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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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乗馬

 ネリネは少し部屋に籠もると、魔法具を今日中には仕上げられると言い切った。


 魔力の供給元も確保できたため、対ドラゴン戦に備えて今日の訓練は終わり、自由時間となった。


 部屋に戻って昼寝でもしようかと思っているとリリィが近づいてくる。


「リフィ。魔物狩りに行きましょう。ランとピオニーも誘ってね」


 捕まってしまったことを後悔した。どうせ私は後ろで見ているだけなのだから、硬い地面で寝るくらいならベッドで寝ていたい。


「私ってやる事あります?」


「何を言ってるの。あるじゃない。剣舞でサポートをして欲しいの」


「あ……そうでしたね」


 私は踊りで皆を支援できるのだった。その発想が頭から抜けていたし、とことん負け犬根性が染み付いてしまっていたようだ。


「守られてばかりじゃないんでしょ? 頼りにしてるからね」


 リリィはそう言うと厩舎の方へ歩いていく。先に馬の準備をしておくのだと察し、私が二人を呼びに行くことにした。二人共さっさと部屋に戻ってしまったらしい。


 最初は御しやすそうなランから声をかける事にした。部屋の前まで来てノックをすると返事もなく扉が明けられる。水浴びをしていたようで、漆黒の髪からは水が滴っていて少し浅黒い肌が丸見えだった。


「ごっ……ごめんなさい!」


「あんだよ。裸の付き合いもしてるじゃねえかよ。今更気にすんなって」


 タオルで乱雑に頭を拭きながら部屋に通される。武闘家なので身体が資本なようで、尻は引き締まっているのに主張が激しい。踊ったら映えそうな体系なので羨ましくなる。


「リリィが今から魔物討伐に行きたいって。ドラゴンの前の肩慣らしにどう?」


「いいな! 行くか! すぐに服着るから待っててくれ!」


 部屋から出て待っていると本当にすぐに出てきた。濡れて垂れ下がった髪の毛は適当に耳にかけている。どうせなら乾かす時間くらいありそうだけど、「馬に乗ってりゃ乾くんだよ」なんて言われそうだし何も言わない事にした。


 次はピオニーの部屋だ。


 ノックをして少しすると不機嫌を全面に押し出した顔で出てきた。


「何?」


「あ……魔物と戦う練習のためにちょっと討伐……的な……」


 かなり威圧的なので気おされてしまい控え目な誘い方になってしまった。


「私はいいでしょ。戦う訳じゃないんだし。それにアンタ達なら怪我しないって」


「いやぁ。私は悲しいぞ。万が一、本当に万が一だけど、魔物に負けて野垂れ死ぬ可能性もあるのに、それでも良いって言うんだもんなぁ」


 横からランが割って入るとピオニーの眉がピクリと動いた。ピオニーの動かし方はランの方が心得ていそうだ。


 実際、万が一に備えて近くに居るに越したことは無いし、魔物との戦いの雰囲気に慣れておいた方が良いのも事実だ。ランにしては珍しい正論でピオニーを説得にかかる。


「そっ、そんな事は言ってないでしょ! むしろ褒めてたんだから!」


「遠まわしに褒められても分かんねぇって! じゃ、行くんだな? ほら行くぞ!」


「ちょっ! 分かったから手を放しなさいよ!」


 あれよあれよという間にランがピオニーを部屋から連れ出した。この押しの強さは見習いたいと感心する。


 庭に出るとリリィが馬を二頭用意しているところだった。片方が白、もう片方が栗毛だ。


「また二頭なのか?」


「えぇ。そんな遠くまで行く訳でもないから大丈夫よ。リフィ、来なさい」


 リリィに誘われるまま、彼女が曳いている白馬の方へ近づく。


「ちぇ。またピオニーとかよ」


 ランがわざとらしくぼやく。本当に嫌がっている訳ではなくピオニーをいじっているだけなのだろう。


「嫌なら走りなさいよ。体力バカなんだから馬には勝てるでしょ」


「体力が凄いって褒めてくれてんだな! やっと話し方が分かってきたよ!」


 なんだかんだでランとピオニーは同じチームでずっとやっているから息が合っている。やいのやいのと言い合いをしながらもさっさと栗毛の馬に乗って出発してしまった。白馬とリリィと取り残される。


「あ……落ち合う場所って言ってましたっけ?」


「言ってないわ。まぁこの子なら追いつけるわよ。早く乗って」


 リリィの手を取り馬に上がろうとすると手を払われる。


「今日は貴方が前よ」


「えぇ……あまり自信無いですよ」


「後ろからサポートするわ」


 リリィの言葉を信じて前に座る。手綱を握ると同時くらいにリリィが背後から抱き着いてきた。正確には抱き着かれたのではなく、手綱を握る手をサポートするためだが、かなり身体が密着している。


「結構近いですね……」


「そう? 仕方ないでしょ」


 仕方ないと言いつつも声にはどこか嬉しさが混ざっているように思え、密着したいがために私を前にやったのではないかと勘繰ってしまう。


「あまり引き離されないうちに行くわよ」


 リリィが馬に合図を出すと走り出す。いきなりだったので少し後ろにつんのめるがリリィの身体がしっかりと押し返してくれるので全く不安にならない。


 そのまま街道に沿って遥か向こうに行っているランとピオニーを追いかける。速度が出てくるにつれて風を切る感覚が強くなる。


「リリィさん! 風が気持ち良……何してるんですか?」


 振り向くとリリィは必死に私の髪の毛を食べていた。食べていたというよりは口に勝手に入ってくるのでどうにかして避けようとしていたようにも見える。


 そういえば結んでいなかったので風で靡いた髪はリリィの顔にバシバシと鞭のように当たっていた事だろう。


「ごっ、ごめんなさい! 大丈夫でしたか?」


「大丈夫よ。視界が悪くなる以外は特に悪い点は無かったのだけれど、念のために結んでおきましょうか」


 後ろで、リリィが私の髪の毛を束ね、髪留めで固定してくれている感覚がある。


「そういえば結んだところを見られるのって初めてかもしれないです」


「そうね。正面からの絵は目的地に着いた時まで楽しみに取っておくわ」


 私が髪を結んだだけの姿が楽しみだと言われるのでさすがににやけてしまう。




 清々しい気分で森の入り口まで風を受けながら進むことが出来た。


 森の入り口では、ランとピオニーは先に馬から降りてくっちゃべっている。


 馬の止め方が分からず、私とリリィの乗った馬はずっとラン達の周囲をウロウロと歩き回る。


「リリィさん、これってどうやって止めるんですか?」


「手綱を引くの。優しくね」


 リリィの補助付きで手綱を引くと馬はゆっくりと停止した。


 先に降りようとしたのだが、脚を引っかけてしまい地面に落ちながらずっこける。腕を捻ってしまったのか、下敷きになった腕から嫌な音がした。


「何をしているのよ……」


 馬の上からリリィの呆れた声が聞こえるが痛くてそれどころではない。


「腕、折れました!」


「折れたらもっと音がするわ。捻っただけよ」


「お……折れました!」


「……私に甘えても治せないわよ。ピオニー! ちょっと来て!」


 リリィがピオニーを呼んでくれた。這いつくばっている私を見てピオニーは何故か嬉しそうだ。


「私がいて良かったわね。感謝してよね」


 なぜピオニーがここまで私にきつく当たってくるのか心当たりがない。いや、あった。風呂場でピオニーにリリィと二人で悪戯をしたのだった。リリィが一人で虐めていただけな気もするけれど、少し楽しんでいた私も同罪みたいなものだろう。


「ピオニー。感謝しているわ。友人としてお願い。腕が折れたの」


「折れてないわよ。ほら、見せて」


 かなり乱暴に腕を持ち上げられるので「痛い! 痛い!」と声が出る。リリィはそんな私を見て何故だか嬉しそうに笑っているし、ここに何をしに来たのか分からなくなりそうだ。


「やっぱり折れては無いわ」


「そ……そう。良かった……」


「治して欲しい?」


 ピオニーはやけに怪しい目つきで私を見てくる。勿体ぶる感じがどことなくリリィに似ている。


「当たり前じゃない!」


「じゃあお願いしてみて? 昨日の謝罪はいいから、ピオニー様って呼ぶの。なるべく目線を下げてね」


 リリィが吹きかけた息によって確かにピオニーの中で何かが燃え上がってしまったようだ。だけど、明らかに燃え方が違っている。飛び火して火事を起こしそうだ。


「ピオニー。そういう遊びは夜になさい。良いから早く治して」


 力関係としては、リリィの方がピオニーより強いのだろう。ピオニーはリリィに注意されるとしおらしくなり、素直に治療をしてくれた。

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