力比べ大会、準決勝 フレイ対エルツ
「第四組、優勝はなぜか木箱を被っているキース・ドラグニティさんです! おめでとうございます! 準決勝進出です!」
女性の司会者は大きな声で僕を称えてくれた。だが、どう見ても苦笑いを浮かべ、顔が引きつっていた。仕事上仕方ない。
司会者の方が盛り上げようとしてくれているのに観客の拍手が全くないため、会場の空気が悪くなる。
「え、えっと……。わーい? なのか……」
――いや、喜べない……。こんな空気で喜ぶ方がおかしい。
今回の大会の予選を僕は全て不戦勝で勝ち上がり、順々決勝でも不戦勝になった。
理由は分からない。
なぜか、僕と手を握った瞬間に相手が棄権するのだ。
木箱が悪いのか、本当に相手の体調が悪いのか。
まわりからの批判の声が飛びかった。僕に対してではなく、相手に対して逃げたという激しい罵倒が送られていた。
なので第四組の試合は盛り上がりに欠けていたが、他の三組が僕の想像を超えて盛り上がっていたので不評も帳消しとなっている。
「さて、長らく行われてきました力比べ大会ですが、いよいよ大詰めとなってまいりました。今、台上に立っておられます四名の方々が総勢八八人の上位四人となります。一人ずつ紹介していきましょう!」
大会の進行役であるお姉さんが僕の前を歩いて行く。
「まず第一組を圧倒的な強さで勝ち抜いた、エルツ・ヨハンセンさん。いやー、圧倒的な力でしたね。さすが、ルフス領きっての有名な元冒険者の方です。冒険者を引退されても筋肉は衰えていませんね。何か意気込みを一言お願いします」
「今のところ俺を唸らせる奴と当たっていないからな。次、当たる相手が楽しみだぜ」
奴隷商のエルツさんは完璧に仕上がっていた。筋肉の切れが以前あった時よりも上がっている。
「ありがとうございます。では、第二組の勝者、赤色の勇者様が絶対の信頼を寄せているユダ・イスカリオさん。今回は赤色の勇者様と一緒に準決勝に進出されましたがどうですか? 一言お願いします」
「はい。えっと凄く嬉しい。前回はフレイと当たってしまい、負けてしまったので今回はフレイに勝って優勝したいと思います!」
ユダさんはいつもフレイの横にいた人物で、マゼンタ色の短髪にフレイとよく似た服装。身長は一七五センメートルくらいで、僕よりも年上に見える。
「ありがとうございます。では、第三組を勝ち進んだお方。皆さんもよく知る、赤色の勇者様、フレイ・ルブルムさんです。前回は惜しくもニクスさんに負けてしまいましたが、今回はどういった心境ですか。お聞かせください」
「ぜってーぶっ飛ばす。それだけだ。と言うか、俺が優勝したら、俺と飯に行こうぜ。最高の夜にしてやるからよ」
フレイは司会者さんの手を引き、抱きしめるようにして大きな胸を揉む。
周りからは熱狂の声と、悲痛の声が入り乱れていた。
「え、ちょ……。今はお客さんが見ていますから……」
「フレイ。今はやめておけ。優勝した後にでも十分、時間はあるだろ」
ユダさんがフレイの肩を叩き、問題行動を起こさせないようにした。
「ああ、そうだな。楽しみはあとで取っておかないとな」
フレイは司会者さんを解放した。
――うぅ……結局、準決勝でフレイとこんなに接近する羽目になるなんて。これなら、出ない方がよかったなぁ。皆からの不評を受けるのはさすがにもう、辛いよ。
「では、最後に第四組を勝ち抜いた幸運の持ち主、未だ一度も真剣勝負の末に勝ち進んでいない、キース・ドラグニティさんです。一度も戦わずに準決勝まで勝ち進んだ今のお気持ちはどうですか?」
「え、えっと……。複雑な心境です。勝ち進んだので、全力で戦いたいと思います」
「ありがとうございました。では、準決勝の対戦相手を発表いたします。準備はいいですか~!」
「おおおおおおおっ!」
観客は僕以外猛者が準決勝に集まり、大いに盛り上がっていた。
「準決勝第一試合、エルツさん対フレイ様の対決となります。準決勝第二試合、ユダさん対キースさんの対決となりました。では、第一試合のお二方、中央の台で準備をお願いします」
「しゃっ! フレイ、今回も叩き潰してやる!」
「言ってろ。老い耄れが。一年前とは何もかもが違うって言うのを教えてやるよ」
エルツさんとフレイが舞台の中央に置いてある一脚の台に向う。
台に肘を着け、右手を握り合った。
――体格はエルツさんの方が大きいけど、相手はフレイだ。それにしても、フレイは珍しく酔っていないな。戦うために抑えてきたのか。前回に負けたって言って。悔しかったのかな。
会場が誰もいない空間のように静まり返る。
――一気に静かになったな。大会中は魔法が使えないから、力だけの勝負になる。フレイは魔法を使わないと非力だってアイクさんが言っていたのに、力比べの大会で上位にあがって来られるだけの実力はちゃんとあったんだ。
「では、準決勝第一試合を始めます。私が手を放したら、始めてください」
フレイとエルツさんの握り合っている手に、進行約の女性が手を置き、合図を出す準備に入る。
「わかった」
「さっさとしろ。むさ苦しい、おっさんと手を長い間繋いでいたくない」
「わ、わかりました。では、行きます。三、二、一、はい!」
女性は手を上にあげ、二人の手から放した。
「ふっ!」
「はぁっ!」
両者の力こぶが盛り上がり、腕に血管が脈打つように現れている。力が互角なのか腕が全く動かない。
「おらああああ!!」
「はあああああ!!」
両者は共に声を出し、全身の体重を乗せるように力を加えている。
体重の重い、エルツさんの方が優勢なのか、フレイの掌の甲が台にジワジワと近づいていく。
「うおおおおおお!!」
観客の声が、静寂から爆発し、一気に膨れ上がった。
フレイも負けておらず、赤色の勇者の意地を見せんばかりに巻き返しをみせてエルツさんの手の甲を台に近づけた。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
いい勝負すぎて周りの観客の熱は最高潮に達していると思われる。
長い死闘の末……。
「はぁ、はぁ、はぁ。俺の勝だ。老いぼれ。これで去年の雪辱を果たした。あとは力を残したユダを倒して俺が優勝するだけだな」
「ちっ……。前よりも力を付けてやがったのか。これだから年は取りたくないな。俺が衰えていく一方。若いやつは力を付けてきやがる。完敗だ……」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
前回大会に優勝したエルツさんが敗れたため、会場の人々は大いに盛り上がり、叫びまくっていた。
――フレイが勝った。じゃあ、僕が決勝に行かなければフレイと当たらずに済む。手加減するのは真剣勝負じゃないし、棄権するのも逃げたのと変わらない。そうなると僕が戦う相手が強いと信じて、僕も全力を出さないとな。
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