ロミアさんとフレイの関係
「一度も戦わずに、決勝戦なんて前代未聞ですよ。この先の大会でも絶対にありえませんね。キース君。相手はフレイですけどガツンッと勝っちゃってください。応援していますよ」
マイアさんはニコッと笑いながら僕を応援してくれた。
「キース君が勝ったら金一封でアイクさんのお店の料理をごちそうしてもらうっす。だから、絶対に勝ってほしいっす!」
フランさんは食い意地をはり、お腹が空いたと言いたげな表情でお腹を摩っている。
「キース君。フレイは凄く負けず嫌いだから、勝っちゃうと大変だと思う。上手に負けた方がいいかも……」
ロミアさんはフレイの性格を知っていた。僕も出来るならそうしたい。
「ロミアがそう言うのならそうした方がいいかもね」
「そうですね。ロミアとフレイは幼馴染ですし、フレイを良く知っていますから」
「そうっすね。でも、フレイも変わったっすよね。昔はよく『ロミアと結婚するー』とか言ってたっすけど今は全く見向きもしないっすから。今でもロミアはフレイをふぐ、ふぐぐ……」
「フラン! ちょっと、何言っているの!」
ロミアさんはフランさんの口を手で閉ざす。
「自分じゃ恥ずかしがっているのに、フレイに見てもらいたいからって布面積の少ない冒険者の衣装着てるのバレバレなんだからね。ロミア」
「と、トーチまで!」
「はぁ……。どうしてそこまでするほどあの男がいいのか、私はよくわかりません」
「も、もぅ! マイアまで~!」
「つまり、ロミアさんとフレイは知り合いと言う解釈でいいですか?」
「今までの話を聞いて、思ったが知り合い止まりなのか……?」
僕とエルツさんはロミアさんに質問した。
「い、一応、幼馴染だよ! 一一歳くらいまではよく遊んでたんだから……」
ロミアさんの声はだんだん小さくなっていき、最後の方はぼそぼそとか細い声で話した。
「今は夜中に飲みまくって、いろんな女と遊んでるけどな。言っちゃ悪いが相当なクズ男だと思うぞ」
エルツさんもフレイをよく知っている人の一人だ。間違っていない。
――そうだ。フレイは僕とプラータちゃんを殺そうとした。僕は悪口を言ったから仕方ないとしても、プラータちゃんは少し話しかけただけで切れてきたんだ。加えて、列車に乗っていた三〇〇人の乗客を焼死させた。許せるわけない。でも、ロミアさんはそのことを知らないんだ。
僕はパーティーメンバーから弄られているロミアさんを見ていたたまれない気持ちになる。
――フレイがクズだって知ったら、ロミアさんはフレイを諦めるんだろうか。
「フレイがクズだって知っているよ。そんなの昔からだもん。だって、私のおっぱい揉んだり、スカートめくってきたりしていたんだから……。今も、夜中いろんな女の人と遊んでるの知っているけど。なぜか嫌いになれないの……」
ロミアさんは大粒の涙を流して泣いてしまった。
「あぁ……。悪い、その……俺は乙女心とか、女心に疎くてだな……」
エルツさんは慌てふためいていた。
「わ、私達もごめんね……。ロミアの気持ち、考えてなかったよ。からかって本当にごめん」
トーチさん、マイアさん、フランさんはロミアさんにそれぞれ謝った。
「ううん。いいよ……。だって本当のことだもん。私は私の実力でフレイを振り向かせるの」
ロミアさんは涙をぬぐい、少し先の席で女の人を口説いているフレイを見つめていた。
「え~、決勝戦開始まで三分前となりました。フレイ様とキースさんは舞台上にお戻りください」
進行役の女性が舞台上から声をかけてくる。
「あ、そろそろ行かないと」
「キース君。フレイは何かおかしい。一年くらい前から、性格が急に変わったの。私から話しかけても何も反応がないし、絶対に何か変なんだけど。それが、分からなくて」
ロミアさんは僕に小声で話しかけてくる。
「フレイから試合中に何か聞き出せないか、試してもらってもいいかな。私、金一封分、自分の財布から出すから。出来るだけ負ける方向で、ことを運んでほしいんだけど、負けるまでに話をどうにか聞き出してほしいの。フレイ、嘘はつけないから何か喋れば、それが真実なはずだよ」
「難しいですけど……。出来る限り頑張ってみます」
「キース、決勝戦なのに、その袋を持っていくのか?」
エルツさんは僕が持っている革製の袋を指さして聞いてきた。
「はい。これは僕のお守り替わりなんです」
「そうなのか。なら、必要だな。よし、フレイが満足する形で負けて来い」
「どんな、気合いの入れ方ですか。もう、分かりましたよ。しっかり負けてきます」
僕は舞台に設置されている階段を上り、台上に足を踏み入れた。
フレイは既に待っており、赤い髪が燃えているのかと思うほど魔力を駄々漏れにしている。
「遅かったな。木箱野郎、俺を待たせるなんて、いい度胸しているよな」
「ごめん。話が長引いたんだ」
「負けたやつから俺に勝つ方法でも聞いたのか。はっ! バカなやつだ。負けたやつに何を聞いても無意味なんだよ。勝つのは俺だ」
フレイは未だに勝利に執着していた。以前、フレイが僕と戦った理由も、黒色の髪を倒すためだ。あの時、フレイには負けを叩きつけてしまった。それが、今もなお強さに執着する理由だったりするのだろうか。
――どんな理由にしろ、僕は負けないといけない。幼馴染のロミアさんが言うのだから言う通りにした方がよさそうだ。
「おい、木箱野郎。お前は何で木箱を被っているんだ。理由が分かるように説明しろ。そんなに負けた時、顔を見られるのが怖いのか。負けたと罵られるのが怖いのか!」
フレイは激怒してきた。なぜそんなに怒るのか分からなかったがいい餌が出来た。
木箱を被っている理由にはフレイに気づかれたくないと言う、動機が隠されている。
それを、フレイの言っていた負けた時に顔を見られるのが恥ずかしいにすり替えておく。
そう言えば、フレイの前で顔を見せる必要がなくなる。
「僕にも見せられない理由があるんだよ」
「なら、俺が勝ったらお前の木箱を引っぺがして泣きっ面を公共の面前で曝してやるよ」
「そ、それは……」
――他の人に顔を見られるのはましだが、フレイには見せられない。白い髪と僕の顔を見たら、初めて出会った時の顔を思い出させてしまうかもしれない。フレイの頭の中にいる白髪は出会った初日から列車に轢かれて黄色い髪を生やした少女と共に死んでいる。
白髪はそうそういない。いたとしても髪をどうにかして染めているはずだ。
僕はシトラが白い髪が好きだというから絶対に染めたくない。その一心で、今日まで生きてきた。負けたら、髪を見られて気づかれる。勝ったら、嫌な未来しか思い浮かばない。
それでも僕はフレイと向き合った。
 




