……」


「おいおい、もう、買うことは決定事項なのかい?」


「もちろんです。なんせ、僕の人生が掛かっていますから」


「お前さん、いったい靴に何を懸けとるんだ……」


「僕の人生が掛かっています。そのままの意味です」


「はぁ……。お前さん。そのボロボロになった靴を見せてみ」


「え、あぁ、はい。わかりました」


 僕は履いていたボロボロの紳士靴をお爺さんに渡す。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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