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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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仲間割れ

 他のチームが作られていくのを他所に私達は円になって内緒話を始める。私達のチームにとって致命的な弱点が見つかってしまったからだ。


「魔法が使えないだぁ? 冗談はやめてくれよ」


 ランはネリネが適当な冗談を言っていると思ったようだ。私もそう思いたいのだけど、心当たりがいくつかある。


 ネリネとリリィと三人で風呂に入った時、魔法で髪を乾かして欲しいというリリィのリクエストから逃げていた。その時はリリィが気になっていて恥ずかしかったのだろうとか思っていた。


 市場で市民に囲まれて逃げた後にローズの店に行こうとなった時も、オリーブが全員に魔法をかけていた。


 そんな些細な違和感が繋がり、ネリネの言葉に納得感を持たせる。彼女は、魔法を使う事を避けていた。


 だがそれは私がネリネと接触した数少ない機会における話だ。他の皆はネリネと同じチームで『依頼』をこなしていた。一度も魔法を使わずに乗り切るなんて出来るはずがない。お披露目会の魔法は何だったのかという話にもなる。


「そうだったのね……確かに、一次審査の『依頼』は魔法を使うほどの事でも無かったものね。オリーブに気を使って魔法を使わないだけだと思っていたけれど、まんまと騙されたわ。お披露目会はどうしていたの?」


 リリィは一人で納得している。貴族界隈のボスであるオリーブと新興貴族の娘のネリネは反りが合わなかった。それを理由に最初の方は力を抑えていたとリリィは考えていたらしい。


「あれは……父ちゃんっす。と言いますか、ずっと裏で父ちゃんが魔法を使って、私が使えるフリをするって計画だったんすけど、喧嘩しちゃいまして……」


「じゃあすぐに仲直りしてくれよ。皆のためにもな」


「無理っす!」


「何でだよ!」


 ランがネリネに詰め寄る。ランは気が短く、すぐに手を出しそうなのでリリィが慌てて間に入りネリネを守る。強大な盾を手に入れたネリネはリリィの脇の隙間から顔を出し強情に突っぱねた。


「絶対に無理っす! 私は自由になりたいんです!」


「はぁ? 自由? 勇者になりたいんじゃないのかよ?」


「なりたくないっすよ! 勇者を辞めたあと『元勇者の魔法使い』って触れ込みで貴族に嫁ぐなんて絶対に嫌っす!」


 前に宿舎の中庭で話していた時もそんな事を言っていた気がする。父親に従ってここまでやってきたけれど、ネリネも自我が芽生え父親と衝突。結果、父親も匙を投げ魔法の援助も無くなったと言う事らしい。


 聞き分けの良い妹キャラだったネリネが頑として仲直りに関して首を縦に振らないので全員頭を抱えてしまった。


「そういえばリリィもネリネの兄貴と婚約したんだよな? あれはどうなったんだ?」


 話が膠着したのでランが思い出したようにリリィへ話を振る。


「今は保留よ。勇者になったら無期限延期。つまり白紙ね。新聞はオーディション以外の記事もきちんと読む事をお勧めするわ」


 あまり触れて欲しくない話題だったのか、リリィは冷たく切り返す。ランも「へいへい」と軽く受け流していてあまり良い空気ではない。


「はぁ……リリィもランも強いからあまり心配はしていないけれど、戦いやすい魔物を選びましょうね」


 ピオニーは先行きを案じているのか、やれやれという感じを出しながら話を終わらせた。


 チーム内で揉めているうちに六チームの編成が終わったようだ。一次審査の時は貴族は貴族、平民は平民と分かれていたが、人数も減った事と戦闘が主軸になる審査なので魔法使いの取り合いになったらしい。


 メリアも治癒師としての需要があったようで、オリーブや、ランと同郷のレンのいるチームに拾われていて一安心だ。


『それでは討伐する魔物を発表いたします!』


 いつの間にか私達の目の前には垂れ幕のかかったボードが用意されていた。ヒースの掛け声で垂れ幕が取り払われ、中身が顕になる。そこには、六種類の魔物の絵が張り付けられている。魔物の絵の上には星印が一から五個までつけられているので難易度を表していると理解できた。


「ゴブリンの群れは簡単そうね。ドラゴンはポイントが高いけれど、私達では難しそう。剣が鱗に勝てるか分からないわ」


 リリィが真剣な眼差しでボードを見つめている。私にはどの魔物がどんな特徴を持っていてどのくらい強いかなんて全く分からない。


 ドラゴンを見た事は無いし噂話でしか聞かないけれど、気まぐれで山から下りてきて村を焼き尽くすだの、出会ったら運が無かったと思えだのと良い話は聞かない。生きているうちにドラゴンの被害に遭う人なんて一握りらしいので、希少な生き物なのだろう。


「リリィさんって魔物と戦ったことがあるんですか?」


 リリィの思考を邪魔したようで、一拍おいてから私の方を見てくる。


「無いわ。私達のチームは誰も無いんじゃないかしら」


「私はあるぞ。つっても森から出てきたワイルドベアーくらいだけどな。わざわざ自分から戦いには行かないよな」


 ワイルドベアーは私の地元でも畑を荒らしに来るので見た事がある。基本的にギルドに討伐依頼を出してやっつけてもらっていたのでそれなりに危険なのだろう。


「ゴブリンの群れで良いんじゃないの? ポイントが低いって事は簡単なんでしょ?」


「そうだけど……ネリネが強い魔法使いって話なのにこのメンバーでゴブリンは少し見劣りするわね」


 ピオニーの提案に対してリリィは首を縦に振らない。課題のクリアだけを目的にすればゴブリンが良さそうだけど、取り組む姿勢の国民の評価、投票への影響を考えると格好悪いところは見せられない、といったせめぎ合いなのだろう。


「あれ? ネリネはどこだ?」


 ランが思い出したように辺りを見渡す。さっきまで輪の中にいたネリネがいつの間にかいなくなっていたのだ。


「あ! あいつ前にいるぞ! もう取りやがった……おいおい……それだけはやめろ……うわぁ……マジか」


 一番にネリネを見つけたのはランだった。ネリネは私達がどれを取るべきか考えている間に一人で前に出て魔物を選んでいた。私達の議論は一切聞いていなかったらしく、ネリネが選んだ魔物はドラゴン。高ポイントだが、即ち高難易度と言うことになる。


「あの子……何を考えているのかしら……」


 リリィもネリネの行動に翻弄されているようで頭を抱えている。


 ネリネは得意げな顔と勇み足でドラゴンの絵を抱えて戻ってくる。


「お待たせしたっす! これが一番高ポイントだったので……」


「何を考えているの? ネリネは魔法が使えないんでしょう? 誰がドラゴンを倒すの?」


 ピオニーは努めて平静を保ちながらネリネを問い質す。


「わ、私何かしましたか? 一番ポイントが高い奴を皆で倒せば良いんですよね?」


 ネリネはすっとぼけているのか本当に天然なのか分からない返しをしている。


「まぁ……今更変えてくれなんて言えないわ。どうしたら倒せるのかを考えましょう」


 戦闘能力がほとんど無い私からすれば、リリィが腹を括ったのであればついていくしかない。


 いや、私にも出来る事があった。


「あ……あのぉ……」


 ネリネの天然ボケでドラゴンと戦う羽目になりチームの空気は最悪だ。恐る恐る手を挙げると皆の視線が私に集まる。


「実は、踊りで力を増強出来るんです。とにかくリリィさんとランに頑張ってもらうしかないんですけど、少しは手伝えるかもしれないです」


「なるほどね。魔法に比べてどのくらい効き目があるのか検証してみたいわ……とりあえずヒースの話を聞きましょうか」


 全チームが戦う魔物の選択を終え、ヒースがまた話し始めるところだったので一旦話が打ち切られる。


『魔物との実戦経験がない方も多くいらっしゃるかと思います。そこで今回は二週間の訓練期間を設けます。移動や休息も含めるので三週間後に、王都からほど近い草原で二次審査を実施いたします』


 今すぐ戦えという事ではないとは思っていたけれどかなり時間を割いてくれるらしい。皆も安堵のため息をつく。


『それでは皆様の検討をお祈りしております。これにて解散』


 ヒースの掛け声で一同がホールを出て控室に向かう。


 観客から見えない廊下に差し掛かったところで急にリリィがネリネを壁に押し付けた。最後尾にいたため気づいたのは私だけだ。


「いっ……痛いっすよ」


「ネリネ。ふざけるのもいい加減にしなさい! 勇者になりたくないのは結構。だけど私達を巻き込まないで。貴女と同じように私も自由になりたい。そのためにここにいる。無気力で後ろからついてくるだけならまだしも足を引っ張るような事だけは止めて頂戴」


 最初は怯えていたネリネの目がリリィの言葉を聞くうち、徐々に曇っていく。最後にはまるでリリィを挑発するような目をして笑った。


「言いがかりは止めて欲しいっす。一番ポイントの高いドラゴンを最速で倒せば確実にボーナス票を獲得できるんですよ。最下位のリフィさんだって次に残る事が出来るかもしれない。何か問題でも?」


「ならなぜ魔法使いをもう一人取らなかったの? 自分が魔法を使えない上に、父親も助けてくれない。そんな状況ならもう一人魔法使いを取るべきじゃない? 私が貴女ならそうするわ」


「おい! リリィ、放してやれって。首、苦しそうだぞ」


 私達が付いてきていない事を不審に思ったのか、ランとピオニーも戻ってきた。三人で協力してリリィとネリネを引き離す。


「ランさん、ピオニーさん。リリィさんがいきなり襲ってきたんっす。一位の座を奪われたって……」


 さっきまでの挑発的な顔は鳴りを潜め、いつもの可愛らしい妹キャラに変貌して二人に助けを求めている。


 だが私は見ていたので知っている。リリィを貶めるつもりで演技をしているのは明らかだ。


 ランとピオニーはどちらかと言うとネリネを信用したようで、リリィに疑いの目を向けている。


「ちっ……違うわ! そんな事が理由じゃない! リフィも見ていたよね? 私はそんな事言ってない。そうでしょ?」


 リリィは明後日の方向から援軍が来たので慌てている。こんなに取り乱すリリィは見た事がない。だからこそ、ネリネに掴みかかった真意は別にあるとしても、心の片隅には一位を逃した事が引っ掛かっているようにも思えた。だが、ネリネの証言は冤罪を生みかねない。


「リリィさんはドラゴンを選んだことについて聞いていただけ。順位の話なんてしていないわ」


「はぁ……まぁ順位が落ちてイライラするのは分かるけどさ、ドラゴンと戦うのだってもう決まった事なんだから蒸し返しても仕方ないだろ。リリィだってさっきそう言ってたじゃねえか」


「とにかく仲良くしてほしいわね。仲間割れで人気が落ちるなんてごめんなの。このままいけば私達はずっと一緒に仕事をすることになるんだから」


 ランもピオニーもネリネの嘘の証言を咎めない。きっかけは別にあるとしても、順位の話がどこか引っ掛かっていると思ったのだろう。


 それに、今回の投票で一位のネリネ、二位のリリィ、三位のピオニー、四位のラン。このまま大勢が変わらなければ、私以外の四人が勇者となる人達だ。今後の事を考えてあまりしこりを残したくないというのもあるのだろう。


 話が途切れたタイミングで、ネリネは二人を両脇に従えトボトボと歩いていく。


 リリィはしばらくの間、信用してもらえなかったのが余程心に来たようで、俯いたまま「違う、違う」と発し続ける人形になっていた。いつもより細く見える背中を何度もさすろうとしたが、その度にリリィの腕に弾かれてしまうのだった。


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