表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/89

二の矢

 リリィは、ネリネの怪しい態度がこの件と絡んでいると踏んだらしい。


 外に見張りに立たせていたネリネを引き込んで自白させる。そんな舞台が整った。


 私はリリィの指示に従って死んだフリをする事になった。私の頭の怪我は既に血が固まり始めていたので、リリィが自分の血を床に撒き散らし、その血溜まりの上に死体役として私が寝転がる。


 いくらリリィの体内から出たものとはいえ、血の上に寝転がるのは気が引けたのだが、そんな我儘を言っている場合では無い。包帯を腕に巻くリリィを見たのを最後に、目を瞑り死体となる。


 コハとサワは後ろで手を組ませ拘束し、ランが監視している。


「ネリネ! 降りてきて!」


「は……はいっす!」


 リリィの呼びかけに応じてネリネが恐る恐る屋根から飛び降りてきた。


「リフィさん? 嘘……」


 目を瞑っていても、ネリネが口を手で覆い絶句している様子がありありと浮かぶ。こんな騙すような事をして申し訳ない気持ちになるがリリィには何か思い当たる節があるようなので従うしかない。


「ネリネ。貴女のせいで……リフィは死んだわ。貴女が裏切ったからよ。何故……何故こんな事をしたの?」


 リリィの演技力も凄い。声を震わせ、時折鼻を啜っている。まるで最愛の恋人が死んだ時のような悲しみ方だ。本当に私が死んだ時もこのくらい悲しんでくれるのだろうか。


「私は……私は……違うっす。私はしてない……こんな事……ただ……言われただけなんす……」


 私が死んだ。そんな現実から目を背けるようにネリネはボソボソと話している。一刻も早くネタバラシをしないと彼女の心に傷が残りそうで起き上がりたい衝動に駆られるが、あと一歩でネリネが陥落しそうなのでそれも出来ない。


「何を言われたの?」


「門の鍵を開けるように……それだけっす。リフィさんが殺されるなんて知ってたら……やりません……」


「貴女が門の鍵を開けたからこうなったのよ。知らなかったでは済まされないわ」


「そ……そんなこと……」


「誰に言われたの? 教えなさい! この二人のどちらかなの!? 私はそいつを許さない。ドラゴンも何もかもどうでも良い。今すぐにそいつを同じ目に遭わせて殺す。その後は貴女の番よ。共犯者を言えば許してあげる」


 リリィの迫真の演技にネリネは号泣している。


「違う……違うんす……私は『二の矢』だって。本当にそれしか知らないっす……」


「ネリネ……誰に言われたの!? 言いなさい!」


「お……おい。リリィ、落ち着けって。首が絞まってるって!」


 リリィの演技が更に迫力を増す。最早演技とは思えない程の声量と迫力で、ピオニーとランが慌てて止めに入っているようだ。


 啜り泣く声。だがネリネのものではない。急にやってきた静寂に好奇心が抑えきれず髪の毛の隙間から薄目で除くとリリィがへたり込んで顔を手で覆っていた。泣いていたのはリリィだったらしい。


「私の父なのね……ネリネ。そうなんでしょう?」


 リリィは顔を覆ったまま、掠れた声でネリネに尋ねる。ネリネは申し訳無さそうな顔をして頷いた。


「リフィ、もういいわ。起きて」


「あ……はい」


 リリィの掛け声で立ち上がる。


「い……生き返った!?」


 ネリネは腰を抜かして私を見ている。私が死んだものと信じ切っていたようだ。


「死んだフリをしていただけよ。ネリネ、騙してごめんなさい」


「ひぃぃ! お化けが話した!」


「だから違うって……」


 私が一歩近寄ると、ネリネは二歩分の距離を後ろ向きに這って下がっていく。怯えているネリネが可愛くて、私も不気味に笑いながらネリネに詰め寄る事をやめられない。


 壁に追い詰められたネリネの精神は限界に達し、気を失ってしまった。


「リフィ、やりすぎだぞ」


「ご、ごめんなさい。つい……」


 ランは注意しながらもニヤけを隠そうとしない。私と同様に楽しんでいたようだ。ネリネは反応がストレートなのでついいじめたくなってしまうのだ。


 気絶したネリネの介抱はピオニーに任せ、まだ俯いているリリィに近づく。


「リリィさん。どういう事ですか? リリィさんのお父さんが仕組んでいた? 何故ですか?」


 リリィは大きく溜息をついて顔を上げる。質問攻めにされて呆れたというよりは、気持ちを切り替えるためだろう。


「『常に二の矢を継げ』というのが父の口癖なのよ。何かを行う時はプランを二通り持っておけ、という意味ね」


「それでネリネに命令したのが親父さんって気づいたのか。それにしても不用意だな。なんでこんなバレバレな作戦でやってるんだよ」


 ランが真っ当な指摘をする。普段は馬鹿そうなのに、時たままともな事を言うので興味のない事を敢えて聞き流しているのだろう。


「まぁ……そうね。そこは目的によるわ。ちょっと、そこの二人! コハとサワだっけ? 私を誘拐したらどうするつもりだったの?」


「何もしねえよ。ただ二ヶ月くらい監禁しろって命令でな。二ヶ月経ったら身代金って名目でアンタと金を交換して終わりって話だったんだ」


 大金の入ってくる話だったのだろう。コハは口惜しそうにそう言う。


「二ヶ月……今から二ヶ月も経てば勇者オーディションは終わっているわね……」


 リリィはボソボソと話しながら一人で何かを考えている。


「途中で行方不明になったら勇者オーディションはどうなるんですかね。やっぱり棄権ですか?」


 思考を遮られたリリィが私の方を見てくる。別に一人で考え抜くつもりもなかったようで、私の方を見てくれた。


「まぁ……いない人に投票してもね。確か、一回目のオーディションで駆け落ちした二人がいたけれど、棄権扱いになっていたはずよ」


「初回って男女混合だったから色々と揉め事が多かったらしいですね」


「あら。女だけでも揉め事は尽きないわよ」


「まぁ……そうですね」


 私達の事を揶揄しているのかと思いドキッと胸が反応する。


「そんな話じゃないのよ。父が何をしたいのかって話」


 リリィが話の脱線を食い止め、本来の話題に軌道を修正して続ける。


「父の狙いは、私を勇者オーディションから辞退させる事でしょうね。私に一切話をせずに婚約の話も進めていたし、とにかく厄介払いしたがっているもの。これから家を継ぐ兄達よりも目立ってほしくないのよ」


「リリィさんをオーディションが終わるまでここに監禁しておくつもりだったって事ですか?」


「そうでしょうね。この二人はネリネとは共謀していないみたいだから、第一の矢はこの二人による拉致。メイドとして内部に潜入させたのも父の手配でしょうね。第二の矢は内部担当がネリネ、運搬役は外から見張ってる別のチンピラでもいたんじゃないかしら。どちらも誘拐が成功すればそのまま二ヶ月の間監禁する。ネリネのパートナーは第一の矢が成功したように見えたから撤収した、ってところかしらね」


 リリィは父親が立てていた作戦を予想しながら今日の出来事を整理していく。


「なんだか……一国の大臣がやるにしては姑息と言うか杜撰と言うか……」


「そうね。誘拐は成功すれば御の字、くらいじゃないの。表立ってやれる事でもないからね。もっと大きく捉えるなら今回の誘拐計画全体が第一の矢。ネリネ経由でメッセージを伝える事が第二の矢ね」


「メッセージ……ですか?」


「父は、『お前の勇者当選を必ず妨害する。そのために私は誰でも動かせる』と言いたいんじゃないかしら。現にネリネがこうやって意のままに動いていた訳だしね。とにかく私に諦めさせたいのよ」


「こんな回りくどい事をしなくても……親子なんだから話をすればいいじゃないですか」


「父と話をして、止めろと言われて止めるように見える?」


 リリィがジっと私を見てくる。その答えは十分すぎる程に分かっている事だ。


 リリィは絶対に自分を曲げない人だ。好きだと言っている人が言葉を求めても、自分が下らないと思えば与えないような人なのだから。


「ネリネは何でリリィさんのお父さんに従っていたんですかね。勇者になりたくないっていうのは分かりますけど、だからってリリィさんを陥れても関係ないですよね」


「それは本人に聞きましょうか」


 リリィはそう言ってネリネの方を見る。丁度ネリネが「うぅ」と呻きながら目を擦り、起き上がっているところだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ