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私の失敗した計画





そんなこともありましたが、気付けばあっという間に夜会当日。


私は一人で忍ぶように会場に入りました。

煌びやかな会場は、着飾った人で溢れています。

こんな賑やかな場所でも、私は大好きなユーシスを一瞬で見つけることが出来ました。

そしてその横で微笑んでいる姉と、ついでにレウルスも見つけました。

レウルスに至っては彼の方も私を見つけたようで、視線がバチッと合いました。


レウルスはこちらにやって来ようとしていたようですが、その道すがらどこかのご令嬢に呼び留められていたので、私はユーシス奪還計画の開始時間まで一人息をひそめて壁の花になることといたしましょう。




影のように気配を消して、2時間ほど。

客たちには良い感じに酒も回って、緊張が緩んできたように思います。


良い頃合いです。


皆の気が緩んだこの時間の訪れこそ、私のユーシス奪還計画の始まりの合図です。

私は、私の協力者の男性が、ユーシスが飲み物を取りに言った瞬間を狙って姉に声をかけたところで、ユーシスを足止めするべく動き出しました。


飲み物のグラスを二つ手に持ったユーシスを呼び留めて、他愛のない話をしているうちに、私の協力者の男性が言葉巧みに姉を薄暗い中庭へと連れ出しました。


……よし。

では私も次のフェーズに進みます。

なんとかして、私がユーシスを中庭へ連れ出すのです。


先ずは正攻法で「中庭へ行こう」と提案したら、ユーシスは残してきた姉が心配だと言うので、「姉が中庭へ行くのを見た」と嘘を言ってしましました。

嘘をついたことに罪悪感はありますが、私はなんとか、ユーシスを中庭に連れ出すことに成功したのでした。





「きゃあああああ!」


しかし中庭に私とユーシスが足を踏み入れた瞬間、悲鳴が聞こえてきました。

姉の声。

姉の悲鳴です。


「何があった?!……アレクサはここにいて」


悲鳴に怯んだ私を残して、ユーシスが真っ先に走り出しました。


「あっ、待ってください。私も!」


気を取り直した私も、ユーシスに続きます。


中庭の生垣の向こう。噴水の影。

そこには姉と、私の協力者の男性がいました。

男性は嫌がって身をよじる姉の腰をベタベタと抱いて、酷く顔を近づけています。

逃げられない姉は、嫌悪で半泣きの表情になっています。


何ということでしょう。

約束が違います。姉に無体は働かないでとあれほど口を酸っぱくして言ったのに!



「お前、何をしている!彼女を放せ!」


間髪入れずにユーシスが飛び出しました。

何の躊躇いもなく、姉を助ける為だけに飛び出しました。

ユーシスは騎士さながらの鋭い動きで男性を吹き飛ばし、青い顔でふらつく姉の体を抱き留めました。


「大丈夫か?僕が目を離したばっかりに」


もう放さないとばかりに、ユーシスは震える姉の体をぎゅ、と抱きしめました。


「いいの……貴方が来てくれてよかった」


姉の方も、もう放さないでとばかりにぎゅ、とユーシスに抱き付きました。


「今日はもう僕の傍を離れないで。僕も君を一人にはしないから」

「ええ、わかったわ。ユーシス」



ただ突っ立ってそれを見ていた私は、「物語の一節のような美しい光景だ」と溜息をつくと同時に、アレッと首をかしげました。

あれ?

私、こんなことがしたかったのでしたっけ。

いえいえいえ、違いますよね、アレクサ。

私はユーシスに姉が浮気をしていると勘違いさせて、仲違いをさせたかったのですよね。

こんな風に、見つめ合う2人の愛を深めることをしたかったわけではありませんよね?


腑に落ちない私は暫くその場でユーシスと姉をぼんやりと観察していましたが、抱き合った二人が離れそうにないので、諦めてその場を離れることにしたのでした。




そうして今、私は例の姉に無体を働いた協力者の男性と対峙しています。

悪女な私の計画が他の人間に聞かれるわけにはいかないので、場所は夜会会場に用意してある個室です。

恋人同士や婚約者同士が休憩するために使ったりもしますが、私たちのように他言無用の話をするにも丁度いい部屋です。


その部屋の中で、私は怒っていました。


「姉に無体は働かないって約束しましたよね!」


「そうだったっけかあ?」


男性は剣幕で睨む私の視線を飄々と躱します。


彼は顔が良くて女好きと噂の子爵令息ではあったのですが、直接会って第一印象は礼儀正しい方だとと思ったので、この作戦の男役をお願いしたのです。

ですが、こうして正体がバレてしまって開き直った彼は、下品な笑いを浮かべたのでした。


「しました!固く約束しました!姉の体をあんなにベタベタ触るなんて、姉がトラウマを抱えてしまったらどうしてくれるのです!」


「へいへい、すみませんでしたね。でも臨場感のあるいい演技だったろ?それに俺、あの貴族男に殴られたし。あんたは報酬を上乗せしてくれてもいいと思うんだよなあ」


「駄目です!本当は姉を怖い目に合わせた貴方に払う報酬などないと言いたいところなのですよ!でもまあ、約束なので、本来の分はお支払いします」


何と図々しい男性でしょう。

私は眉をひそめながらも、約束の金額の入った封筒を懐から取り出して男性に渡しました。


「やっぱまだ足りねえなあ……」


男性は封筒の中身をすぐさま確認し、小さく舌打ちをしました。


「ああ、そういえば。俺たちが交わした約束はあんたの姉には乱暴しない、だったな」


「そうですよ。なのに貴方は……きゃ!」


パッと顔を上げて何かを思いついた様子の男性は何と、いきなり私をベッドに押し倒してきました。

視界が反転します。

私がアッと息をのんだ時には、天井と男性の顔しか見えない状態になっていました。

手首が強い力で固定されていて、どうにも身動きがと出ません。


「じゃあ代わりにあんたに乱暴しても、約束は破ったことにならないわけだ」


「えっ、やめ!」


「あんたも相当な上玉だよな。邪魔が入ってあんたの姉で不完全燃焼な分、あんたでスッキリさせてもらうか」


ぞわっ。

男性がにやりと卑しく笑ったので、私の背筋は凍りました。


「ふ、婦女暴行変態痴漢罪で訴えますよ!」


「そうすると、あんたの計画も皆にバレちまうなア」


「それはっ」


私はぐっと言葉を詰まらせてしまいました。

それもいけません。

私のユーシス奪還計画が皆にバレて、こんなところで潰えるなんていけません。

私はあの優しいユーシスのお嫁さんになりたいのです。

姉を慈しむ姿を見せつけられたばかりですが、私はまだ諦めきれないのです。


「しおらしくしてれば、俺はあんたの姉よりあんたの方が好みかもしれねえな」


私の上に乗ってきた男性は、私の心情など余所に、片手で私のドレスを脱がせ始めました。

こういう令嬢のドレスは複雑に着つけられていて、片手で私の両手首を拘束した状態で脱がせるのには時間がかかることがせめてもの救いでした。


「い、嫌です嫌です!ユーシス助けてください!ユーシス!ユーシス助けて!レウルス助けて!誰か助けて……!」


身動きが取れない私は、全力で叫びました。


可憐で無垢な姉を嵌めようとした、こんな悪女を助けに来てくれる人なんていないかもしれません。

でも、叫ばずにはいられませんでした。

大好きなユーシスの名前を、それから、いつも傍にいてくれる頼れる幼馴染の名前を。








短編のつもりで書きましたので、今日で完結します。

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