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石拾い 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 いよいよあと2年くらいで、紙幣の大幅改定になるんだね、こーちゃん。

 いっぺんに3種類もお札が変わるとなると、頭の切り替えに時間がかかりそうだ。これまでの印象が染みついているからさ。

 しかし、この時代を生きるコレクターについては、あらたな収集物の登場。胸が躍る人もいるんじゃなかろうか。

 自分がいまいる時代における、すべてを集める。遠大で達成しがいのある目標だけど、果てがない。文化の営みある限り、こうして新しいものが生まれ続けてしまうから。

 文明滅びるその時まで、命を長らえなければ本当のコレクション完成にはいたらない。

一方で、時を経たものでない。できたてほやほや、生に触れたからこそ意義が生まれる瞬間もある。

 僕たちが生きている間、触れようとするもの。触れてしまおうとするもの。そこにはひと目では見当もつかない、不可解な意味が含まれるかもしれない。

 僕の昔の話なのだけど、聞いてみないかい?



 幼稚園にあがるか、あがらないかというとき。僕は家族でお出かけに行くと、決まってあるものを握りしめながら、みんなのもとへ戻ってきていたという。

 石だ。手のひらからあふれるほどたくさん握ることもあれば、ひとつだけ大事に握り込んでいることもあった。

 自然物においては、妙に肌が滑らかで光を照り返す小石たち。親は僕の興味の現れをうれしく思いながら受け取りつつも、帰る前のどこかしらで捨てていたらしい。

 当初の僕は、いちど手から離れたものからは、たちどころに興味をなくしていたし、さほど問題にならなかった。「預かっておく」という親の言葉も、疑うことはしなかった。

 でも、そのうちこだわりや執着ともいうべき気持ちが芽生えてくる。それがやがて、親への疑惑の目をはぐくんでいったんだ。



 親の言葉が口だけだと分かったとき、僕は例の石たちを誰かに見せることを、避けるようになっていた。自分だけのものにしていれば、誰かにいじられることもない。

 僕は見つけた石たちを、ポケットの中へ詰めて持ち帰った。親は僕を身体検査することもなかったし、ただ石へのこだわりがなくなったか、くらいにしか思わなかったんじゃないだろうか。やぶへびは嫌だから、聞かずにいたけれど。

 持ち帰ることに成功はしても、ただ部屋へ置いておくだけじゃ怪しまれる。僕は祖父母が土いじりをしている家の裏庭に、まばらに散らしておいたんだ。

 それこそ土すべてを入れ替えるような大仕事をしなければ、全滅はあり得ない。

 石拾いをはじめて数年の経験を積んだためか、僕は石に関する嗅覚が鋭くなっている。出かけた先でなくとも、同じ石を見つけることがたやすくなっていた。

 すでに小学校へあがっている時分になったけれど、まるで発作のように心がうずくことがある。その時、僕はふらりと家の外へ出て件の石を集め出すんだ。


 昔は、ただ見つけて拾うことができればよかった石。

 けれど、そのうち何となく気が向いてね。しばらく集めることはせず、ただどこに落ちているのか場所を確かめようと思ったんだ。

 その日、見つけたポイントを覚えておき、社会科の学習で用意した地図に手で書き足していく。

 すると、ある法則に気がついたんだ。石たちは落ちているところによって、個数に偏りはある。それらをひっくるめてポイントのひとつにし、線でつないでいくととあるポイントに集まっていく。

 橋向こうにあるアリーナの屋外運動場。僕が小さい時にできたというこの施設は、部活の大会から地域の行事まで、頻繁に利用し続けられている。

 大きな道路に面していることもあり、そこへ至るルートは無数にあった。気づいたその時から、僕は自転車を飛ばして各々のルートの石を見ていく。


 結果、いずれもつながっていたんだ。

 数や間隔に偏りがあり、道に沿った箇所でなかったとしても、地図で俯瞰してみるとやがてその点は例の運動場に集まるんだ。

 おそらく、僕が出かけた際に見つけた石たちも……。

 気味悪さを覚えた僕は、石を拾うことをやめたのだけど、ほどなく奇妙なウワサを学校で耳にするようになった。


 夜中に、件の運動場からボールを蹴ったり、打ったりする音が聞こえてくるというんだ。

 その子は運動場の近くに家があり、ときおり響くボールの音に、目を覚ますことがあったらしい。

 しかし、とっくに利用時間は過ぎているし、ナイターがともっている気配もない。ちょっと外へ出てみた時にはもう、音がしなくなっている。残るのは無人の広場のみ。

 面白がって、運動場の様子を見に行こうと、夜の計画を練り出す子もいたが、僕はそれどころじゃなかった。

 学校から帰ると、時間の許す限り裏の畑へ出て、例の白い石を探し、掘り出していったんだ。

 同じところも何度も見直し、そのたび出てくる石の姿を見て、「これほど埋めたのか」とかつての自分の行いに、ため息をついてしまう。

 何度往復しても、そのかさを増していく石の山。夕飯のあとまで粘り、小さいシャベルを使っての発掘作業も親にストップをかけられてしまう。

 これまでごまかし続けてきたことだ。ここでいきなり説明しても、怒られる可能性が高い。

 しぶしぶ僕は部屋へ引き上げ、何事もないことを願いながら床へつく。次の日も、畑の中へ潜んでいるだろう、石たちの回収を急ぐつもりだったさ。


 だが遅い。

 夜中、ベランダに面した二階の部屋で眠る僕は、意識の奥でボールの弾む音を聞いた。

 目を覚ますと、なおその音は大きく聞こえる。窓の外からだ。

 そっと起き出した僕は、カーテンをわずかにめくり、ベランダの下へ広がる畑へ目を向ける。

 ならされた土の上。そこで誰もいないのに、ときおり飛び散る土の塊たちが見えたんだ。

 畑の一方の端と、反対側の端。その塀ギリギリのところで、ボールの音に合わせて土が飛び散っていく。


 かたずを飲みながら、その不思議な光景を見守っていた僕だが、やはり本来つどうべきでない場所へ集められたためか。

 やがてボールを打つ音が増え、あわせて飛び散る土の量と頻度も増していく。

「まずい」と思った時にはすでに遅く、階下から窓が割れる音が響いてきた。のみならず、あたりに建つ家々も、ベランダに面した窓が次々に割れていった。

 明かりがともり、いくつもの足音が聞こえてくるが、その時にはもう畑の異状は見られなくなっていたんだよ。


 ヘンゼルとグレーテルは石やパンくずを目印にしようとしたという話だけど、どうやら僕はその目印を奪った鳥になってしまったらしい。

 その処分をしっかりしないままだったから、こうして彼らを誤った場所へ招いてしまったんだろう。


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