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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第一章 『無限』の可能性

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赤色の勇者との戦闘

「何をブツブツ言っているんだ。これでやっと戦えるな、黒髪」


「そ、そうだな……」


「何緊張してやがる。お前は黒髪なんだ。俺だって簡単に倒せるとは思ってねえ。初めから全力で行く! 黒髪も全力で来やがれ!」


「くっ! あ、熱い!」


 僕からフレイまでの距離は約二〇メートル。

 視界的に遠く感じるがフレイの攻撃範囲に完全に入っていた。

 これだけ離れていても、フレイの体から発せられる赤色の魔力が僕の全身を焦がすほど熱い。

 今すぐ湖に飛び込みたいくらいだ。


「黒髪、お前の魔力を全く感じないのはなぜだ。それが黒髪の特徴なのか。すべての原色の魔力を持つと、俺でも感じ取れなくなるほど質が変わるのか……」


「さ、さあ……。僕にはわらない。この髪をずっと隠してきたから。魔法の方だって期待されちゃ困るよ……」


 ――もっとだ、もっと引き延ばせ。少しでも考える時間を……っ!


 僕がもっと時間を引き延ばそうと考えていると、フレイは満面の笑みを浮かべ左腰に掛けられている真っ赤な剣の鞘を左手で握りしめ、右手を柄にそえた。


「行くぞおらぁあああ! 『赤色魔法:バーニングソード』」


 フレイは柄が拉げそうになるほど握りしめ、真っ赤な鞘から、燃え盛り赤色に輝く剣を抜き出した。


 ――こうなった時点で僕は、一か八かフレイの攻撃を回避するしかない。戦いの途中で良い案が思いつくとも思えないけど。でもやるんだ、生き残るためにはやるしかない! 


 僕は真っ赤に燃えるフレイの剣を凝視する。体の震えは肝が据わった時から納まっていた。濡れた布を纏っているように重かった体も、今は妙に調子がいい。


 ――それにしても……、僕は何で今でも黒卵を持っているんだ。捨ててもいいのに。なぜか手放せない……って、そんな無駄な思考している場合じゃなかった!


「オラアアアア!!」


 フレイは二〇メートル離れた位置で頭上に掲げた燃え盛る剣を思いっきり振りかざしてくる。

 煙突から火が吹き出たような音と共に真っ赤に燃え盛る炎の斬撃が僕の右頬を擦過し、後方にある湖を抉った。

 炎の斬撃が水を一瞬で沸騰させた影響か勢いよく爆ぜる。鼓膜が破れそうなほどの爆音と共に大量の水しぶきが高らかに上がり、この場の気温が二度は低下した気がする。


 ――う、運よく躱せた! すぐに走れ! 横に向って走れば、同じ攻撃は回避できるはずだ。


 僕は死にたくないがために体が動くまま走った。

 炎の斬撃が擦った頬の痛みはない、死と隣り合わせのこの状況下であり得ないくらい生を実感している。


「ち、一撃でとはいかなかったか。まあいい、最終的に殺せばいいだけだ……」


「はぁはぁはぁ、走れ、走れ、走れ!」


 ――魔力がないぶん、体だけは鍛えてきた。数日前まで毎日ずっと走っていたんだ。ここで発揮しないでどうする。

 ここでこそ、今までの成果を全て出す時だ。神様、いるのなら僕に味方してください! これから毎日拝みます。教会も見つけたら即入って拝みます。

 人生掛けて拝み続けますから、僕に……。


 僕は何かに躓き、膝が折れて体が前のめりに倒れた。

 その瞬間、頭上を横一線の燃え盛る斬撃が過ぎ去る。斬撃が地面に衝突すると、土もろとも爆ぜ飛んで土柱が生れる。パラパラと降ってくる土砂の雨を一身に受け止めた。


「か、神様……。ありがとうございます!」


 僕はすぐさま立ち上がり、爆炎によって生まれた黒煙を使い、身を隠すように直走る。

 黒卵は未だなお抱き続けている。

 もうこれがないと、走れないのかというほど抱きしめ、決して放そうとしない。


「ちょこまかと逃げやがって! それでも黒髪かよ! 『赤色魔法:バーニングピラー』」


 ――シトラ……頼む、僕を守ってくれ。あの時のプリンを食べたのは僕だ。まだ謝っていない。このまま僕が死んだら、プリンの恨みは晴らせないんだぞ。だから……僕をっ。


 視界が悪かった影響で、こんどは足が窪みにはまり、その場に停滞した。すると目の前に巨大な火の柱が出現し、地面と草は共に焦土と化す。爆風で吹っ飛ばされたが、直撃を避けたおかげでちょっとした火傷で済んでいた。


「はぁはぁはぁ……。今、一歩先に出てたら、僕は丸焦げに……」


「ちっ! 狙ってんのか! 俺に背を向けてでも勝てると言いてえのか! おい黒髪!」


「そ、そんな訳、ないだろ! こっちも全力なんだよ!」


 僕は窪みから足がどうしても抜けなかったので、靴を脱ぎ、靴下の状態で走り出す。

 今、僕は湖の反対側まで行くために四分の一をやっと通過したところだ。

 たった数百メートル走っただけで、僕はもう二回も死にかけた。それも、神様とシトラに願ってだ。


 願える相手など、僕にはもう残り少ない。


「もっと走るんだ、せめて湖の反対側まで……」


「おいおいおい……。いったいどこまで逃げる気だ。俺に本気を見せてくれるんじゃなかったのかよ!」


 フレイは、その場から一向に動こうとしない。『お前が背中を向けながら勝てるというのなら、俺はこの場で一歩も動かずに勝てる』とでも言いたいのだろう。


 ――これは好機だ……。フレイがあの場所から動いていない。でもいつ心変わりするかわからない。奇跡に願うのはもうやめよう。何度も何度も起きないから奇跡というんだ。


「はぁはぁはぁ……」


 僕は死に物狂いで走っている。すでに息が切れ掛け、心臓がはち切れそうだ。足もおぼつかない、本当に情けない。

 でも、大分時間は稼いだ。

 フレイが列車に戻るころには誰もいなくなっているはず。

 僕が生き残れたら、最高だけどそんな簡単な話じゃない。あのバカ火力を連発する赤色の勇者フレイから逃げ切れる未来が、どうしても想像できない。


「にしても、さっきから魔法を放って来ないぞ。諦めては……くれていないよな」


 視界を後方に向けるとフレイは剣の柄を握り、剣先を天に掲げている。肘を軽く曲げ、その姿は何かに祈っているようだった。

 その頃、僕は湖の端まで四分の三の所を通過していた。


「あとちょっとで湖の反対側に着けるぞ……」


 未だにフレイの構えは終わらない。口もとが動いているため、何かを呟いているのだろう。


「って! で、でかい」


 僕が目にしたのは、真っ赤な炎が剣身を覆い、天高く伸びた姿だった。剣先は目視出来ず、この場の全てを焼き尽くすのかというほど大きくなっていた。

 その大きさは湖を優に縦断できるほど……。


「あ、あの剣身が攻撃の間合いになるのか……。そ、そうなったら、湖よりも奥に行かないと焼け焦げる」


「はぁ……。この魔法、詠唱が無駄に長くて嫌いなんだが黒髪を殺すのにはちょうどいいか。『赤色魔法:聖火の剣』」


 僕はフレイの持つあまりにも巨大な剣を背に、情けない声を上げながら足を大きく上げて走る。

 ちなみに何で黒卵を手放さないのか、今でもわからない。

 大きく手を振ればその分速く逃げられるのに……。


「ふっ!」


 フレイの何かに力を込める声が聞こえた。あの巨大な剣を子供みたいに振り回すだけで、僕の体は燃え盛るだろう。


「グ、やられ……、え……」


「ふぅ……、やっと完成したぞ……」


 フレイの手元には赤白く輝いている剣があった。

 その輝きはこの世のものとは思えないほどの明るさで、放射状に光りの線を放っている。

 きっと天高くまで伸びていた炎を剣身の姿に全て収めたのだろう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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