別行動
メリア、ダリアと三人でチームメンバーの貴族の三人を探すと、掲示板のすぐ近くにたむろしていた。私達が近づいてくると半笑いで挨拶をしてくる。
三人とも、大きな荷物を持ってきている。まだ方針を決めていないのに郊外に行くつもりらしい。
「あ……あのぉ……郊外に行くんですか? 私達、他のチームより弱いので王都で頑張った方が良いと思いますけど……」
私の質問に貴族の一人が鼻で笑ってから答える。
「お父様の領地で活動するギルドへの挨拶回りがございますので。王都にいてもやる事は雑用ばかりでしょう? さ、早くどの順番で領地を回るのか決めませんと馬車が出てしまいますわ」
三人共、ギルドにコネがあるらしい。オーディションに脱落しても、加入先のギルドは決定しているようなものなのだろう。
私はリリィと一緒に過ごすために一次審査を勝ち残らなければならない。他のチームよりも時間をかけて魔物討伐の依頼をこなすくらいなら、王都で顔を売る方が何倍も票を得られるはずだ。
「わ……私は王都に残ります。このメンバーで魔物とは戦いづらいですし……」
「一番足手まといの貴方がそれを言いますの? まぁ……いてもいなくても変わらないので王都に残りたいならご自由に。ただ別れて行動する方針が許されるかが問題ですわね」
私が一番役に立たないのは分かっているけれど、客観的に見てもこのチームは弱い。心にグサリと刺さった棘を抜くように苦笑いをしていると、ヒースが近づいてきた。
「何やらお困りのようですね」
「ちょうど良かったですわ。私たち、別行動をしようと考えております。『依頼』達成時のポイントについてはどのようになるのか教えて下さいませんか?」
ヒースはこういう質問が来る事も想定していたようで、すぐに頷いて回答する。
「別行動は問題ございません。ただ、魔物討伐は五人で行う前提の難易度になっております。故にポイントも高い。魔物討伐には監視の者も付きます。補助についてくださるギルドの方の手伝いが度を越えたとなると、ポイントは割り引いて算出されますのでご承知おきください」
ギルドにコネのある貴族が集まって魔物討伐の『依頼』を大量に受注して実際の仕事はギルドに丸投げ、なんて事態にならないようにしているようだ。三人でいくら頑張っても満点を貰える訳ではないらしい。もっとも、この人達は魔物討伐よりも挨拶回りが大事らしいけど。
追加の質問がないか確認するとヒースは別のグループに顔を出しに行ってしまった。
「では、踊り子さんは王都でお留守番ですわね。後のお二方は?」
「私も王都に残ります。リリーちゃんと一緒が良いので」
「じゃあ私も残るわね。一人でお嬢様三人の荷物もちなんて御免よ」
メリアとダリアも王都に残るらしい。メリアは予想通りだけど、ダリアまで残るとは思わなかった。
「分かりましたわ。国民の皆様に奉公なさってくださいな。それでは、御機嫌よう」
大きい荷物をフラフラと引きながら三人はホールから出ていった。残った二人を見るとイライラを隠しきれないような顔をしている。
「はぁ……何なの!? あの何でも頭ごなしに決めてきちゃう態度。イライラするわ」
「だよねぇ。でも羨ましいなぁ。もうギルドに加入出来るのは確定なんだよねぇ。わざわざオーディションに出なくて良くない?」
「箔付けでしょ。貴族様はいいわね」
ダリアとメリアは意気投合したように今しがた立ち去った貴族の悪口を言う。
でも私にはそうは思えなかった。リリィの話を聞いたからだ。彼女達の真意は分からないけれど、荷物を運ぶのもやっとな貴族のお嬢様がギルドの一員として魔物討伐に精を出すのだからそれなりの理由はあるのだろう。
例えば、親の言いなりになって他所に嫁ぎたくはない。けれど、投票は下位なので勇者となる道、実力も他の人に比べると負けているので有力なパトロンを見つける事も出来ずギルドを経営する側に回る道のいずれも取れないから、仕方無しにギルドの一員として命を危険に晒しながら汗水を垂らして働く、みたいな背景だ。
「とりあえず『依頼』を確認しない? 悪口を言ってる暇があったら動きましょうよ」
「その顔、まるでどこかの銀髪のお嬢様みたいね。似てきたんじゃない?」
ダリアがニヤリと笑う。リリィと話すことが多いので話し方や考え方が似てきたのだろうか。私はただ一次審査を突破するのに必死なだけなのだが。
「そっ……そんな事ないです! 勝ち残るためにやるべき事をやるだけですから」
「そうね。まぁ……私も腕を折られた訳だし、例の件はおあいこね。それで良い? 今度こそ水に流して頑張りましょうね」
ダリアがさっきまで吊られていた腕を曲げて手を差し出してくる。この手を取るべきか迷ってしまう。ヒースの説明してくれたルールであれば、わざわざダリアと共に行動する必要はない。
ダリアは三人の中で唯一の魔法使いだ。彼女とは協力した方が『依頼』をこなす上でもポイントを稼げるかもしれない。許せとは言われていない。ただ、水に流すだけだ。それだけで私が一次審査を通過出来る確率が上がる。
それに、わだかまりを残したまま事を進めるのは何だかモヤモヤしてしまう。
よって、実利、感情、どちらの面でも断る理由はなかった。ダリアの手を取るとニッコリと笑って握り返してくる。
「さ、行きましょ。手始めにこれにしましょうか」
ダリアが仕切るらしい。一番年上のようだし私もメリアもそういう人柄ではないので任せる事にした。
掲示板を軽く眺めたダリアが一枚の紙切れを掲示板からもぎ取ると手招きされたので横からメリアと覗き込む。
「棚の修理? ダリアさん、大工なの?」
メリアがきょとんとした顔で尋ねる。
「そんな訳ないでしょ。王都内の『依頼』のポイントはどれも似たようなものだったから楽そうなやつを取っただけよ。まぁ私が魔法で力を増強できるから、そこらの男よりは早く仕事が終わるわよ」
掲示板には新装開店するパン屋のビラ配りのような簡単なものもあったし、どうせならそういう仕事が良かった。人の往来の多い場所なら顔を売れるからだ。
リーダーをダリアに任せた事に不安を覚えつつ三人で依頼主の家に向かうのだった。




