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自己紹介

 服を脱がされ、下着姿でベッドに横たわる。


「そのまま仰向けのままでいるのよ」


 私に馬乗りになっていたリリィは一旦ベッドから降りて酒の瓶を持ってきた。


「あ……あの……それで殴らないですよね?」


「痛いのは嫌いなんでしょ? それともそっちに目覚めちゃったの? 幼子のように何でも吸収するのね」


「ち……ちがいます! ちょっと怖かったので……」


「痛い事はしないわ。でも、少し冷たいかもね」


 そう言うと酒瓶の蓋を外し、ゆっくりと私のヘソに酒を注ぎだした。確かに少しひんやりとする。顎を思いっきり引いてヘソの様子を確認しようとしたけれど胸が壁になってよく見えない。


「なんて顔をしているのよ」


 リリィが私の顔を見て吹き出す。顎を引いたところを見られていたらしい。


「じゃ、動かないでね」


 リリィは長い銀髪を耳にかけた。片方に寄せた方が楽そうだけど左右対称が崩れるのを嫌ったのだろう。


 何が始まるのか期待と不安でリリィの方を見ていられずに天井を向く。


 そのままリリィはペロペロと犬のように私のヘソから酒を飲み始めたようでヘソのあたりがくすぐったくなる。奥に残った一滴すら逃さないように舌が入り込んでくる度、くすぐったさで身をよじる。


 味がしなくなったところで注ぎ足しては何度も奥まで舌を入れ込んで酒を味わっている。気持ち良いというよりはくすぐったい感覚が勝る。これだとどちらがペットなのか分からないくらいだ。


「体を起こして。少し脚を閉じるの」


 リリィの指示通りに体勢を変えると今度は私の股にできた窪みに酒を注ぎ始めた。


「い……いや……汚いですって!」


「飲むのは私よ。文句ある?」


 リリィは酔っているのか顔が赤いし言葉も少し乱暴になってきた。断る前に酒を注がれたので仕方無しに溢れないように腿を内側に締める。


 リリィの顔が目の前に迫ってきた。目は妖艶に弧を描いている。少し酒の匂いがきつい。目もただ酔って据わってきただけだった気もしてきた。


「ただ飲んでるだけっていうのも暇だから話をして頂戴。貴女の生い立ち、故郷の光景、なぜ踊り子になったのか、初恋はいつか、何でもいいわ。私に貴女の事を教えて」


 少しだけ笑うとリリィは私の内腿に顔を埋めてペロペロと酒を飲み始めた。途中、息継ぎの度に内腿を舌先で擦ってくるのでヘソよりは気持ち良い。


 自分の事を話せと言われても何から話せば良いのか分からない。とりあえず家族の紹介でもすれば良いのだろうか。


「家族はお婆ちゃんとお母さんとお父さんがいます。お爺ちゃんはお父さんが小さい頃に魔物に襲われて死んだらしいです。お婆ちゃんとお母さんは踊り子で、お父さんはギルドに所属して出稼ぎに行ってます。たまに手紙は来ますけど、ほとんど会ったことはないです」


 リリィは一心不乱という感じで私の脚を舐めている。酒が無くなったようだが全く気にしていないようだ。


「あの……聞いてます?」


 リリィは顔を上げずに太腿にしゃぶりついたままモゴモゴと喋る。


「当たり前でしょ。話せと命令したのは私なのよ。それで聞いていないなんてあり得ないでしょ? 下らない事を気にしていないで続けて。何故、貴女は踊り子に?」


「えぇと……理由っていう程のものじゃなくて……親もお婆ちゃんも踊り子でしたから。小さい頃から踊ったら褒めてくれたんです。それが嬉しくて……」


 私はただ流されるように生きてきた。少し容姿に自信があったので応募したら、こんな場違いな所に来てしまった。リリィのように強い目的意識を持って生きてきた訳ではない。なんだか私の脚を舐めているだけの人のはずなのにすごい人に見えてきてしまう。


「でも、私なんて……」


 リリィの動きがピタリと止まる。


「私が一度言った事は忘れないで。今この瞬間、貴女は世界で一番美しいのよ。『私なんて』という言葉は似合わないわ」


「す……すみませんでした」


「じゃあ続けて。どんな風に成長してきたの?」


 リリィはそう言うと私という盃に酒を注ぎ足してまた飲み始めた。結構強いのだけど明日に響かないのだろうか。


「えぇと……踊り子の家系というだけで小さい頃から冷やかしというか……男の子からはからかわれてました。女の子はもっと大きくなってからその意味を知ったみたいで少しずつ余所余所しくなっていった人もいました」


「見る目のない男達ね。昔から優しくしておけばこんな美女が捕まえられたというのに」


 いちいち褒めてくれるので心がくすぐったい。だがリリィに褒められると自尊心が満たされる。お洒落をして王都を練り歩きたくなる。


「お婆ちゃんもお母さんも踊り子を恥じる事はなくて、むしろ誇っていました。だから、私もからかわれてもへこたれなかったのかもしれないです」


「そういう芯のある人は好きよ」


 リリィが求めている人は、自分の足で立てる強い人なのだろう。いくら世界一の美女とはいえ、周りに守ってもらってばかり、流されてばかりの私ではリリィに認めてもらえない。


 そんな辛い現実から目を背けるようにリリィの髪を撫でる。柔らかい髪なので、指を立てて手櫛をすると綺麗な銀髪はスルスルと指を避けていく。何度も頭頂から首筋辺りまで指を往復させたが一度も指が引っかかることはなかった。


 リリィも満足したのか、小さくゲップをすると体を起こす。


「明日は早いから寝るわね。おやすみなさい」


 盃に挨拶をするとリリィはベッドの壁際に寝転がり寝息を立て始めた。恋人であれば自由で横暴な態度だと咎めるだろうけど、ただの盃である私にはそんな権利はない。


 酒でヒタヒタに濡れた下着が気持ち悪いので脱いで床に落とした。おおよそ布とは思えないビタッという音を立てたがリリィは微動だにしない。


 リリィの寝顔は童話に出てくる茨に囲まれた城で永久の眠りにつく姫のように美しい。もう一度髪を撫でたいと思ったが、もっと色々できる気がした。私を守るという観点では如何なものかと思うが酔もあってリリィは熟睡しているように見えたからだ。


 髪をまとめて横に流し、顔をゆっくりと近づける。私から能動的に唇を奪うチャンスだ。


 もう少しで唇が触れ合うという距離感のところで、ピッタリと閉じられていたリリィの目が開く。何と誤魔化そうかと考えている間に私とリリィの上下関係が入れ替わり、私は天井を向いていた。


 首筋に何か冷たいものが当たっている。枕元に隠し持っていたナイフだと気づくのに時間はかからなかった。どうやら熟睡しているように見せかけて最大限の警戒をしていたらしい。


「何をしていたの?」


「あ……いやぁ……ほら! 熟睡してるみたいだったし、誰かが襲いに来たら危なそうだったので……テストです」


「ならもう安心ね。分かったでしょう?」


 少しだけ首筋に当てられたナイフが動く。死と隣り合わせの状況下で、私の顔はさぞかし引き攣っていることだろう。


 頷くとナイフで切れそうで怖いので目だけで何度もリリィに合図を送ると、ニヤリと笑って離れてくれた。リリィはまた眠り姫のように目を瞑って横になる。だが、口が動き始めたので起きている事が分かる。


「一次審査を突破したら……少しだけ私の心を貴女に上げてもいいわよ。唇も欲しければどうぞ」


「え……本当ですか!?」


「だから早く寝なさい。私も安心して寝られないじゃない。今この部屋で一番危険なのは貴女よ」


 私の心はリリィの嫌味も気にならない程の高揚感に満ち始めた。一次審査をどうやって突破するのか。それだけに頭を使っていたが、私の浅い知恵では何も思い浮かばずに気づけば寝てしまっていた。

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