香辛料の入っていた木箱
僕は場違いかと思いながらも、逃げずに列に並び続けた。
前に一八〇センチメートルを超える筋骨隆々の男性、後ろに一九〇センチメートルを超える筋骨隆々の男性。
明らかな谷が出来ており、僕の姿は周りから逆に見られなかった。
列はしだいに進み、僕の受付の番になった。
「えっと、この大会は成人している人だけが参加できるんです。子供はちょっと……」
受付にいた女性は感覚が麻痺しているのか、僕を子供だと間違えた。
――まぁ、確かに周りにいる男の人たち皆体格がクマみたいに大きいもんな。僕は子供に見えても仕方ないか。
「僕は一応成人してます。これが、ギルドカード(仮)です」
僕は年齢確認のために必要な証明書の替わりになるギルドカード(仮)を受付さんに見せる。
「あ、大変申し訳ありません。身長だけで判断してしまいました。こちらに、名前をお書きください」
「分かりました」
――僕は一六八センチメートルくらいあるんだけどな。まぁ、この中からしたら小さいか。
僕は差し出された紙に自分の名前を書いて大会の申し込みを完了した。
「では、大会開始は午後二時からになります。丁度三〇分前なので、午後二時になりましたら広場の前に設置しております、大型の舞台前にお越しください」
「わかりました」
「大会は舞台上で行われます。事前に勝ち抜き試合表を提示しますので、それを見て準備しておいてください。出番になったら名前を呼びますので舞台上に上がって来てくださいね。説明は以上になります。何か質問はありますか?」
「えっと、何人くらいが参加する予定ですか?」
「そうですね……、今のところ七八人くらいですね。もう少し増えると思いますから、ぜひ優勝目指して頑張ってくださいね」
受付の女性は笑顔で受け答えしてくれた。
「わ、わかりました」
僕は期待されていないんだろうな、と思いながらその場をあとにする。
周りからの視線は感じないが、何かをヒソヒソと話している声は聞こえた。
誰に対する噂話か知らないが、そう言うことを僕の周りでされると、僕まで気を這ってしまうので、できれば僕がいなくなってからやってもらいたい。
「なぁ、今年の力比べ大会にフレイが出るって本当か?」
「今年も戻ってきているから出るんじゃないかと思っただけだ。実際に出てきても、魔法を使わなければ体格のでかい方が勝つ。赤色の勇者に泡を吹かせてやろうぜ!」
「俺もやってやるぜ! あんな芯の細いやつ、俺の筋肉なら瞬殺だ!」
筋骨隆々の男たちが筋肉を見せ合いながらフレイ(赤色の勇者)の話をしていた。
――嘘だろ……。フレイが出る可能性があるのか。うわぁ、参加するんじゃなかった。でも、鉢合わなければいいだけだ。
僕はどこにいるかもわからないフレイに注意しながら、三〇分の間、何か顔を隠せるものがないか探した。
「まぁ、探しても見つからないか。お面でもあればいいんだけどな。最悪、被り物でもいい」
僕は何か使える物がないか血眼にして探す。
フレイと当たる可能性を考えると、どうしても素顔を隠すものが必要だった。
「おーい。この木箱、どこに捨ててこればいいんだ?」
「そんなもん『ファイア』で燃やしちまよ。その方が捨てに行くより早いだろ」
「お、そうだな。燃え広がらないよう一瞬にして塵にしてやるか」
僕が聞き耳を立てていると、木箱と言う単語が聞こえてきた。
僕は声のする方向にすぐさま走る。
「すみません! 木箱がいらないのなら、いただけないでしょうか!」
「うおっ! い、いきなり現れるんじゃねえ。ビックリするじゃねえか」
声の主は紅葉祭で屋台を出している方たちだった。
「木箱が欲しいならくれてやるよ。丁度燃やそうとしていたところだしな。だが、いったい何に使う気なんだ?」
「少し被りたくなって……」
僕は顔が丁度治まる大きさの木箱を貰った。
匂からして、調味料が入っていた木箱のようだ。
――顔を隠せる木箱が手に入ったのはいいけど、顔がひりひりするな。唐辛子でも入っていたのかも。でも、フレイに気づかれて殺されかけるのは困る。大会中は我慢しよう。
僕は左腕に付けてあるナイフを鞘から抜き取り、外が見えるように目の部分を抉り取った。
「よし、これで前が見えるようになった」
「残り五分で午後二時となります。力比べ大会が間もなく開催されますので、大会に申し込みした方は繁華街中央、大広場にあります舞台前にお集まりください。また、見物客の皆さまは大広場にどしどしお越しください」
「あ、もう開催するのか。僕も行かないと」
僕は大会に出場するため、大広場に向う。
すると、大量の人でごった返しており、どこを見ても人、人、人。
チラホラと警備している獣人族の男性が立っている。
僕は人ごみの間を針で縫うように動きながら舞台前に到着した。
参加者用の場所が縄で分けられており、係の方が名前を確認していたので僕も名前を伝えて参加者のいる場所に入れてもらった。
だが、周りの男の人たちが屈強過ぎて、子供が迷い込んだような状態になっている。
僕はとんでもない大会に出てしまったのではないかと思いながら順番を待った。
「さぁ、始まりました! 力比べ大会。昨年大人気だった為、今年も開催される運びとなりました。皆さん、盛り上がっていますか!」
女性の司会者が『黄色魔法:音声拡張』を使い、広場にいる人達に語りかける。
「うおおおおおおおおおおお!」
会場にいる人々は声を荒げ、空気を震わせる。
「素晴らしい掛け声ですね。気合いは十分あるみたいないので、このままの流れで行きたいのですが簡単なルール説明いたたします!」
女性が説明し始めると、観客は静まり返る。
「参加者は二人で向かい合ってひじをつき、手のひらを握り合って互いに腕を倒し合い、押し伏せたほうを勝ちとする遊び、いわゆる腕押し大会です」
「腕押し……。エルツさんが行ってたのは遊びだったんだ」
「魔法の使用はなし。武器を使うのも禁止です。出来るのは腕で押しあうのみ。ぜひ優勝して金一封を手に入れてください。では第一試合から始めさせてもらいます。人数が多いため四組に分けて戦ってもらいたいと思います。では名前を呼ばれたら舞台に上がり、椅子に座りって台に肘を着けて互いに手を握り合ってください」
腕押し大会が大盛り上がりの中、始まった。
男性の全参加者は八八人。勝ち上がり式の戦いになり、最後の一人になるまで戦う。
四組に分かれ一組二二人の中で一番になれば準決勝に行ける。
一組における不戦勝の数は六個。
僕は運よくシードになっており、一回戦を戦わずに済んだ。
全五試合で一組の優勝者が決まり、上位四人が決まる。
なので、僕はあと四回戦わないと準決勝に出られないはずだった。




