アイクさんのお店で飲み会
「うわ~! キース君すごい! カッコ良すぎだよ!」
「まさかフレイを殴り飛ばすとは思っていませんでした!」
「あの殴られた時のフレイの顔、無茶苦茶スカッとしたっす!」
僕はトーチさんマイアさんフランさんに囲まれ、頭をこれでもかと撫でられる。
僕が年下なのをいいことに子ども扱しているみたいだ。
僕は三人の包囲網を抜け、ロミアさんの前にたった。
「すみません。ロミアさんの意中の人を殴り飛ばしてしまいました。お詫び申し上げます。僕が憎かったら殴ってもらっても構いません」
僕はロミアさんに頭を下げて謝る。たとえ、相手がフレイだとしてもロミアさんにとっては大切な人なのだ。もし、シトラが誰かに殴られたら僕はとんでもなく怒る。
「い、いいよ、謝らないで。あ、あんな男、殴られて当然だよ。あーあ、私もそろそろ鞍替えしちゃおっかな~。キース君に~」
「ふぐっ!」
僕は頭を下げている状態でロミアさんに抱き着かれた。そのせいでロミアさんの大きな胸に僕の顔が埋まる。
「おりゃおりゃ。フレイを殴ってくれたご褒美だよー。たーんと味わえ~」
普段のロミアさんなら絶対にしないような淫乱な行為。どう考えても今のロミアさんは動揺している。流れや空気に任せた感情の起伏。きっと内心は傷が深くついているはずだ。
「ふぐふぐっ!」
「ぎゅーっとしちゃうんだから~」
「ロミア、それくらいにしておかないとキース君が窒息死しちゃうよ」
「そうですよ。私の次に胸が大きいんですから」
「あまり変な行動に出ると気をおかしくするっすよ」
僕は窒息気味になり、死にかけたが他の三人に助けられた。
「はぁ、はぁ、はぁ。た、助かりました。死ぬかと思いましたよ」
「ご、ごめんね、キース君。私、多分すごく動揺しているみたい……」
「いえ、気にしないでください。えっと、僕の方こそごめんなさい。ロミアさんの胸はとても暖かかくて、すごく良い匂いがしました……」
「ちょ、感想は言わなくてもいいから! さ、今日は皆で飲みに行こう! 私が全部奢るよ~!」
ロミアさんは右手に持った金一封を掲げて大きな声で叫ぶ。
「ちょっと、まだ午後五時前なのにもう飲みに行く気!」
「さすがに速すぎませんか?」
「確かに飲みたい気持ちも分かるっすけど、やけ酒は体に悪いっすよ」
「ぼ、僕、まだお酒飲んだ覚えないんですよね……」
「ちょっと、皆、乗り悪すぎるよ! 盛大に振られた私を慰めてよ!」
ロミアさんは顔を赤らめて足裏で地面を何度も踏みつける。
「はぁー。仕方ないな。そこまで言うのなら付き合ってあげる」
「そうですね。お腹が空いてない訳じゃありませんし、早く帰れるかもしれませんから、この時間から飲むのも悪くありませんね」
「たまの祭り時くらい良いっすよね。日が出ている間のお酒、背徳感を味わうっす」
「ぼ、僕は遠慮を……」
「何言っているの。キース君も来るんだよ~! 無理やりにでも連れて行っちゃうんだから!」
ロミアさんは僕の右腕を掴み、引っ張る。
他の三人は僕の背中を押しながら歩かせてきた。
僕は左手で黒卵さんを抱え、女性たちの圧力に耐えられず、断れなかった。
☆☆☆☆
僕達はアイクさんのお店にやってきた。
僕の場合は帰宅なのだが『赤光のルベウス』さん達にとっては入店だ。
「いらっしゃい。って、また同じ顔だな。それにしても派手な格好でよく似あっているじゃないか。キースにもったいない。まさしく周りに花だな」
「「「「ありがとうございます!」」」」
『赤光のルベウス』さんたちは大きな声で返事しながら頭を軽く下げる。
「アイクさん、皆さんはお酒を飲みたいらしいです……」
僕は連行された状態でアイクさんに注文する。
「そうか。なら、好きな席で座ってろ。手始めはエールでいいか?」
「「「「はい!」」」」
アイクさんは女性が悪酔いしないよう、配慮したお酒と食事の組み合わせを提供している。
どうやらルフス領内では酔った女性にあれやこれやする悪い男もいるらしい。
アイクさんはそれを激怒し、飲食を楽しめない女性にも楽しんでもらおうと言う奉仕をこなしている。なのでこのお店に来る女性客は結構多い。
ましてやアイクさんがカッコいいのでそれ目当ての女性すらいる。アイクさんは既婚者なので、お客さんは皆、目の保養ができているのだとか……。
『女性にもそう言った概念があるんだなぁ』と僕はしみじみ思い知らされる。
「エール四人前と麦ジュースだ。あと、枝豆、五人前だな」
アイクさんはテーブルに木製ジョッキと小皿に入った枝豆を置いた。
「「「「ありがとうございます!」」」」
「なぜ、僕には麦ジュース何ですか?」
「キースに酒を飲ませるのはまだ怖いんでな。暴れられると店が壊れそうだ」
「な、なるほど……。確かに僕にもどうなるか分かりませんから、飲まないほうがいいかもしれないですね」
僕は麦ジュースの入った木製のジョッキを右手に持ち『赤光のルベウス』さん達はエールの入った木製ジョッキを右手に持つ。
「カンパーイ!」
僕と『赤光のルベウス』さんたちはジョッキをぶつけ合わせる。
――す、すごい。これが乾杯。でも、僕はフレイに完敗したのにいいのかな。
僕達はジョッキに入っている液体を喉に流し込んでいく。麦ジュースが冷えていてとても美味しい。他の四人は鼻の下にひげを生やし、ぷるぷると震えていた。
「「「「うまーい!」」」」
『赤光のルベウス』さんたちの息はぴったりで店内に声が良く響く。
「うぅぅ、私はこれのために生きているんだ~」
トーチさんは泣きそうになりながら、エールを飲み干したあと枝豆を一房摘まみ、枝豆をプチプチと出して食べていた。
「ふぅ……。冷えていて美味しいですね。このエール、嫌な苦みを全く感じません。凄くいい所のエールですよ」
マイアさんはエールの味を楽しみながらちびちびと飲んでいく。
「ぷはー! 最高っす! お代わりくださいっす!」
フランさんはジョッキ一杯のエールをすべて飲み干した。枝豆も爆速で食べ終える。
「ほわほわ~。ひっく、ひっく。美味しぃな~」
ロミアさんはジョッキの半分辺りを呑んで頬を赤らめ、眼が溶けたアイスのように蕩けていた。
「ロミアさん、もう酔っぱらっちゃったんですか?」
「ううん、わたしは~、よっぱらっていないよ~」
ロミアさんはほわほわした声を漏らし、ジョッキの中に残っているエールを飲んでいく。
「ロミアは酔いが回るのすごく早いんだよね。そこから飲めちゃう体質なんだよ。普通潰れちゃうのに、変わっているよね。ずっとこんな調子だから可愛いんだよ」
トーチさんは枝豆を食べながらロミアさんの酔っている姿を見ていた。
「私達は、結構お酒強いですから、いつもロミアのお守り役なんです。まぁ、普段はお金がないので沢山飲んだりしませんけどね」
マイアさんは小皿に枝豆を出して、スプーンを使い上品に食べる。
「でも今日はロミアのおごりということで、いっぱい食べて飲むっす。アイクさんお代わりくださいっす!」
フランさんは二杯目のジョッキを飲み干し、またもやお代わりを申し立てる。




