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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
シトラを取り返すために身なりを整える

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ギルドマスターへの手紙

 ――ミリアさんにギルドマスターの話を聞いてもあまり詳しい情報を教えてくれなかった。いったい何を隠しているんだ。名前とか人柄とか教えてくれてもいいのに、どうせ調べれば分かることなんだ。なら隠す必要ないじゃないか。


 僕はルフスギルドに向い、到着したのち中に入った。


「ルフスギルドのギルドマスターにあえますか?」


「え? ギルドマスターですか……」


 受付にいる女性はギルドマスターという言葉を聞いて、少し戸惑っていた。


「今、ギルドマスターは療養中ですのでお会いすることはできません」


「療養中……。どこか悪いんですか? 大怪我でもしたんですかね?」


 ――僕がギルドマスターを最後に見たのは列車が燃やされたあと、焼けた列車の残骸から這い出て来たどころだけ。あの時は怪我していたようには見えなかったけど……。残骸の下敷きになったら怪我するのは当たり前か。


「えっと、怪我と言いますか、心の問題がありまして……」


「心?」


「ギルドマスターは赤色の勇者様とお帰りになるはずだったのですが、なぜか赤色の勇者様が先にルフス領で発見されまして、また飲み過ぎて暴走したのではないかと言う話になったんですよ。その五日後くらいに疲弊したギルドマスターが帰って来られました。今は仕事が手に付けられない状態ですのでお会いすることはできません」


「そうですか。なぜ衰弱しているのか知っていますか?」


「ギルドマスターは日頃の疲れだと言っていました。確かに多忙の方でしたから、おかしくはないのですが、仕事が好きなギルドマスターが多少の無理で衰弱するとも思えません。何か他の理由があると思うんですけど……」


 受付さんは顎に手を置いて考え込んでいた。


 ――ギルドマスターが衰弱している理由は多分、列車の事件で起こった大量死。ギルドマスターが気に病むのも無理はないか……。僕は今もフレイがのうのうと生きているのがおかしいと思っている。でも、ギルドマスターと話が出来ないのはどうしようもないな。顔、見知りでもなければ、知り合いですらない。全く知らない人からいきなり話をさせてくれと言われても恐怖心しか与えられないだろうな。それなら、知り合いになるしかないか。


「あの、ギルドマスターに手紙は送れますか?」


「手紙ですか? はい、連絡事項程度ならギルドの部屋に直接届けられますよ」


「そうですか。なら手紙を渡してもらえませんか。僕、今から少し書くので」


「わ、わかりました。でも、返事が来るかはわかりませんよ」


「大丈夫です。すぐに返事を貰えるとは思っていませんから」


 僕はルフスギルドの受付に置かれていた依頼を書く用紙の裏に言葉を書き連ねていく。


「初めましてキース・ドラグニティと言います。年齢は一五歳、性別は男です。少し聞きたい話があるのですが、体調が戻られたら話をさせてください」


「これくらいでいいや。ちゃんと読んでくれるかも分からないし、どうせ明日も来るんだ。一日少しずつ手紙を送れば、何か一枚くらい見てくれるかもしれない」


 僕は用紙を半分に折り、受付嬢に渡す。


「これをギルドマスターにとどけてください」


「わかりました。お昼の休憩中に渡しに行きますね」


「ありがとうございます」


「いえ、キースさんにはいつもお世話になっていますから」


「じゃあ、今日もいつもの依頼を受けに行ってきます」


「はい。お気をつけて」


 僕はいつも通りの依頼を受けて回復草以外の薬草とスライム一〇〇匹を倒して昼前にルフスギルドに戻ってきた。

 そのまま依頼料を貰ってアイクさんのお店に戻る。そこから夜まで仕事をしてまたお金を溜め始める。


 夜中になり、黒卵さんとお風呂に入って自分の部屋に向う。部屋に入るとベッドに横たわり、夜に少し深ける。


「今日も終わりか……。いつも思うけど時間の流れって早いよな。僕は他の人よりも時間を沢山使えてるわけだから、お得なのか……。まぁ、寝てないから時間の流れが速く感じるだけかもしれないけど。紳士服がしたて終わるまであと六日。その間にギルドマスターと話が出来るか分からないけど、少なからず毎日手紙を書いて僕への恐怖心を無くしてもらおう」


 ギルドマスターの心が衰退しているのなら、少なくとも僕が敵ではないと知らせないと絶対に会ってもらえない。

 相手の心を開くには凍った物を少しずつ溶かすように接するのが鉄則のはずだ。それなら、これでいい。僕はシトラの為にお金を貯めて自己満足のためにギルドマスターと話す。


 その夜、僕は魔法の練習、体の鍛錬、瞑想、を繰り返して夜を過ごした。


 一〇月一〇日、一一日、一二日、一三日、一四日、と何も問題なく過ごした。


 毎日、ギルドマスターに他愛のない言葉を書いた手紙を送り、最後には話をさせてほしいと書き記す。


 一四日の夜もベッドに少しだけ横になり、夜にふけっていた。


「結局……、返事は音沙汰なしか。まだ数日送ったくらいだし、簡単に人は信用できないよな。僕だってフレイを信用しろと言われても出来ないし。でも、やっと明日だ。明日、紳士服が仕立て上がる」


 ――服を貰いに行く前に髪を切っていかないと、ずっと伸ばしっぱなしだったからな。少し長くてもいいけど、僕は短めがいい。その方が楽だ。加えて、シトラに似合っていると言われた髪型だ。外すわけにはいかない。


 僕はいつも通り眠れなかったが、きっと普通の体調だったとしても興奮して寝られなかっただろう。


「シトラにあえる。シトラにあえる。シトラにあえる。シトラにあえる」


 僕は鍛錬する際に掛け声でシトラにあえると楽しみなことを言葉に漏らしていた。

 いつもより体を絞る行為に熱が入る。

 僕の体は日頃の運動のおかげで二カ月前とは比べ物にならないくらい絞られていた。

 実家にいた頃の鍛錬がぬるいと感じるくらいだ。

 でも、あの時はシトラがいたから楽しかった。今も楽しいが、別の楽しさがあった。僕はそれを取り戻す。加えて楽しいの先にある幸せをこの手で掴んで見せる。


「ほんと、僕はどれだけシトラが好きなんだよ。もし嫌いなんて言われたら死ねるな……。って、精神が弱すぎるぞ、僕!」


 僕は夜の鍛錬を終え、早朝からお風呂に入り体を清め、冒険者の服を着る。

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