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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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婚約破棄

 宝物庫での逢瀬から数週間後、リリィの結婚発表を兼ねたパーティが開かれた。


 押しも押されもしない名家のルフナ家と、新興貴族の代表格であるキャンディ家の婚礼ということもあり、多岐に渡る数百人もの出席者が会場となる大広間に集っている。


 オーディションで見かけた人や勇者になってから挨拶をした人もチラホラといるので有力者は一通り揃っているようだ。


 私達勇者一行もリリィの友人という名目で来賓として呼ばれた。


 私のいる丸テーブルを囲むメンバーは懐かしい顔ぶれが揃っている。


 ピオニー、ラン、レンは毎日顔を合わせているので新鮮味はないが、メリア、ネリネは久しく会っていないので積もる話が多い。


 メリアは大手のギルドに拾われ、治癒師として活躍しているそうだ。さすがに死者を生き返らせられる事は公には広まってはいないが、二次審査でネリネの蘇生をしている場に居合わせた人にスカウトされたらしい。


 驚いたのはネリネだ。以前、『草の根』と称した勇者候補生の売春パーティを主催していたルナットと組んで魔法具の流通を始めると私達に教えてくれた。


 食品系の取り扱いを仕切る古参の貴族に睨まれると商売がやり辛くなるので、事業の多角化を睨んで別の商品を取り扱いたいルナットと、キャンディ家の影響が及ばない後ろ盾が欲しかったネリネ。二人の利害が一致すると見抜いたリリィが紹介したようだ。


 まずは水を浄化する道具を平民向けに大量生産してみると言っていた。さすがに大人の玩具を大々的に売り出す事は避けたらしい。


 皆の近況を聞きつつパーティの中心を見ると、オーケストラを従えた貴族舞踊が始まったところだった。


「勇者リフィ様。よければ伯爵家の跡取りである私と一曲いかがでしょうか?」


「いえ、是非私と」


「公爵家の次男です。よろしくお願いします」


 曲が始まるなり、貴族の子息と思しき人が私達の周りに群がってきた。


 全く興味がない上に、今日の作戦の遂行に邪魔になる。


「すみません。男性には興味がないんですよ」


 誘ってきた貴族は「あ……」と何かを察した顔で去っていった。


「リリィ以外には、の間違いだよなぁ」


 ランがボソッと言うので睨みつけて足を踏む。


「痛えな」


「今日だけは真剣なの。ふざけてる場合じゃないから」


「分かってるよ。愛しのリリィ様の為だもんな」


 もう一度ランの足を踏みつける。何度かグリグリと踵を捻ると大人しくなった。


「リリーちゃん。気をつけてね」


 不安そうな顔をしたメリアが話しかけてくる。


「ありがとう。でも、私は何もしないわ。リリィが頑張るだけよ」


 会場の真ん中では、多くのペアが踊っている。その中心はリリィとネリネの兄。今日の婚礼の主役だ。


 リリィは裾の広い白いドレスを着て、ヒールも高そうなのに軽やかに踊っている。


 玉の輿で美人を引いた、なんて思っているのかニヤニヤ顔でリリィの腰に手を回しているネリネの兄に殺意を覚える。今日の作戦では彼を殺す予定はないのだが、どうにも腹の虫がおさまらない。


 周囲のゲスト達は主役を目立たせるためにある程度賑やかしたら踊りを止めた。


 ピクリとも動かない群衆が見つめるのは仲睦まじくはない若い男女。男はどうでもいいが女の方は世界で一番美しいと思った。未来を見据えており、目が死んでいないからだ。


 音楽に合わせて踊りはゆったりと進む。


 この後のメインイベントに向けて腹ごしらえにテーブルにあった料理をつまむ。


 和やかに進む貴族の結婚パーティ。そんな雰囲気に不釣り合いなドスンという人の倒れる音がする。続いて男のうめき声と甲高い悲鳴が聞こえた。いよいよ始まった。


 人をかき分けて中心に向かう。そこには、ナイフをネリネの兄の脚に突き立てたリリィがいた。明らかに常軌を逸した表情。誰も近づこうとはしない。私達、勇者を除いて。


「リリィ! どういうことだ!」


 ランがリリィに詰め寄ると、リリィは人を押し退けて大広間の出口へ向かう。出口近くの人は何が起こったのか認識すらしておらず、逃げるリリィにぶつかられてよろめいている。


「皆様! 私達勇者にお任せください! この部屋から出ずに、落ち着いて伏せてください!」


 レンがリリィを追いかけるように出口に走り寄り、場を掌握する。リリィはさっさと出口から出ていってしまったが、レンがその出口を塞いでいるので誰も近づけない。


 ピオニーはメリアを連れてネリネの兄の治療に向かった。結構な痛がりようだったので気の毒だが、リリィの腰に手を回していたことを思い出すとどうでも良くなった。


 私は、ランと二人でリリィを追いかけるためにレンの横を通り広間を出る。


 廊下には警備の兵が巡回しているのだが、全員鎧が凹む程の力で殴りつけられて失神していた。


 いくらリリィとはいえそんな力はない。恐らく、性悪な貴族の女性当主と子持ちの魔法使いの仕業だろう。


 廊下を走り突き当りを右へ曲がる。曲がってすぐの部屋の扉が半開きになっている。


 ランと勢い良くその部屋に飛び込むと、リリィが私を抱きとめてくれた。


「リフィ、本当にこれで良いの? 父がどう出るか分からないじゃない」


 リリィは心配そうな顔をして私を見てくる。


「大丈夫です。安心してください」


 不安そうにしているリリィが珍しいのとたまらなく可愛く見えてしまい、セットされた髪が乱れるのも構わずに頭を撫でる。


「仲睦まじいのね。久々に連絡が来たかと思えば兵士を気絶させろだなんてね」


「こうやってオーディションに出ていた者達で協力し合うのも悪くはございませんね。次回は私の手助けもお願いいたします」


 ダリアとオリーブだ。廊下を警備している兵士を倒し、この部屋に潜伏していた。勿論、リリィの安全な逃走経路を確保するために私がお願いしていたのだけど、だいぶ派手にやったものだと思う。


「お二人の事は応援しておりますが……本当にうまくいくのですか? お父上の気分次第で明後日の方向に転ばねば良いのですが……」


「大丈夫です。絶対に。私は信じてます」


「そうやって人を信じて足元を掬われた方がいるのですよね」


 オリーブはちらりとリリィを見る。まさか自分から話題に出すとは思わなかったが、最後の投票で裏切った事が尾を引いているようで二人は気まずそうだ。


「オリーブ……私は恨んでいないわ。協力してくれてありがとう」


「……っ……随分素直になられましたね。折角ならもう一年くらい軟禁されても良いのでは無いでしょうか。ダリアさん、行きましょう」


 オリーブの方がまだ和解の準備が出来ていなかったようだ。照れ隠しなのか「フン」と鼻から息を吐いて窓から逃げていった。


「自分の仕事が終わったらすぐに逃げれば良かったのに、リリィを待ってるあたりオリーブが一番素直じゃないよな」


 ランが二人の降りていった窓を見てニヤニヤしている。オリーブはオリーブで色々とモヤモヤがあるのだろう。公のために生きる同志と思っていたリリィが自分の気持ちを優先したのだから、それ自体がオリーブにとっては最初の裏切りだったのかもしれない。


「まぁ……そろそろ追手が来る頃です。準備は良いですか? リリィさん、もう少しですからね」


 リリィはもう取り返しのつかないところまで進んできている。私が上手く道筋を示せていないからか不安そうだ。


 だが、唇を一度噛むと決心がついたようだ。真っ直ぐに私を見据える。


「リフィ、貴女には助けられたわ。何があろうと私はもう諦めない」


 私の欲しい言葉はそれではないけれど、リリィが前向きになってくれたのなら及第点だ。


「そう思ってくれて良かったです。弱気なリリィさんもそそりますけど、やっぱり私は虐められないとダメみたいです」


「ここでするの? ランに見てもらう?」


 リリィは嬉しそうに私の頬に手を添える。


「おい、そろそろ時間だぞ。イチャイチャは今度に取っとけよ」


 チラチラと部屋の外の様子を確認していたランが首を横に振る。追手が来たようだ。さすがに私もここでリリィと楽しむ余裕があるなんて思っていない。


「悪いな。ちょっと痛むけど後でピオニーに治してもらえよ」


 ランはリリィに断りを入れると、腕を背中で決めて床に押し倒した。顔面が思いっきり床にぶつかったのが痛そうで顔をしかめてしまう。


「リフィ。これからどうなっても、一生貴女のことが好きよ」


 リリィが床から顔面を逃し、鼻血を垂らしながら言う。もう少し早く言ってくれたら良かったのに。


「あ……わ、私もです!」


 咄嗟の告白に反応できず、しどろもどろになりながら返す。


「おい! リリィを捕まえたぞ!」


 ランが追手を呼び込むために叫ぶ。これ以上リリィとは話していられない。目配せをすると、私も部屋から飛び出して追手を呼び込む。


「こっちです! 手枷を早く!」


 追手の兵士が持っていた手枷をハメられ鼻血を流しているリリィの目は死に、さっきまでの美しさは消え失せた。


 私が死んだふりをしてネリネを騙したときもそうだったが、リリィの演技力には舌を巻く。


 演技だとは微塵も思っていない追手と共に、ボロボロになったリリィを連れて私達は広間に戻った。

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