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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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返事

 遂に二次審査の本番がやってきた。かなり強い魔物と戦うため、郊外に馬車で移動した。


 会場となる草原の向こうには大きな檻がいくつも用意されていて、中には魔物が早く出してくれと言わんばかりに暴れ回っている。


 その中には当然、ドラゴンもいる。あんなに危険な魔物を良く捕獲出来たと感心してしまう。


 久しぶりにメリアと再会したので、一緒に会場を見物している。なんだかんだでメリアといると落ち着くのは最初に仲良くなったからだろう。


「良くドラゴンなんて捕まえられたわね。信じられないわ」


「あそこに集まってるのって有名なギルドの人達らしいから楽勝なんだろうねぇ。さすがに倒せませんでした、だとシャレにならないから、万が一に備えて待機してくれているみたいだよ」


「そうなのね。メリア達はどう? 勝てそう?」


「大丈夫! レンさんもオリーブさんもすっごく強いの!」


 どのチームも結局活躍するのは魔法使いなのだろう。瀕死の怪我でもすればメリアが活躍する機会もありそうだが、そんなポカはしないだろう。


「リリーちゃんはどうだったの? それ、ドラゴンの牙? 凄いね! 何体倒したの!?」


 メリアが私の首に下げているドラゴンの牙に食いつく。誰も欲しがらなかったので、ゲン担ぎも兼ねて穴を開けてネックレスにしてつけているのだ。


「倒したのは二体よ。今日で三体目になると良いな」


「絶対にそうなるよ。頑張ろうね」


 遠くからオリーブがメリアを呼んでいる。そろそろスタンバイの時間なようなので、ハイタッチをしてメリアと別れた。




 人気上位の集まった私達のチームがドラゴンと戦う。魔法使いのネリネが圧倒的な力を見せつけるという下馬評からしても見世物としては魅力的だ。


 そんな背景もあり、私達は最後に回された。今は一つ前のチームはメリアやオリーブのいるところだ。


 敵は人間の背丈の二倍はあろうかというトロールが三体。魔法使いのメンバーが一体ずつ対応をして、メリアは後ろで応援しているだけで終わっていた。


 時間にして数十秒くらいだろうか。私達があまり時間をかけているとメリア達のチームに負けてしまうかもしれない。


「練習通りにやれば問題ないわ。行きましょ」


 リリィはいつも通りに励ましてくれる。その言葉で少し肩の荷が降りた気がした。


 全員でスタンバイに向かう。前衛で戦うリリィやランは気持ちが逸っているようで、ツカツカと歩いていく。逆に応援しているだけのピオニーはトボトボと一人で後ろをついてくる。


 必然的に道すがらはネリネと二人で歩くことになった。


「リフィさん、私……この審査が終わったらリリィさんに想いを伝えます。それですっぱり諦めて、自分らしく生きていくっす」


「な、何?」


 今から生きるか死ぬかの戦いに身を投じるとは思えない話題だ。


「振られるのは分かってますけどね。ピアス、似合ってるっすよ」


 私とリリィは同じピアスを付けている。二人共髪の毛で隠れてはいるけれど、一緒に長いこといれば目に入る機会も多いだろうし目敏い人なら気が付いても不思議ではない。私達も別に隠していないのだし。


 ネリネは私とリリィの間の関係に気づいていて、それでも自分の想いにケリをつけたいのだろう。


「ネリネ、頑張ってね」


 全てを悟ったうえでネリネは玉砕しに行くのだから、私は作り笑いでそう言うしかなかった。


「はいっす」


 ネリネはいつもの困ったような笑顔で返してきた。




 平原に作られただだっ広い会場の、ドラゴンが閉じ込められている檻の前までやってきた。


 これまでの人と同様、合図とともに檻が開け放たれるはずだ。


 真っすぐに突っ込んでくれば御の字。そのまま飛び去られるような事になれば私達は赤っ恥だろう。


 リリィとランは私達から離れて檻の近くにスタンバイして、最初のヘイトを買う役目を担っている。危険だが、前衛なのでそういうものだと二人は気にも留めていない。


 姉同様に応援係になりそうなピオニーと、既に魔法具を作った事で仕事を終えたネリネが私の近くにいる。


『それでは、最後の魔物討伐。ドラゴン! 開始です!』


 司会の合図で檻の一角が開け放たれる。


 同時にリリィとランが飛び出てドラゴンの翼を氷魔法で固め、飛べないようにする。ここまでくればちょっと強いトカゲと変わらないとランは言っていた。


 だが、そんなに甘くはないので私も踊りで援護する。最初はリリィが前に出たので剣舞を踊る。


 だが、私達の作戦は間違っていたらしい。ドラゴンはリリィに胴体を切りつけられ大量の血を流しながらも突進を止めず、遂にはリリィとランを引き離して私達の方へ向かってきた。


「リフィ、逃げるわよ」


「二人で逃げて。踊りを変えればリリィが追いつけるから」


 咄嗟の判断だが、どうせ私達が追いかけられるのであれば、前衛の二人に戻ってきてもらう方が早い。ステップダンスを踊ってピオニーとネリネの逃走と、リリィとランの後退を支援する。


 ドラゴンは地響きをたてながらどんどん私に迫ってくる。美人で踊りが上手いので目立ったから私に狙いを定めたのだろう。


 ドラゴンの背後からはリリィとランが走って一気に距離を詰めている。もう少しで追いつけそうだ。


 この先のプランを一気に考える。まず、ドラゴンが目の前まで来たら横に飛んで躱す。ランの方が先に到着しそうなので、すぐに立ち上がってカラテを踊り、ランにドラゴンの脚をもぎ取ってもらう。後は二人でよしなにとどめを刺してもらう。


 そんなざっくりとしたプランを考えた。リリィとランも同じような事を考えてくれていると助かると思いつつ、ステップダンスを継続する。


 ドラゴンが目の前まで迫ってきた。そこまで来たところで、私はドラゴンと目が合う。目には憎しみがこもっている。何となく、このドラゴンは雌だと思った。


 ドラゴンは人語を話さないし意思の疎通は出来ないはずだ。それなのに彼女が何を考えているのか分かった。「憎い」「殺してやる」。復讐心に燃える彼女の憎しみは何故だか一心に私に向かっている。


 心当たりがあるとすれば、リリィと窓から見た番のドラゴンだ。あの片割れが私達が訓練で倒した隻眼のドラゴンだった。何の因果か、もう片方が今、目の前にいる。


 そして、彼の牙をネックレスにして私がつけている。故に彼女は私を仇だと認識した。


 憎しみと復讐の連鎖。最初に仕掛けたのは隻眼のドラゴンだった。コハとサワの村を滅ぼした。そこから脈々と続いた連鎖に何故か私も巻き込まれてしまったわけだ。


 このドラゴンに食われたらリリィが仇を取ってくれるだろう。それどころかこの世界からドラゴンを絶滅させるほどに憎むかもしれない。リリィが全てを終わらせてくれる。


 そんな風に死ぬ前提で考えてしまうのは、私の脚がもつれたからだ。横に勢いよく飛び出したいのに、脚が絡まってしまい、その場で倒れていく。


 斜めになった視界からは、ギルドの猛者達がくっちゃべっているのが見える。どうせネリネが魔法で倒す。そんな風に思い込んでいてこれも見せ場の一つくらいに思っているのだろう。


 そんな訳で助けは来ない。死ななければメリアに治して貰えるだろうし、致命傷を避ければ良いだろう。


 そのまま倒れるに任せていると、いきなり誰かに突き飛ばされた。


 視界が一瞬だけ暗転して、また目を開く。意識を失っていたのは数秒だろう。歓声が悲鳴に変わり、私の目の前に何かがドサッと音を立てて落ちてきた。


 人の腰から下。腰から上はついていない。悪い冗談だと思った。ネリネが着ていた服が見えたのだから。


 恐る恐る上を向くと、何かを飲み込むようにドラゴンの喉がゆっくりと盛り上がっていた。


「ネリネ? ネリネ! どこなの!?」


 何度叫んでも「ここっす!」と返事はこないし、ぐるぐると見渡しても、それらしい人はいない。


 ピオニーはあ然としてドラゴンを見上げている。


 リリィとランはドラゴンにやっとの事で追いついたところだった。


 慌てて駆けつけようとするギルドに先んじて、ヒースが一番に到着し、誰の支援もなくドラゴンを一刀のもとに切り捨てた。

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