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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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お仕置き

 リリィ・ルフナが男、私が女役で貴族舞踊が始まった。リードする側ではないのでオリーブの時よりも楽だ。


 始まってすぐにリリィ・ルフナはオリーブよりも上手いと思った。足さばきに淀みがないし、添える手も私の腰を手前に引き寄せるようにして、傍から見ても映えるように身体の曲線美を際立たせてくれている。


 踊りの技術よりも驚いた事がある。いい匂いがするのだ。


 実力の披露で重たい鎧を着ても尚俊敏に動き回り剣を振っていたというのに、汗をかかなかったのだろうか。


 汗をかかなかったとしても、もう夜だ。お披露目会からずっとスケジュールが密に引かれていたので水浴びをする余裕もなかったはず。


 それなのに、香水ほどキツくはなく、ほんのりと漂う花の香り。体臭なのだろうけれど、この世の人とは思えないくらいに品のある香りだ。


 もっと嗅ぎたくなってしまい、自然と彼女の鎖骨あたりに顔を埋める。至福のひと時だ。鼻腔を通り匂いを知覚するたびに脳内で興奮する何かが出ているみたいだ。


 興奮はより鼻の吸引力を増し、匂いを強く感じさせる。それが更なる興奮を呼び起こす無限ループに突入した。踊りは体が覚えているので勝手に動くし、リリィ・ルフナのリードが完璧なので力を抜いているだけで良い。


 匂いの出どころを探して鎖骨の辺りを鼻でウロウロする。左に行けば弱まり、右に行けば強まる。今は彼女の右側に顔を埋めているので、脇の方から匂いが出ているのだと分かった。


 こっそり、バレないように顔を少しずつ右に寄せていく。腕の付け根の、その隙間に近づいていく。匂いは少しずつ強くなっていくが、本体はこんなものではないのだろう。


 だが、鎖骨の途中で私の旅は打ち切られた。どうやらお手本の披露は終わりらしい。私はお預けを食らった犬のような気分にさせられてしまったので、さぞ恨めしそうにリリィ・ルフナを見ていることだろう。彼女はそんな事を意に介さないように笑う。


「さて。お手本はもう十分ね。皆さんも身分を気にせずに全員と仲間として交流してくださいね」


 それだけいうとリリィ・ルフナは貴族の輪から離れてまた平民ゾーンに戻っていった。私も気まずいので平民ゾーンに戻り、メリアの横につける。


「リリーちゃん、お帰りなさい。災難だったねぇ。大丈夫だった?」


 心の底から心配してくれているらしい。濃い眉毛の尻の方を下げて私を見てくる。


「え……えぇ。ちょっと意地悪されたけれど、リリィさんが助けてくれたの」


「そうなんだ! リリィさん、格好良いねぇ。あ、でもそもそもはリリィさんが蒔いた種だよね。リリーちゃんを貴族の方に連れて行ったのってリリィさんだったし」


 すっかり匂いにほだされて忘れていたがそうだった。リリィ・ルフナがあんな事を言い出さなければ私があんな思いをすることも無かった。


 自分で蒔いた種が成長した頃合いを見計らって自分で収穫しただけ。本来ならプラスもマイナスもないはずなのに、私の中では勝手にリリィ・ルフナにプラスの感情が芽生えていた。


「言われてみれば……私、騙されるところだったわ。あの人も抜け目ないのね。こうやって周囲の点数を稼いでいるのかも」


「うんうん。皆が味方とは限らないからね。あ、私は大丈夫だよ! 蹴落とすならリリーちゃんじゃなくて、もっと上の人を狙うから」


 チラリとメリアの腹黒い部分が見えてしまった。彼女も予選を突破してこの最終選考に来ているのだ。目指すのは勇者の肩書。


 他の人を蹴落としてでも上に這い上がりたいという気質を持っていて当然だ。だが、ポワポワとした声のトーンと雰囲気からそんな言葉が出るので少し驚いてしまった。


 言葉が続かないので会場を見渡す。リリィ・ルフナの願いも虚しく、貴族ゾーンを飛び出たのは彼女だけ。逆に平民ゾーンを飛び出たのも私だけという有様だった。


 彼女はそれでもひたむきに顔見知りでない人に積極的に話しかけているようだった。狙いが分からずに私はただ彼女の匂いを思い出しながら、その姿を眺めることしか出来なかった。




 パーティが終わるとやっと宿舎に移動出来た。宿舎とは言うが、国が音頭を取るイベントなのだ。一流ホテルを貸し切っているようで、四人でも五人でも横に並んで通り抜けられそうな広い横幅のドアをドアマンが押さえている。ドアの近くに座っている酔っぱらいのおじさんがサービスで開けてくれる酒場とはまるで違う雰囲気だ。


「うわぁ! すっごいお屋敷……」


 横にいるメリアが高い声で歓声を上げる。当然、貴族の娘達は慣れた光景だと言いたげな態度でズカズカと進んでいく。ここでも首を回しているのは平民の私達だけだった。


 中も立派なもので、ロビーから細やかな装飾が施されたソファや椅子が並べられていた。天井に吊るされたシャンデリアから放たれる光を反射するのが仕事とばかりにどの用度品も光り輝いている。


 階段を登って自分の部屋に行く。どうも十一位までは一人部屋で、それ以下は二人部屋らしい。私はメリアと同部屋だ。変な人でなくて良かった。


 部屋は普通の宿屋と同じくらい殺風景だった。木目調のテーブルに白いシーツのベッドが二つ。これが天蓋付きの豪華なベッドだったりしたら、逆に寝られなさそうなので安心する。


「リリーちゃん。お風呂行かない?」


 荷解きもそこそこにメリアがお風呂に誘ってきた。大浴場が入り放題らしいのだが、なんとも贅沢な宿舎だ。大臣の娘が泊まるのだからそれなりのグレードなのだろう。


「着替えを済ませたら行くから先に行ってて」


「はーい! じゃあまたお風呂でね!」


 メリアはいつの間にか平服に着替えて風呂に行く準備を整えていた。私も急ぎ目に平服に着替えて準備を整える。かんざしに髪の毛が絡まっていて、鏡の前でゆっくりとほどきながら取る。何本か髪の毛が切れてしまった。


 ついでに化粧も落として準備は万端だ。風呂を堪能するために部屋を出て長い廊下を歩く。


 同じような扉がひたすらに続くので迷いそうになるが、部屋の前にある表札で何とか判断はできそうだ。


 二つ隣に東洋系美女のラン・ロンジンの部屋があったので順位は関係ないようだ。


 曲がり角に差し掛かる。端の部屋はリリィ・ルフナの部屋らしい。宿舎から出るには全員がこの前を必ず通るので、ゴシップは仕入れやすそうだ。そんな大声で話す馬鹿はいないだろうけど。


 私が部屋の前を通りすがったところで丁度リリィ・ルフナの部屋の扉が開いた。


 挨拶くらいはしておこうと首を回すと、いきなり腕を掴まれた。ものすごい力で部屋の中に引きずり込まれる。


「えっ!? いっ……ちょ……」


 抵抗する暇も与えられず、そのまま壁に押し付けられてしまった。リリィ・ルフナは器用に細長い足を伸ばし、扉と鍵を締めている。彼女に似つかわしくない、品のない動作だ。どうやら殺される訳ではないらしい。


「あ……あの……何でしょうか?」


 リリィ・ルフナは不敵な笑みを浮かべ鼻で笑う。


「変態にはお仕置きが必要でしょ?」

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