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三原色の魔力を持っていない無能な僕に、最後に投げつけられたのがドラゴンの卵だった件。〈家無し、仕事無し、貯金無し。それでも家族を助け出す〉  作者: コヨコヨ
第一章 『無限』の可能性

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自問自答

「おい、どこまで行く気だ。あの列車から大分離れたぞ。そんなに離れる必要があるのか。おい! 聞いてるのか黒髪!」


「あ、ああ……。そ、そうだ。もっと離れないと、僕はフレイと本気で戦えない。フレイも本気の僕と戦いたいだろ」


「寛大な心を持つ俺でも、そろそろ我慢の限界だぞ……」


 フレイは僕を背後から睨みつけてくる。まだ、一キロメートルも移動していないと思うのだけれど……。


「も、もう少し、もう少しだ。あと一キロメートルくらい離れれば十分だ。それまで我慢してくれ」


「我慢……。俺はな、我慢が一番嫌いなんだよ。今すぐ黒髪をズタボロにしたくてたまらないんだ。それがわかっていて、俺に言っているのか……」


 フレイの両手が握りしめられ、わなわなと震えているように見える。魔力は先ほどよりも多く漂い、近くにいるだけで熱く感じた。


「が、我慢すればするだけ、勝利の高揚感が大きくなるぞ。ぼ、僕は滅多にいない黒髪なんだ。こんな機会またとない。それを中途半端なところで消化してもいいのか……」


「ぐぬぬぬ……」


 ――きつい……、これ以上はほんとに不意打ちで殺されかねない。不意打ちを警戒されているから、後ろをいちいち振り返られない。振り返ったら不意打ち判定されて問答無用で切られそうだ。

 プラータちゃんや白服の人達は逃げられただろうか。僕はどれくらいの時間を稼げただろうか。


 僕は黒卵が入っている革袋を抱きかかえながら震える足を無理やり前に出して歩いている。

 黒卵を抱きしめていると不安が少し和らいでいるような気がした。ただの黒くて大きな卵なのに。この卵はいったい何なんだ。


 勇者から発せられる熱は僕の背中を焼き、先ほどから服が燃え出してしまいそうなくらい熱い。


「はぁはぁはぁはぁ……。の、喉が渇いた。湖の水を飲ませてもらう。あっちの湖に移動しよう」


「はぁ? 許すわけねえだろ」


 赤色の勇者は剣を抜き、僕の背中に剣先を添わせる。

 僕はその場で停止し、喋りかけた


「く……。で、でも、喉が渇いていたら正しい詠唱が言えない。そうなれば魔法の威力が半減する……」


「青色魔法で水を出せばいいだろうが。黒髪は三原色の魔力を全て持っているはずだ。なら、七種類の魔法が全て使えるだろ。魔力から生成した水は飲めるはずだ」


「ぼ、僕が出す水は不純物が多くて飲めた代物じゃない。黒く濁った水なんて飲めないだろ……」


 ――もっと時間を稼げ。せめてあと二〇分。黒髪が生成する水が汚いとか信じてくれるだろうか。こんな嘘でもつかないと僕の寿命が一瞬でつきてしまう。頼む乗って来い。


「くっそ! こっちも暇じゃないんだよ。俺はルフス領に行って多種多様な女とやりまくらねえといけない使命があるんだ! 俺様の最強遺伝子を残すためにな!」


「それならなおさら、僕に勝たないといけないじゃないか。誰にも負けないのが最強という証。勝負なら、相手が完璧な状態の時に勝たなければ最強と言えない。

 僕が完璧な力を出すためには水を飲まないといけない……。だから、あの湖の水を飲ませてほしい」


「ちっ……、ならさっさと歩け。俺の最強伝説を伝記に綴るうえで、黒髪を完膚なきまでに叩き潰したと記載したいからな」


「わ、わかった……」


 僕は近くに見えていた湖までゆっくりと歩いて移動する。足元に罠でもあるかと思うほど足取りが遅い。ただ、戻って来た時が僕の最後だと思うと、足が重いと感じるのも仕方がないか。


 ――死ぬ前、最後に口にするのが水とは……。どうせならシトラのオムレツがよかったな。


 僕は残りの命が少ない時、シトラの顔をふと思い出した。


 ――そうだ……、僕はまだ死ねないじゃないか。シトラにキスもしていないし、何ならその先もしていない。

 抱きしめてすらいないんだ。死んだらもう会えない。何簡単に死のうとしているんだ。もっと最後まであがけよ、シトラに会いたいんだろう……。


 僕は恐怖から震えていた腕で黒卵を強く抱きしめる。

 シトラを考えたら否応にも体に力が入ってしまったらしい。

 背後から攻撃されたらなすすべもなく死んでいた僕は、大きな湖に到着した。

 澄み切った綺麗な湖で、シトラと一緒に来て彼女の水着を眺めたい一生だった。きっと、嫌々言いながらも露出度の多い水着を着てくれていたに違いない……。結局着た後、大きな胸を弾ませながら僕を睨んでくるのだ。


「ほら、水をさっさと飲みやがれ。その後、俺と戦え」


「わ、わかっている」


 僕は湖の水面に近づき、映った自分の顔を見る。

 さっきまで恐怖に支配されていたが、凄く凛々しい顔になっていた。まだ生きたいという強い信念を感じる表情だ。

 煤と血が付着し、フレイの熱気で乾燥した掌を綺麗な水で洗い落とす。

 そのあと手でお椀を作って、水を掬い、口もとに運ぶ。

 とても透き通った綺麗な水で夏なのに冷えており、凄く美味しい。病原菌が蔓延っていたとしても、一時間でお腹を壊したりしないだろう。

 もう、一五分後ですら生きているかわからない状況なんだから……気にしても仕方がない。


 緊張と恐怖で唾液が一切出ず、渇き切っていた喉が一気に潤う。

 体の水分が蒸発して思考が回っていなかったのか、急に頭が冴え始めた。脳に巡る血の流れがよくなった気さえする。


 ――この状況を打破するにはどうしたらいい。考えろ。何か手があるはずだ。シトラに会うため、生き残るため、何がなんでもこの場を脱しないと。


 一つ目に考えたのは、あの勇者を戦闘で倒せるのか。


 ――赤色の勇者は、赤色魔法を使い火属性魔法が得意。近距離の攻撃は、剣に炎を纏わせて辺り一帯ごと焼き切る斬撃だ。

 その剣速は僕なんかでは到底避け切れない。近距離で戦ったら死ぬ。なら遠距離ならどうだ。いや、炎の矢で射貫かれて、そのまま燃え尽きて死ぬ。

 勇者がどれだけの距離を射貫けるかにもよるけど、僕が走って離れた程度では余裕で射貫いてくるだろう。

 くそ……。僕が戦って勇者に勝てる可能性は皆無か。わかっていたけど、戦闘力が貴族と平民だな。


「おい、何をしている。早く上がって来い、お前が来ないなら俺から行くぞ」


「す、すぐ行くよ」


 僕はゆっくり歩いてフレイのもとに向かった。

 歩きながら自問自答する。


 二つ目に考えたのは、勇者から逃げられるのか。


 ――勇者の身体能力と僕の身体能力を比べた時、人族同士だからほとんど変わらない。

 ただ、三原色の魔力を持っているだけで、その分、体が強化される。

 赤色の勇者と言われるくらいだ。魔力が多いはずだ。

 魔力だけならまだしも、上半身裸のフレイはえげつないくらい腹筋が割れていた。普通に筋力の鍛錬だけで、腹筋が八つ以上に割れるなどありえない。

 腹筋だけじゃなく、胸筋や背筋、上腕二頭筋、至る所が盛上っており肉弾戦でも戦えるといっているような体だった。

 そうなると足も確実に速い。僕よりも速いはず。つまり、勇者の近くから走って逃げても必ず死ぬ。たとえ遠くから走って逃げても、一瞬で追いつかれると目に見えている。


「はぁはぁはぁ……ダメだ。考えても考えても、いい案が浮かんでこない。いったいどうしたらいいんだ……」


 僕はフレイのもとにとうとうたどり着いてしまった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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[良い点] 魔力使えないのに身体とか鍛えたりはしなかったのかな?
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